第6話 まぐろの山かけ 6/7
**********
映画館、4番スクリーン。
「Nの13と14……このふたつですよ」
「ありがとう。そっちでいい?」
「はい。どっちでも」
薄暗い中で、手にはポップコーンとドリンクが乗ったトレイを持ったまま座席番号を確かめて、勝村課長とふたり並んで座った。
私が右で勝村課長が左。
館内はかなり空いていた。
土曜の11時台って、こんなもん?
「けっこう空いてるね」
「そうですね……土曜日だし、親子で観るような映画に集まるんですかね」
「あー、それはあるだろうね」
『子どもが多いよりはいいわよね。静かに観れるんだから』
チハルさんが言う。
なるほど、確かにそうだ。
「ま、静かに観れそうでいいじゃん」
「そうですね」
ふたり並んで座って、会話する。
ものすごく、居心地が悪い。
別に勝村課長が悪いわけじゃないんだけど……
隣にいるのが男だったら、それが誰でも同じように感じるはずだ。
居心地が悪いからと言って、早速トレイのポップコーンを食べ始めたら、また勝村課長がからかってくるに決まってる。
……とりあえず、両手をからにしよう。
それはそれで手持無沙汰になって、余計に居心地が悪くなるのだが、このときはそんなことは考えなかった。
ポップコーンとコーラを乗せたトレイを、左側のホルダーにセットする。
セットしようとしたとき、勝村課長が私の左手の上から、右手をかぶせて触れた。
「あぁ、ごめん」
その瞬間、体中に桃色の電流が走った。
「ごめんね、手が当たったのはわざとじゃないんだけど、須藤さんが間違ってるよ。使うのは右側のホルダー。ほら、書いてるでしょ、そこに」
『この子、聞こえてないわよー』
私の代わりにチハルさんが、聞こえない声で勝村課長に返事をした。
**********
約100分の映画が終わり、逃げるように勝村課長と別れた。
「あいつにはちゃんとふたりで観れたし、すぐに解散したって報告しとくから」
勝村課長がそう言ってくれたので、月曜日に改めてお礼を言えばいいだろう。
それ以外にはどうしようもない。
連絡先を知らないのだ。




