第6話 まぐろの山かけ 4/7
ショッピングモールの映画館エリア。
そこで職場の課長ふたりに遭遇した私から離れたところで、チハルさんは飛んでいた。
こちらを見ているような見ていないような、そんな方向に顔を向けている。
……多分、チハルさんなりに、茶化さないようにしてくれてるんだよね。
「聞いたか? 須藤さんが素敵だってさ、ありがとう山本。お前のおかげだ」
「お前を褒めたわけじゃないだろ。いいから発券してきてくれよ。お前が予約したんだろ」
「うい。それじゃ、食い物の列並んどいてくれよ」
「おう」
勝村課長が発券機の方に歩いていったのを目で追って、聞いた。
「えっと、休みの日は、よくふたりで遊ぶんですか?」
「よく、なのかな? 月に2,3回だと思うけど」
それはよくです。
私とここみちゃんという、女同士でさえ月に一回あるかないかだ。月二、三で、男同士で、ふたりきりで、というのは珍しいと思う。
「仲良いんですね」
「どうだろうね。悪くはないと思うけど……」
「いっつも一緒ってわけではないんですね」
「うん。あいつ、彼女いるしね」
なるほど……まぁ、それならそれで仮に勝村課長とセックスすることになっても上手にリードしてくれそうだから良いわね。
「じゃなくて! 彼女いるんですか?」
「……? う、うん。そうだよ」
ちょっと待って。整理させて。
『ちょっと待って! 整理させて!』
いつの間にか近くに来ていたチハルさんが取り乱した。
うん。そうだよね。同じ気持ちだよ。
「意外? あいつに彼女いるの」
「い、いえ、意外じゃないです」
「そうだよね……えっと、ごめんね、俺、列並んでいい?」
山本課長がフード・ドリンクのカウンターを指して言う。
「は、はい! もちろんです!」
慌てて答えて、歩きはじめた山本課長と一緒に列に並ぶ。
まずは整理だ。
落ち着こうとする私にチハルさんが慌ただしく言う。
『聞いた?! さっきこの人、「あいつ彼女いる」って言ったのよ!』
そうよ!
ありがとうチハルさん!
そう!
普段一緒に遊ぶ山本課長にも彼女いたら、あんな言い方はしてないはず。
いたら「俺もあいつも彼女いるしね」じゃなきゃ変だ。
そして山本課長の場合は、彼女がいない方が都合がいい。
多分この人は彼女がいたらほかの女には手を出さないタイプだから。
「えっと……須藤さん?」
「は、はい! なんでしょう?」
「あの……映画、なに観るか決める前に、ここ、並ぶの?」
やば。
焦りすぎて普通しないムーブしてた。
「あ、ごめんなさい! つい、つられて」
「匂いに?」
「山本課長にです!」
「発券終わったぞー」
背後から勝村課長が声をかけてきた。
そしてニコニコしながら山本課長の隣の私に言う。
「須藤さんはあれ? 観る映画決める前に食うもの決めるタイプ?」
うっさいわね、それは終わったのよ。
終わってないけど。
「い、いえ! つい一緒に動いちゃって……」
「つい?」
山本課長が白い歯を見せて笑って言った。
くぅ。
やばい魅力的。
「そうだ! おふたりは、なに見るんですか?」
考えを見透かされないように、こちらからも質問する。
山本課長は列の前方を見つめている。
ドリンクを考えているのだろうか。
勝村課長が答えた。
「俺ら? どろろだよ」
「どろろ?」
聞いたことがないタイトルだった。
「昔の漫画が原作のアニメ映画だけどね、今リメイクしたやつやってるんだよ。」
「へー。アニメですか。よく観るんですか?」
「そうだね。俺も山本も、普通に漫画見るから。映画化とかされて気になったら観るかな」
勝村課長と話しながら、視界に山本課長を入れておく。
山本課長はまるで私の相手は勝村課長に任せているかのように、黙ってボードのメニューを眺めている。
ついにはポケットからスマホを取り出した。
興味ないのかな、私に。
いろいろ突っ込まれても困るけど、そっぽ向かれると、ちょっとなぁ。




