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第4話 長芋短冊 1/6

 **********

 須藤珠美の29歳の誕生日に、突如現れたひとりの妖精チハル。

 チハルは「この1年で処女を捨てないと、あんたも妖精になるのよ」と言う。

 土日をともに過ごし、少しは仲良くなったふたり。

 とは言え今日は2人そろっての初出勤。無事に終えることができるのか。

 そして珠美は30歳を迎えるまでに処女を捨てることができるのか。

 **********


 11月9日 月曜日 午前7時45分

 テーブルの上の鏡には、メイクを終えた自分の顔が映っている。


 ……無意識に、濃くなってないかな? メイク。


「メイク濃くなってる気がするんでしょー? わかるわよー、その気持ち」


 妖精のチハルさんがテーブルの上のティッシュケースに腰掛けて、こちらを見て言う。


「わ、わかるって、なによ?」

「だからぁ、職場の男たちを意識して無意識に濃くメイクしてないか、それか、『そう思われちゃうんじゃないか』を気にしちゃうんでしょ? 私もそうだったわよ」


 妖精チハル

「処女のまま30歳を迎えた女性は妖精になる。29歳の最後の1年は妖精が憑くことになる」という運命のもと、私に憑いている妖精。

 そして彼女自身もまた、処女のまま30歳を迎えたことで妖精になってしまったらしい。


 350ml缶ほどの背の高さの妖精が得意げに続ける。


「大丈夫よ。昨日おでかけしたときと、変わんないから」

「……そう? ならいいか」


 昨日は日曜日。

 休日ひとりで過ごすためだったメイクと変わりないなら、「濃すぎる」ということはないだろう。

 それにしても昨日は災難だった。

 どこでどう過ごしていても、周りに男が寄ってくるのだ。

 これはこの1年の「男運ボーナスチャンス」らしい。

 チハルさんいわく「極端に効きすぎているからすぐに調整される」らしいが、果たしてどうだろうか?

 いや、調整されてなければ困る。


「そう言えばさ、チハルさんは、お仕事なにしてたのか、は……」

「うん、覚えてないわよ」

「まぁ、そうよね」


 妖精になると「それまでどうしていたのか」と言った元の人間の個人情報に関する記憶は消されるらしい。


「ほら、時間大丈夫なの?」

「うん。もう出る。姿消してね」

『はーい。オッケーよー』


 7時50分。家を出た。



 **********



 職場には無事に着くことができた。

 通勤電車は女性専用車両を使うから、「調整」の効果は今ひとつわからなかったが、会社に向かう途中で試しにコンビニに立ち寄ってみたところ、男が複数人近づいてくる、ということはなかった。

 更衣室で着替えているとここみちゃんが声をかけてきた。


「おはようございます!」

「おはよー」


 瀬田ここみちゃん。

 確か27か28歳。巨乳。天使。


「来ちゃいましたね、月曜」

「そうねー」

『えぇー! めっちゃ可愛い!』


 うるさい。


「今週も頑張って乗り切りましょうね!」

「やだよー。全部右から左に受け流したい」

「あ、私もムーディー勝山好きですよ」

「フルネームで言う人初めて」

「ほんとですか?」


 総合職に比べて一般職は給与が低いのだから、これからも責任とかとは無縁でいたい

 ここみちゃんが言うような「頑張って乗り切る」という気にはとてもならない。


「あと私は好きじゃないのよ?」

「はい?」

『私はムーディー好きよ?』


 うるさい。

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