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第6話 まぐろの山かけ 5/7



「須藤さんは? どんな映画好き?」


 勝村課長が質問してくれるので、気まずい沈黙にはならずに済んだ。


「えーっと、そうですね。ベタに話題作とかですかね。ディズニーとか、ハリポタとか、ハリウッド感あるやつ」

「うわ! 最悪だ!」

「どうした?」


 唐突に山本課長が叫び、勝村課長が反応した。

 山本課長が自分のスマホを見ながら、ポツリと言った。


「母親から……ギックリ腰だってさ」


 え?

 大変じゃん。

 うちのお父さんも2回くらい、そんなこと言ってた気がする。

 ヘルニアだったかな。

 違いはよくわからないけど。


「マジで?! なんかお前さ、去年もそんなこと言ってなかった?」

「あぁ、なんか癖になってるとか」

「あ、言いますよね、そういうの」


 とりあえず会話に加わってみた。


「うーん……」


 山本課長が困った顔でスマホを見ている。


「まぁでも、今すぐ来てほしいとか、そういう話じゃないんだろ?」


 勝村課長は言い終えると、山本課長に向けていた視線を注文カウンターのボードに移した。

 ポップコーンの味を決めるのか、ドリンクを決めるのか。

 勝村課長の関心はすでに山本課長のお母さんにはなく、これから飲み食いするものに移っていた。


 そういうの、あんまりやらない方がいいと思います。

 気持ちはわかるけど。


「いや、そういう話」

「えっ」

「えっ」

「……今日は母親がじいちゃんの世話に行かなきゃいけないらしいんだけど、それが行けそうにないから……ってさ」


 山本課長はスマホをポケットにしまい、宙を見上げた。

 これは、気の毒と言うほかない。

 もちろん大変なのはお母さんの方だろうけど、休日に楽しみにしていた映画の直前にこの連絡は、気の毒だ。


「え? それで、どうすんの? 映画」


 勝村課長の掲げた手には2人分のチケットがすでにあった。


「うーん……」


 うつむいて思案する山本課長が、不意に顔を上げ、言った。


「須藤さん、暇?」

「え?」

「代わりに、観てくれない?」

「か、代わりって……」

「ごめん、嫌? 勝村とふたりは」

「い、嫌じゃないです! 嫌じゃないんですけど……」

「あーよかった、俺嫌われてない」


 勝村課長がおおげさに安心する素振りを見せて言った。

 山本課長が再確認する。


「ほんとに大丈夫? 嫌じゃなかったら、なんだけど」


 このタイミングで、これって……


『来たわよ! 珠美! スーパーふたりっきり映画館リーチよ!』


 言っている意味はわからないが、私のチャンスに喜んでくれてはいるようだ。


「えっと……私は、大丈夫なんですけど、いいんですか? 代わりに観ちゃって……」


 驚きが徐々におさまると、申し訳無さが勝ってきた。

 しかしそんな気持ちを打ち払うように、山本課長が言う。


「観てほしいんだよ。今からじゃキャンセルできないから……無駄にするくらいなら、知り合いに観てもらった方が良い。もちろんお金はいらないから」

「だ、だめですよ! そんなの!」

「……」


 頑として断ると、山本課長は黙ってしまった。


 いや、わかりますよ? 気持ちは。私が逆でもお金は受け取れません。


 そこに勝村課長が参加してくる。


「山本が良いって言ってるんだから、良いじゃん。それじゃ、ポップコーンとドリンクは俺から奢るね。俺と須藤さんとで仲良くペアセットでいいよね?」

「嫌です」

「ほらな? 山本。須藤さんは嫌なことは嫌って断れる人だから、安心してお母さんとこ行ってこい」

「すまん。ありがとう。須藤さんも、ありがとう」


 山本課長はそう言うと、早足で行ってしまった。

 映画館エリアを出て明るい方へ遠ざかる山本課長の背中を目で追った。


「ペアセットでいいよね?」

「嫌です」



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