第4話 長芋短冊 3/6
『ひまだー! 処女捨ててよー! 出会い作ってよー!』
うるさい。
間もなく昼休みに入るという11時25分。
チハルさんは私のデスクの上で寝転んで、大声で文句を言っている。
ペンケースほどの大きさの妖精がデスクの上でゴロゴロしているのは、なかなかに邪魔だった。
(あと5分で昼休みだから、そのときは外行くから)
テキストエディタにそう打ち込むと、人差し指の爪でデスクをカッカッ、と叩いた。
妖精は寝そべったまま、画面を見る。
『ほんとー? 頼むわよおー』
初日の午前中のうちに「爪で2回デスクを叩いたら画面を見て」という合図が定着した。
この会社のこのフロアは、昼休みを2部にわけている。
前半を11時30分からの1時間、後半はそのあとの1時間。
電話応対などの急な業務のため、「いつも正確に時間通り」とはいかないが、概ねこのように動いている。
「お昼いきまーす」
誰かがそう言うと、フロア全体に「お昼休みスタート」が広がっていく。
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「わー! 須藤さん、お弁当すごいですねー!」
「え、そう? 変かな?」
「変じゃないですよ! 美味しそう!」
「そ、そう? ありがとう」
「んー、でもなんか……」
「なに?」
「お酒ほしくなっちゃいますね」
ここみちゃんが笑いながら言うので視線を膝の上の弁当箱に落とした。
手羽元とカブの甘辛煮
砂肝の唐揚げ
小松菜炒め
味付け煮卵
……ほんとだ。
立ち飲み屋でのワンオーダー目だ。
会社が入るビルの周辺は公開空地がかなり広く、ベンチが多くあるので昼食をとるのに適していた。
その中のひとつに、ここみちゃんと並んで座り、弁当を広げていた。
「はは……まぁ、部屋飲みの余りを適当に詰め込んだだけだからねー」
「あー! どうりで! ていうか部屋飲みでそこまでちゃんと作るんですね」
「そうね、作るのは好きだから」
「今度お酒持って行くので、食べに行っていいですか?」
『何言ってんのダメよ。女なんか連れ込んでる場合じゃないのよ』
「いつでも来てよー」
『ダメだってばー!』
昼休みに入ったからといって、特にできることが増えるわけではないので、チハルさんは私の肩の上で不満そうにしていた。
仕方なく、ここみちゃんとの世間話を装って、退屈な妖精に提案することにした。
「なんかさ、こう天気いいと、どっかに行きたくなるね」
「そうですねー」
『あーあ、憑いてるだけなんて退屈だわー。ほんと処女捨てとけばよかったー』
「ここみちゃんは、どっか行くならどこ行く? 1箇所にとどまるより、どっか行った方が楽しいもんね」
察してよ、チハルさん。
「海です! 絶対! クジラ見に行きたいです!」
「あーいいねー。私はねー」
『のんきにくっちゃべってんじゃないわよー、貴重な昼休みでしょうがー』
「この昼休みだけプラッと歩きに行くのもいいなー」
「わ、それいいですね!」
「短い時間だけでも、リフレッシュになるしねー」
チハルさん、察して。
「こういうことしてもいいんだよー」って言ってるのよ。
「いいですねー。午後も気持ちよく過ごせそう」
「気分転換にもなるしね」
『食べないならちょうだいよ』
察しろよ。




