第7話 あさりの酒蒸し 2/5
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「で? どうしたのよ、急に」
ふたりで食べ始めてすぐに、私から切り出した。
聞くべきことがあるのに、関係ない話から入って様子を見るのは苦手だ。
「んー、それがねー」
野沢は言いにくそうに言い淀み、黙ってしまった。
「どっから話したらいいんだろ」
言い淀んではいるが、ごまかそうとはしていなかった。
こういうところが、好きではある。
野沢佳奈
高校の同級生。
168センチある私よりも少し高く、目鼻立ちのクッキリとした彫りの深い顔をしているため、よくハーフだかクオーターだかに間違えられる。
得意の英語を活かして、今は旅行社に務めているが、どちらかというとキャビンアテンダントの方がしっくり来る。
帰省したときは同級生5、6人で集まるが、2軒目、3軒目と行って、最後にはふたりきりでバーで飲んでいることが多い。
気を遣わない、気の合う友だちだ。
その野沢が、今日はやけに気まずそうに、本題を切り出せないでいる。
一度黙ってしまうと、話し出すのには勇気が要る。
私から、もう一度切り出した。
「先に聞いとくんだけど、明日、休み?」
「うん」
「そっか、じゃあ最悪、泊まっていけるね」
「いいの?」
「最悪の場合よ。基本、布団ないもん」
『ちょっとー! 聞いてないわよ!』
キッチンからチハルさんの声が聞こえた。
ごめん、チハルさん。
でもホント、最悪の場合だから。
「ありがと。じゃあ、終電までには絶対帰るつもりでいるね」
「うん。もう寒いし、そこそこ遠いから、余裕持って出な」
「うい」
「んで? どうしたのよ。男に振られた?」
「振られたのかな? わかんないけど」
「あ、そういう話?」
「……うん」
くそ。
彼氏いたのかよ。
付き合いが長いので、恋愛が話題になることも多かったし、その時々で、彼氏がいるとかいないとか、そういう話にはなったことがある。
あるにはあるが、「最近までいた」と聞くと、改めて自分との差を感じる。
「ま、別れたのね」
「そうなるかな」
「なによ。スッキリしないわね」
「ご、ごめん」
……なんだろう? この感じ。
いつもと少し違う。
別れた男のクソなところの話は聞いたことあるけど、こんな感じじゃなかった……
別れた直後だから?
野沢でもこうなるの?
なんだろう、この「エントリー抽選の段階で外れてるのに、レースに参加できた負けた人を慰める」不毛さ。
「付き合ってどんくらいだったの?」
「……6か月」
「今回は、けっこう短い方ね」
「そうねー。ん! うま!」
野沢がだし巻き卵を食べながら言う。
それにしても、こういうことでわざわざ人の家に押しかけるタイプだったろうか?
もちろん今までのお別れ話の中では、感傷的になったこともあったが、それは2年付き合って別れたとき、その1回だけだった。
野沢の場合、6か月で別れたなら、それを「見切りをつけることができた」と考えるタイプだ。
「なんかさー、男の人と付き合うって、意味わかんなくなってきたんだよね」
野沢が話題の核心に触れるようなことを言ってきた。
「そうなの?」
「うん」
野沢が缶チューハイをひと口飲む。
「ふーん。なんか、ごめんね」
「なにがよ?」
なにがだろう。
自分でもわからなかった。
なにを謝っているのか。
「いや、なんか、あんまりうまいこと聞けなくてさ」
「聞くのに上手とかないでしょ」
「うーん」
どうしよう。
もう,言っちゃおうかな。
「あのさ」
「ん?」
野沢がこっちを見てる。
「あたしさ、彼氏、いたことないんだよ」
「え? そうだよね?」
「え?」




