第1話 子持ちシシャモ 3/6
大きな乗り換え駅ではないので、それほど混雑はしていないが、人が少ないわけでもない。
人の流れに乗って改札を通り、ホームへ上る階段に向かう。
エスカレーターがないので多くの人が階段を上り下りしている。
ふと、階段の上の方を見た。たくさんの男女が器用にすれ違っている。
その中に見つけた一人から、目を離せなくなってしまった。階段のてっぺんでひとりの女性が、手に持ったものを大儀そうに動かしている。
すぐに、赤ん坊を抱いたままベビーカーを折りたたんでいるのだとわかった。
大変なのか幸せなのかわかんないわね……
もちろん声には出さない。
女性は片手にたたんだベビーカーを持ち、片手で赤ん坊を抱き、階段を下りはじめた。
え、危ないでしょ、それ。
そう思ったときに、女性のすぐ近くを上る方向に進んでいたスーツ姿の男性が、彼女に声をかけた。
「あの、それ、お持ちします。ご迷惑でなければ」
「え!? いやいや、そんな! 大丈夫ですよ!」
「いや、本当にそれ、危ないですから。つまずいたら、何もつかめないですよ。赤ちゃんだって危ないじゃないですか。せめて手すりだけでも持たないと。持ちますね」
男性は半ば強引に女性からベビーカーを受け取った。
「あ、ありがとうございます」
そのまま、並んで階段を下りていった。
すれ違う瞬間、その二人をチラリと見た。チラリ程度にしておくつもりが、目で追ってしまった。
……あの男の人、階段、上ってたよね。
つまり、あの男性は、あの女性のために、引き返している。
やっさしいひとだな……
男性がベビーカーを持つ手と、手の甲から浮き上がる血管が目に入った。
その瞬間、体中に電流が走った。
?!
錯覚かもしれないが、それは確かに桃色をしていた。桃色の電流。
脇腹から下腹部にかけて、きゅっと締め付けられるような、体がかすかに痙攣したような。
あ、やば。
気づいたときには脳内でつぶやいていた。
子宮に来た。




