第5話 ごぼうとレンコンのきんぴら 3/5
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PCの右下の時刻を見た。
16時25分。
定時まであと少しだ。
「須藤さん」
「あ、はい」
声をかけてきたのは、矢野部長だった。
営業部部長 55歳。
禿げてもいないし、太ってもいない。
不潔そうな振る舞いもなく、セクハラじみた発言もない。
それなのに、好感は持てない。
なんでなんだろう?
身だしなみは整えているのになぁ……
それがほとんど若作りに見えるからかな。
「昼前に言ったやつ、まだ?」
「え」
……なんだっけ。
やばい、本当に思い出せない。
「ほら、去年の販促品の在庫一覧のリスト。制作が夕方から会議するから、参考資料として制作に送っててほしいって……」
うわ。完全に忘れてた。
「もうそろそろ出せるよね。よろしく」
矢野部長はそれだけ言って去っていった。
『おおー! スマートなおじさんねー! 明らかに忘れてたあんたに、ちゃんと思い出させてあげるし、「そもそも忘れてたわけじゃない」って前提を作ってくれてるし』
チハルさんの言っていることはとてもよくわかるが、なんだろう、この不快感は。
親切にしてもらっているのに、妙に居心地が悪くなる。
なんていうか、見透かされてる気がするのかも……
まぁ、見透かされててもされてなくても、今日の私はポンコツだわ。
また忘れちゃわないうちに、さっさとリストにして送ろう。
在庫一覧から必要なデータだけを抽出して、メールで送る。
たったそれだけなので3分で終わった。
「矢野部長って、ああじゃなきゃ親切なんですけどね」
ここみちゃんが声をかけてきた。
「……え? 『ああ』って?」
「ほら、なんていうか、スマートな自分のやり方を見せつけてるっていうか……小馬鹿にしてくるような雰囲気、ありません?」
「あー、なるほどー」
それか……不快感というか、居心地の悪さの正体は。
「そもそも事業部同士のファイルのやり取りって、一般職の私たちがすることなんですかね?」
「……確かに」
「そのへん雑にするから、矢野部長のこと信用できないんですよね」
「ふふっ、ほんとね」
ここみちゃんが畳み掛けるので、つい笑ってしまった。
そしてここみちゃんは、私が笑うのを見て、笑っていた。
そうか。
ここみちゃんは、周りへの気遣いができる子なんだ。
顔が可愛いとか、可愛げがあるとか、私は結局、自分にないものを掲げて言い訳にしてただけなんだ。
彼氏ができる人はなにもしなくても「周りから彼氏になりに来てくれる」ものだと思ってた。
でも違う。ここみちゃんの魅力は顔や胸や愛嬌じゃない。心が救われる気遣いだ。
それが私には、決定的になかった。
気遣うとかそういうことを放棄してるやつとなんか、誰だって一緒にいたくないわよね。
『……私は全然いいと思うんだけどなぁ。ああいう気遣いしてくれるなら、一緒にいても大事にしてくれるんでしょ』
チハルさんの言葉が聞こえていないここみちゃんが言う。
「ああいう人って、いざ付き合う関係になると、相手のこと雑に扱うんですよね」
なるほど。
『なるほど』
やっぱ経験者は違うわ。
早く私も経験しないと。




