↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
30/86

第5話 ごぼうとレンコンのきんぴら 4/5


**********


 16時55分。

 定時まで残り5分。


 一般職社員は17時までで、総合職社員は18時までの勤務となっている。

 いろいろと古臭さを残している会社だ。

 私とここみちゃんは、PCのシャットダウンまではしないものの、それ以外のことはすべて終わらせていた。

 また、この時間になると、外出していた社員が戻ってくる。

 おそらく直帰するかどうかのラインになる時間なのだろう。


「戻りました」

「戻りましたー」


 男女ひとりずつが、一緒に事務所に入ってきた。

 山本課長と、名前を知らない営業職であろう女性社員だ。

 今朝のことを思い出した。

 横断歩道の真ん中に落ちている靴。

 拾う山本課長。

 受け取る母親。

 子どもに手を振る山本課長。

 あんなところを見たせいか、昨日までとは違う目で見ている気がする。

 山本課長と女性社員は、事務所に入ってきた勢いそのままに、歩きながら話し続けた。


「ちょっと本当に直させてください!」

「いや、本当に、いいから。ほっといて」


 何かを断る山本課長と、それに食い下がる女性社員。

 足早に歩く山本課長に合わせているためか、一歩進むたびに女性社員のウェーブがかった髪と胸と尻が揺れる。


「私のせいで取れちゃったんですから、ほっとけるわけないじゃないですか! 直します!」


 必死さを見せつつ、困ったような愛嬌のある表情(上目遣い)を忘れない。


 すごいねあんた。

 どう生きてたらそれできんの?


「いいです。そんなことしなくて」

「どうしたの?」


 押し問答するふたりに、矢野部長が声をかけた。


「あ! 矢野部長! ほら、これ!」


 女性社員が、山本課長が着ているスーツのジャケットのボタンのあたりを持って、矢野部長に見せた。

 必然、女性社員は山本課長に急接近する。まるで腕の中に飛び込むような動きだった。

 スムーズな動きに、嫉妬心よりも「知らない技を見た驚き」の方が勝つ。


 あれできるようになりたいな。


「私のバッグが、山本課長のジャケットのボタンに引っ掛かって、取れちゃったんですよ!」

「なるほどねー。と言いたいけど、どう引っ掛けたらボタン取れるんだよ」

「あ、それは僕が、引っ掛かったことにちょっと焦ってしまったので……それに元々、糸伸びてて取れかけてたんですよ。だから近藤さんのせいじゃないんですって! 直さなくていいから!」


 山本課長は言いながら近藤とかいう女子社員から強引にジャケットの裾を引き離した。

 手がカラになった女性社員は愛嬌は消さないまま、せめてもの抵抗で言い返した。


「ええー! そんなのほっといたらだらしないですよ!」

「今日はもう帰るだけだし、それに土日の間には直すからほったらかしじゃないです! そちらこそほっといてください!」

「クリーニング屋さんとかに出して、ボタンつけてもらうんですか?」


 うるせえな。


 近藤とかいうやつの女子力に慣れてきたのでムカつきが勝ってきた。


「いや、自分で、家帰ってからつけます」

「え! 意外! そんなのできるんですか?」

「やったことくらいあります。得意じゃないから、ネットの動画見ながらだけどね」


 その言葉で、その姿を想像した。

 小さくない体を小さくしながら、裁縫道具を持つ手元とスマホの画面を交互に見る山本課長を想像したら、なんだかおかしくなった。

 つい山本課長の方を見たら、彼は恥じ入るようにはにかんでいた。


「だから大丈夫です!」


 その瞬間、体中に桃色の電流が走った。


 ここみちゃんの元カレ話と女性社員の名前は吹っ飛んでしまった。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。