第4話 長芋短冊 1/6
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須藤珠美の29歳の誕生日に、突如現れたひとりの妖精チハル。
チハルは「この1年で処女を捨てないと、あんたも妖精になるのよ」と言う。
土日をともに過ごし、少しは仲良くなったふたり。
とは言え今日は2人そろっての初出勤。無事に終えることができるのか。
そして珠美は30歳を迎えるまでに処女を捨てることができるのか。
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11月9日 月曜日 午前7時45分
テーブルの上の鏡には、メイクを終えた自分の顔が映っている。
……無意識に、濃くなってないかな? メイク。
「メイク濃くなってる気がするんでしょー? わかるわよー、その気持ち」
妖精のチハルさんがテーブルの上のティッシュケースに腰掛けて、こちらを見て言う。
「わ、わかるって、なによ?」
「だからぁ、職場の男たちを意識して無意識に濃くメイクしてないか、それか、『そう思われちゃうんじゃないか』を気にしちゃうんでしょ? 私もそうだったわよ」
妖精チハル
「処女のまま30歳を迎えた女性は妖精になる。29歳の最後の1年は妖精が憑くことになる」という運命のもと、私に憑いている妖精。
そして彼女自身もまた、処女のまま30歳を迎えたことで妖精になってしまったらしい。
350ml缶ほどの背の高さの妖精が得意げに続ける。
「大丈夫よ。昨日おでかけしたときと、変わんないから」
「……そう? ならいいか」
昨日は日曜日。
休日ひとりで過ごすためだったメイクと変わりないなら、「濃すぎる」ということはないだろう。
それにしても昨日は災難だった。
どこでどう過ごしていても、周りに男が寄ってくるのだ。
これはこの1年の「男運ボーナスチャンス」らしい。
チハルさんいわく「極端に効きすぎているからすぐに調整される」らしいが、果たしてどうだろうか?
いや、調整されてなければ困る。
「そう言えばさ、チハルさんは、お仕事なにしてたのか、は……」
「うん、覚えてないわよ」
「まぁ、そうよね」
妖精になると「それまでどうしていたのか」と言った元の人間の個人情報に関する記憶は消されるらしい。
「ほら、時間大丈夫なの?」
「うん。もう出る。姿消してね」
『はーい。オッケーよー』
7時50分。家を出た。
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職場には無事に着くことができた。
通勤電車は女性専用車両を使うから、「調整」の効果は今ひとつわからなかったが、会社に向かう途中で試しにコンビニに立ち寄ってみたところ、男が複数人近づいてくる、ということはなかった。
更衣室で着替えているとここみちゃんが声をかけてきた。
「おはようございます!」
「おはよー」
瀬田ここみちゃん。
確か27か28歳。巨乳。天使。
「来ちゃいましたね、月曜」
「そうねー」
『えぇー! めっちゃ可愛い!』
うるさい。
「今週も頑張って乗り切りましょうね!」
「やだよー。全部右から左に受け流したい」
「あ、私もムーディー勝山好きですよ」
「フルネームで言う人初めて」
「ほんとですか?」
総合職に比べて一般職は給与が低いのだから、これからも責任とかとは無縁でいたい
ここみちゃんが言うような「頑張って乗り切る」という気にはとてもならない。
「あと私は好きじゃないのよ?」
「はい?」
『私はムーディー好きよ?』
うるさい。




