第5話 ごぼうとレンコンのきんぴら 2/5
「へー! そんなことが」
更衣室でここみちゃんが言う。
「うん。意外と言うか、なんと言うか」
業務開始前の更衣室で一緒になったここみちゃんに、先ほど見かけた山本課長の行動を話した。
「意外ですか! たしかに!」
ここみちゃんが笑う。
いや、意外って言うと失礼なんだけどね。
でもここみちゃんも同意してくれたところを見ると、やっぱり意外なんだろうな。
「やっぱ意外だよねー」
「そうですねー。山本課長って、基本的にあんまり喋らない人なんで」
「でもさ、喋ってるとこも見るじゃん?」
「自分からは喋りかけないじゃないですか」
「あぁ……たしかに……」
「だから意外なんですよ。結構周り見てるんですね」
「なるほど」
そうか。そういう面もあるわけだね。
でもそうなると、よくわかんないな。
周り見てるくせに喋らないのか。
……それって、なんていうか。
「なんだか、なに考えてるか、いっそうわかんないですね」
ここみちゃんが私の言いたかったことを言葉にしたので、思わず笑って同意した。
「たしかにねー」
「前の彼氏があんな感じだったんですよね」
え?
ドキっとしてしまった。
聞いてはいけない話を聞いてしまったような。
「あ、そうなんだ?」
平静を装ったが、ものすごく「バレてそう」な気がする。
うろたえているのがバレバレな声色じゃなかっただろうか。
どうして思い込んでいたんだろう。
ここみちゃんからはこういう話は出てこない、なんて。
「そうなんです。なんか、なに考えてるのかわからないところが、ちょっと苦手なんですよね」
待って待って待って待って待って待って!
ちゃんと整理させて!
「苦手かー」
思考ストップしたまま、耳に残った音だけを返す。
これがオウム返しか。
「そんな人いません?」
そうだよね……
仲いいけど、やっぱり決定的に、経験値が違うわけよね……
「あー、わかるかも」
うそつくな。
わかるわけないでしょうが、処女なんだから。
**********
この日の私の仕事ぶりは散々だった。
頼まれたファイルの送信をしなかったり、取引先から電話があったことを担当者に伝えるのを忘れていたり、他部署に持っていくことを頼まれ受け取った資料をどこに置いたのかわからなくなったり。
つまり、控えめに言って「いない方がマシ」だった。
『あんた今日いない方がマシなんじゃないの?』
チハルさんにさえこう言われる始末だ。
この人に言われちゃ終
『あんた今、この人に言われたら終わりだって思ったでしょ』
ジト目で言わないでよ。
周りにバレないように、小さく首を横に振った。
『今日は調子悪いんでしょ? 早退でもしたら?』
「あの、須藤さん、大丈夫ですか?」
「う、うん、大丈夫」
隣の席のここみちゃんが心配そうに声をかけてきた。
「あの、調子悪いなら、早退とかしてもいいと思いますよ。私、カバーしますし」
『調子悪いというより調子崩したのよ。ここみちゃんのせいでね』
デスクの上で寝そべりながら悪態をつくチハルさんの太ももをつねった。
『いっっっったいわね! なによ! ほんとのことでしょ?!』
ほんとでもそうじゃなくても、よくわからない理由で早退なんか嫌なのよ。
体調が悪いわけじゃないのに「調子悪いので帰ります」なんて言えるわけないじゃない。
なによ、「調子悪いので帰ります」って。
調子いいときしか仕事しない奴なんかいないでしょうが。
「ありがとう。でも大丈夫」
「そう、ですか……」
「うん。でも調子悪いのはほんとだよね。ミス連発してるし。申し訳ないけど、忘れてることあったら教えてね」
「はい! それはもちろん!」
笑顔で言うここみちゃん。
そりゃこんだけ可愛くて、優しかったら、男がほっとかないわ。
逆に言うと私はずっとほっとかれた層ってことよね。
もう少し可愛げでもあれば違ったのかしらね。
ひとりで生きられそうって、それってねえ褒めているの? なんつってね。
帰ったらJuice=Juice見よ。




