第2話 粗大ごみシール 5/8
洗濯機を回し、朝食を済ませて、洗い物を片付けて、洗濯物を浴室乾燥にかけ終わり、自室のソファに腰を下ろしたときには、10時近くになっていた。
「ねーねー! ネトフリかフールー入ってないの?」
チハルさんがソファの背もたれに腰かけて、黒く小さなリモコンを抱えたまま言う。
「ないです。アマプラだけ」
「そっか。うちと一緒ね」
言いながら彼女はリモコンのホームボタンを押した。
それに連動してテレビの電源も入る。その様子をまじまじと見つめてしまう。
……現世に慣れてる妖精っていうのも調子狂うわ。
チハルさんがこちらの視線に気づいた。
「あ、ごめんね、なんか観るんだった?」
「いや、別にいいけど」
「相席食堂見ていい?」
……いいんだけどさ。
「あ、ねえ、チハルさん」
「ん? なに? 観たい回あるの? 私が見るやつの後にしてよね」
「違うわよ! あのさ、これからずっと、こんな感じなの?」
「こんな感じって? あんたの生活?」
「私の生活というか、うーん、そうじゃなくて! チハルさんが私に憑いて、それで、どうなるのかってこと!」
「え、ど、どうなるのかな……どうなるの?」
「知らないわよ! チハルさんのときはどうだったの?」
「あ、私が妖精に憑かれたとき?」
「うん」
まずはここから聞いておかないと、何も始まらない。
「んー、何も起きなかったわよ。ただ妖精と1年暮らして、30歳の誕生日になったら、妖精になってたわね」
「えっと、じゃあ、特に何もしなくていいの?」
「何かした方がいいのかって言うと、男作った方がいいわよ。ほしいでしょ? 男」
露骨な言い方するなこの人。
「そりゃあ……まぁ……」
ほしい。
「ま、これから1年間はハイパーボーナスチャンスだからさ、頑張って!」
「なに? それ」
「え? わかんない? んーと、確変に入ったというか……」
「言い方じゃないわよ! 何がチャンスなの?!」
「あれ? 言わなかった? 今日から、っていうか29歳になった昨日からか。男との出会い運が確変に入ってるのよ」
詳しいことはわからないが、雰囲気から、出会いが増えそうではある。
「なんでそういうこと早く言ってくれないの!?」
「言ってなかった?」
「聞いてません!」
「そっか、ごめんね、ほんと」
「うっ……意外に素直に謝るのね……」
「ふっ、年長者の余裕ってやつよ」
心から謝ってはいないわけね。
チハルさんが続ける。
「それに今日はほぼ初日でしょ? すぐに言った方だと思うわ」
「まぁ……そういう言い方したらそうだけど……」
「今ここで私を責めること以上に! やるべきことがあるんじゃないの!?」
チハルさんはソファの背もたれの上にすくっと立ち、片手で私を指さして言う。
もう片方の手ではアマプラのリモコンをしっかりと抱えたまま、諭すような口調で言う。
「いい? 確変なのよ? 確変!……今が貴重なチャンスなの。行動は早い方がいいわ」
腹は立つが、言っていることは間違っていない。いや、間違っていないからこそ余計に腹が立つ。
あ、そうだ。それならちょうどいいわ。
「チハルさん、私ちょっと出かけてくるね」
「早速ねスケベ」
「違うわよ! 買い物! お昼ご飯の!」
「えー、私も行くー」
「は?」




