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第7話 あさりの酒蒸し 2/5


**********



「で? どうしたのよ、急に」


 ふたりで食べ始めてすぐに、私から切り出した。

 聞くべきことがあるのに、関係ない話から入って様子を見るのは苦手だ。


「んー、それがねー」


 野沢は言いにくそうに言い淀み、黙ってしまった。


「どっから話したらいいんだろ」


 言い淀んではいるが、ごまかそうとはしていなかった。

 こういうところが、好きではある。


 野沢佳奈

 高校の同級生。

 168センチある私よりも少し高く、目鼻立ちのクッキリとした彫りの深い顔をしているため、よくハーフだかクオーターだかに間違えられる。

 得意の英語を活かして、今は旅行社に務めているが、どちらかというとキャビンアテンダントの方がしっくり来る。

 帰省したときは同級生5、6人で集まるが、2軒目、3軒目と行って、最後にはふたりきりでバーで飲んでいることが多い。

 気を遣わない、気の合う友だちだ。


 その野沢が、今日はやけに気まずそうに、本題を切り出せないでいる。

 一度黙ってしまうと、話し出すのには勇気が要る。

 私から、もう一度切り出した。


「先に聞いとくんだけど、明日、休み?」

「うん」

「そっか、じゃあ最悪、泊まっていけるね」

「いいの?」

「最悪の場合よ。基本、布団ないもん」

『ちょっとー! 聞いてないわよ!』


 キッチンからチハルさんの声が聞こえた。


 ごめん、チハルさん。

 でもホント、最悪の場合だから。


「ありがと。じゃあ、終電までには絶対帰るつもりでいるね」

「うん。もう寒いし、そこそこ遠いから、余裕持って出な」

「うい」

「んで? どうしたのよ。男に振られた?」

「振られたのかな? わかんないけど」

「あ、そういう話?」

「……うん」


 くそ。

 彼氏いたのかよ。


 付き合いが長いので、恋愛が話題になることも多かったし、その時々で、彼氏がいるとかいないとか、そういう話にはなったことがある。

 あるにはあるが、「最近までいた」と聞くと、改めて自分との差を感じる。


「ま、別れたのね」

「そうなるかな」

「なによ。スッキリしないわね」

「ご、ごめん」


 ……なんだろう? この感じ。

 いつもと少し違う。

 別れた男のクソなところの話は聞いたことあるけど、こんな感じじゃなかった……

 別れた直後だから?

 野沢でもこうなるの?

 なんだろう、この「エントリー抽選の段階で外れてるのに、レースに参加できた負けた人を慰める」不毛さ。


「付き合ってどんくらいだったの?」

「……6か月」

「今回は、けっこう短い方ね」

「そうねー。ん! うま!」


 野沢がだし巻き卵を食べながら言う。

 それにしても、こういうことでわざわざ人の家に押しかけるタイプだったろうか?

 もちろん今までのお別れ話の中では、感傷的になったこともあったが、それは2年付き合って別れたとき、その1回だけだった。


 野沢の場合、6か月で別れたなら、それを「見切りをつけることができた」と考えるタイプだ。


「なんかさー、男の人と付き合うって、意味わかんなくなってきたんだよね」


 野沢が話題の核心に触れるようなことを言ってきた。


「そうなの?」

「うん」


 野沢が缶チューハイをひと口飲む。


「ふーん。なんか、ごめんね」

「なにがよ?」


 なにがだろう。

 自分でもわからなかった。

 なにを謝っているのか。


「いや、なんか、あんまりうまいこと聞けなくてさ」

「聞くのに上手とかないでしょ」

「うーん」


 どうしよう。

 もう,言っちゃおうかな。


「あのさ」

「ん?」


 野沢がこっちを見てる。


「あたしさ、彼氏、いたことないんだよ」

「え? そうだよね?」

「え?」



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