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第5話 ごぼうとレンコンのきんぴら 3/5


**********



 PCの右下の時刻を見た。

 16時25分。

 定時まであと少しだ。


「須藤さん」

「あ、はい」


 声をかけてきたのは、矢野部長だった。

 営業部部長 55歳。

 禿げてもいないし、太ってもいない。

 不潔そうな振る舞いもなく、セクハラじみた発言もない。

 それなのに、好感は持てない。


 なんでなんだろう?

 身だしなみは整えているのになぁ……

 それがほとんど若作りに見えるからかな。


「昼前に言ったやつ、まだ?」

「え」


 ……なんだっけ。

 やばい、本当に思い出せない。


「ほら、去年の販促品の在庫一覧のリスト。制作が夕方から会議するから、参考資料として制作に送っててほしいって……」


 うわ。完全に忘れてた。


「もうそろそろ出せるよね。よろしく」


 矢野部長はそれだけ言って去っていった。


『おおー! スマートなおじさんねー! 明らかに忘れてたあんたに、ちゃんと思い出させてあげるし、「そもそも忘れてたわけじゃない」って前提を作ってくれてるし』


 チハルさんの言っていることはとてもよくわかるが、なんだろう、この不快感は。

 親切にしてもらっているのに、妙に居心地が悪くなる。


 なんていうか、見透かされてる気がするのかも……


 まぁ、見透かされててもされてなくても、今日の私はポンコツだわ。

 また忘れちゃわないうちに、さっさとリストにして送ろう。


 在庫一覧から必要なデータだけを抽出して、メールで送る。

 たったそれだけなので3分で終わった。


「矢野部長って、ああじゃなきゃ親切なんですけどね」


 ここみちゃんが声をかけてきた。


「……え? 『ああ』って?」

「ほら、なんていうか、スマートな自分のやり方を見せつけてるっていうか……小馬鹿にしてくるような雰囲気、ありません?」

「あー、なるほどー」


 それか……不快感というか、居心地の悪さの正体は。


「そもそも事業部同士のファイルのやり取りって、一般職の私たちがすることなんですかね?」

「……確かに」

「そのへん雑にするから、矢野部長のこと信用できないんですよね」

「ふふっ、ほんとね」


 ここみちゃんが畳み掛けるので、つい笑ってしまった。

 そしてここみちゃんは、私が笑うのを見て、笑っていた。


 そうか。

 ここみちゃんは、周りへの気遣いができる子なんだ。

 顔が可愛いとか、可愛げがあるとか、私は結局、自分にないものを掲げて言い訳にしてただけなんだ。

 彼氏ができる人はなにもしなくても「周りから彼氏になりに来てくれる」ものだと思ってた。

 でも違う。ここみちゃんの魅力は顔や胸や愛嬌じゃない。心が救われる気遣いだ。

 それが私には、決定的になかった。

 気遣うとかそういうことを放棄してるやつとなんか、誰だって一緒にいたくないわよね。


『……私は全然いいと思うんだけどなぁ。ああいう気遣いしてくれるなら、一緒にいても大事にしてくれるんでしょ』


 チハルさんの言葉が聞こえていないここみちゃんが言う。


「ああいう人って、いざ付き合う関係になると、相手のこと雑に扱うんですよね」


 なるほど。


『なるほど』


 やっぱ経験者は違うわ。

 早く私も経験しないと。







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