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第10話:【前編】黄金の結婚式場、爆炎と筋肉の鉄槌に沈む

 王都ナルシスタの正門へと続く一本道。

 そこには、かつてないほどの熱量と、物理的な質量を伴った「銀色の暴風」が吹き荒れていた。


「おどきなさい、この筋肉シスター! アル様の右隣は、私の爆炎で常に温めておく必要があるのですわ!」

「何を言っているのですか、この火力おバカ! アル姉様の右腕は、私のプロテイン・マッサージを受けるための聖域なのです! 貴女のような低火力の火遊びに、アル姉様の細胞を預けられるはずがないのですわ!」


 マリエルとレベッカが、いつものように火花を散らしながらアルトリアの左右を陣取っている。

 だが、今日はそこに新たな「嵐」が加わっていた。


「ふんっ! お前たち、アル様の隣に相応しいのは、私のような圧倒的なパワーを持つ者だけだ! どけ、小娘ども。アル様の背中を守れるのは、バルクの戦斧だけだぞ!」


 身長百八十センチを超える巨躯を揺らし、巨大な戦斧を肩に担いで歩くのは、隣国の第一王女シグルド・バルク・アイアンメイデンだ。

 彼女は国境でアルトリアに「ブラッシング(説得)」された後、一度は軍を引いた。……が、そのわずか一時間後には、「アル様の王都奪還という歴史的瞬間に、私がいないなどバルクの恥である!」と叫び、精鋭の護衛数名を引き連れて爆走。アルトリアの進軍に、さも当然のような顔をして合流を果たしていたのである。


「……シグルド。お前、国の方はいいのか? 王女が勝手に出歩いては問題だろう」


 アルトリアが呆れたように問いかけると、シグルドは顔を真っ赤にして、乙女のような声で答えた。


「も、問題ありませんわ、アル様! 父上には『ちょっと筋肉の修行(アル様の追っかけ)に行ってくる』と手紙を書いておきましたから! さあ、アル様。あの不浄なもやし王子を、私の斧で一気にまきにして差し上げましょう!」


「……そうか。まあ、お前がいるなら前衛は盤石だな。ハンス、速度を上げろ! 門が見えてきたぞ!」


「了解です、アルトリア様!!」


 アルトリアの背後には、美神の加護で強化された銀色の鎧を纏う五十名の近衛騎士たちが、一糸乱れぬ足取りで続いていた。

 彼らが掲げる『美神の軍旗』が、秋の陽光を反射して黄金色に輝く。

 その光景は、もはや「反逆者の進軍」ではなく、「真の王による凱旋」そのものだった。


 ◇


 一方、王都の正門。

 そこには、ボルドー団長が国庫を横領して雇い入れた、大陸でも悪名高い傭兵団『黒い牙』の連中が陣取っていた。


「へっへっへ……。たかが女一人と、都を追い出された腰抜け騎士どもが相手か。楽な仕事だぜ」

「団長からは、アルトリアの首を持ってきたら金貨千枚と言われているからな。……おっ、来たぞ! なんだ、あのキラキラした連中は?」


 傭兵たちが武器を構えた瞬間、地平線の彼方から「時速百キロ」を超える砂塵が迫ってきた。

 先頭を走るのは、銀色の閃光――アルトリア・ベルンシュタイン。


「……邪魔だ。道を開けろ!」


 アルトリアの声が響いた瞬間、彼女の影からシェリーが飛び出した。

「悪いね、野郎ども。ここはアンタたちの居場所じゃないんだよ!」


 シェリーが放った目潰しの煙幕が炸裂する。

 混乱する傭兵たちの頭上から、マリエルの絶叫が降り注いだ。


「アル様の道を塞ぐゴミは、分子レベルまで焼却処分ですわ! ――極大爆炎グランド・エクスプロージョン!!」


 ドォォォォォォォォォン!!

 正門の分厚い扉が、傭兵たちもろとも文字通り「蒸発」した。

 爆炎が収まる前に、今度はレベッカが巨大な聖印を振り回して突っ込む。


「不浄な傭兵に、神の重圧フィジカルを与えるのですわ! 死ななきゃ安いのです!」


 バキバキ、と小気味良い骨折音が響き渡り、傭兵団の隊列が一瞬で崩壊する。

 仕上げは、シグルドの戦斧だった。


「バルクの力を見よ! 一刀両断ッ!!」


 巨大な斧が振り下ろされ、逃げ惑う傭兵たちの戦意を物理的に粉砕した。

 アルトリアは一歩も動かず、ただその破壊の跡を悠然と歩いて通り抜ける。

 彼女の「ジゴロ りょく」に絆された乙女たちの連携は、もはや神話の域に達していた。


 ◇


 その頃。王都の中心にそびえ立つ、純金で装飾された特設式場。

 そこでは、カイル王子と「左腕のルージュちゃん」の結婚式が、いよいよ最高潮を迎えようとしていた。


 カイル王子の『バカ日記』には、この歴史的な狂気が、地の文でこう綴られていた。

『○月×日。

 ついに、この時が来た。

 僕とルージュ(左腕)の愛が、神の前で証明されるのだ。

 アルトリアが、門をぶち破って戻ってきたとの報せがあった。

 フッ、愛の嫉妬とは恐ろしいものだね。彼女は、僕が他の誰か(僕の左腕)のものになるのが、それほどまでに耐えられないのだろう。

 いいだろう、アルトリア。特等席で僕たちの接吻セルフ・キスを見せてあげよう。

 それが、君への最後の手向けだ』


 王子は、赤いリボンを巻いた自分の左腕を愛おしそうに見つめ、ゆっくりとその唇を近づけていく。

 式場に集められた貴族たちは、あまりの光景に吐き気を催しながらも、ボルドー団長が配備した兵士たちの槍を恐れて、無理やり拍手を送っていた。


「……さあ、ルージュ。永遠の誓いを――」


 その瞬間。

 純金で造られた式場の天井が、凄まじい衝撃と共に粉砕された。


 ガシャァァァァァァァァァァァン!!


 黄金の破片が舞い散る中、天井から一直線に降りてきたのは、巨大な戦斧。

 そして、その斧の柄を足場にして優雅に舞い降りた、銀色の騎士。


「……そこまでだ、カイル。その醜態、私の筋肉が許さんと言っている」


 アルトリア・ベルンシュタイン、乱入。

 彼女の背後からは、マリエルの炎、レベッカの威圧、シェリーの殺気、そしてシグルドの咆哮が、式場全体を支配していった。


「アルトリア……! やはり来たか、僕の愛のストーカーめ!」


 カイル王子は、自分の左腕を抱きしめたまま、歪んだ笑みを浮かべた。

 だが、その隣で顔を青くしていたボルドー団長は、震える声で叫んだ。


「お、おのれ反逆者め! 衛兵! こいつらを捕らえろ! 都を汚した罪で処刑だ!」


「……汚したのはどちらかな、ボルドー団長」


 アルトリアが指をパチンと鳴らすと、シェリーが懐から大量の書類を式場内にばら撒いた。

 それは、ボルドーが過去数年間にわたって行ってきた、横領、収賄、そして他国への情報流出の動かぬ証拠であった。


「……な、なんだこれは!? こんなもの、デタラメだ!」


「残念だったね、おじさん。泥棒猫の目は、アンタの金庫の中身を全部数え終わってるんだよ」


 貴族たちの間に、激しい動揺と怒りが広がる。

 もはや、この場を支配しているのは王子でも団長でもなかった。


 アルトリアは、一歩ずつ王子へと歩み寄る。

 彼女の拳は、静かに、だが岩をも砕く硬度を持って固められていた。


「カイル。お前の『愛』の正体……今ここで、私が直接叩き直してやる」


「フッ、いいよアルトリア。君の拳で、僕たちの愛を祝福してくれ――」


 王子の勘違いが極致に達したその時、アルトリアの銀色のガントレットが、眩い光を放ち始めた。


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