第4話 長芋短冊 5/6
「お、おぉ、ありがとう」
勝村課長は山本課長から1枚の紙を受け取った。
山本課長
営業部2課の課長であり、勝村課長と同期入社で同い年。
ほぼ同じタイミングで課長になったこともあり、周りは何かと比較したり、コンビ扱いしたりするが、本人たちは気にしていない。
むしろ見る限り仲良し。
こっちはこっちで、また別のタイプの苦手だけどね。
勝村課長は明るく、誰とでも仲良く話している印象だが、山本課長は対照的にあまり人と喋らない。
不機嫌、というほどではないにしても、ニコニコしているわけではないので、なんとなく話しかけづらい。
しかし、応対自体は丁寧だし、多少抜けているが自分のミスは素直に謝るし、いちいちお礼を言ってくれるので、勝村課長とはまた別の人気がある。
その勝村課長が、山本課長から受け取った紙を見て愚痴をこぼす。
「うわ、このホテルか」
「どうした?」
「駅から遠いんだよな。お前どこ?」
勝村課長の質問に山本課長が手に持った紙を見て答えた。
「ドーミーインだよ。出雲の」
「最高じゃん! なんだよ! 代われよ!」
「お前のエリアじゃないだろ。それにホテルないとこで頑張って取ってくれた人の前で言うな」
うんうん。
心のなかでうなずくと、勝村課長が詫びた。
「あ、ごめんね、須藤さん」
「いえ、でもほんと、そこしかないんですよ」
駅徒歩15分は確かに申し訳ない。
泊まりに行くためだけならタクシー代は出るが、その後飲みに出るとなると、そのときの移動は自腹になる。
「いやほんとありがとう」
勝村課長が笑顔をこちらに向ける。
うーん、勝村課長、確かに顔はいいな。
こういう人と、ナニしたら、幸せな思い出になるのかな?
「いえ、全然、そんな」
『おおー、なんかラリー続いてるじゃん』
うるさい。
でも確かに、今まではここまで勝村課長がこういうことを言ってくることはなかったな。
「それじゃ」
勝村課長が白い歯を見せて笑い、立ち去った。
その瞬間、体中に桃色の電流が走った。
くぅ。
トイレでしたら……ダメだよね……
**********
帰宅後、チハルさんに外で15分ほど待ってもらってから、晩酌の準備を始めた。
「今日は笑ったときの白い歯にやられたのね」
「……わかる?」
「そりゃね」
チハルさんが得意気に笑う。
「スーパーに入って一目散に長芋取りに行くんだもん。笑っちゃうわ」
「はぁ……」
売り場のカットされた長芋はところどころ古くなっていたが、半額だったので迷わず手に取った。
【300円晩酌】
半熟煮卵、2個60円
手羽元とカブの甘辛煮、80円
冷奴にネギショウガめんつゆ、30円。
長芋短冊(海苔とわさび添え)、50円
焼酎ハイボール1本、110円
合計320円
「勝村さんだっけ? ああいうタイプ、苦手だったんじゃないの?」
「うーん」
チハルさんの問いに少しの間考え込んで、考えを整理しながら答えた。
「苦手とかってさ、ある意味、贅沢じゃない?」
「ああー! なるほど!」
「私いま、贅沢言える身分じゃないわけじゃん?」
「うんうん」
「まぁ、だから、いいと思っちゃったらそれはそれでいいわけよ」
「確かに、チャンスは多い方がいいもんね。でも苦手なら苦手で無理しちゃダメよ」
「そうね。まぁとにかく、食わず嫌いはやめようってことで!」
「えらい強気ね」
「やるしかないわよ。さ、飲も」
「うん」
ふたりそろってリビングへ向かった。




