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第9話:【前編】かつての部下と、涙の筋肉再会バトル

 ナルシスタ王国の王都、近衛騎士団演習場。

 そこには、かつてアルトリアが「副団長」として心血を注いで鍛え上げた、精鋭たちが集結していた。

 だが、その士気は地を這うよりも低かった。


「……信じられん。我らが誇り、アルトリア副団長を追放しただけでなく、カイル王子は……ついに『自分の左腕』と結婚式を挙げると言い出したらしいぞ」


 一人の騎士が、絶望に満ちた声で囁いた。

 王宮内では今、赤いリボンを巻いた自分の左腕に愛を囁き、甘い言葉をかけ続ける王子の姿が日常茶飯事となっていた。

 カイル王子の『バカ日記』には、その狂気じみた「新生活」が、地の文でこう綴られていた。


『○月×日。

 愛しの左腕くん(名前はルージュと名付けた)との生活は、至高の幸福だ。

 アルトリアは、僕にこの『究極の自己愛』を教えるために、あえて身を引いたのだろう。

 だが、父上(国王)は分かっていない。僕に「アルトリアを連れ戻して正気に戻れ」などと野暮な命令を下すなんて。

 フッ、仕方ない。彼女を連れ戻し、僕とルージュの仲人なこうどをさせてあげよう。

 きっと彼女は、僕たちの愛の深さに涙し、祝福の筋肉を震わせるに違いない』


 国王は、愛息のあまりの変態化に頭を抱え、ついに最終手段に出た。

 それは、「アルトリアを力ずくで連れ戻し、王子の目を覚まさせる(物理的に)」という、身勝手な勅命であった。


「……行くぞ。野郎ども。不本意だが、これは王命だ。……アルトリア様を、お迎えに上がる!」


 近衛騎士団第一大隊、総勢五十名。

 彼らは、自分たちを人間らしく鍛えてくれた恩師に刃を向ける苦悶を抱えながら、ダンジョンへと足を踏み入れた。


 ◇


 ダンジョン『美神のクローゼット』第八階層――『美神の演舞場』。

 そこは、四方の壁が巨大な太鼓のようになっており、侵入者の足音や剣戟の音に合わせて、心地よいリズムを刻む不思議なエリアだった。


「アル様、この階層、なんだか身体が勝手にリズムを刻んでしまいますわ!」

「マリエル、それはアル姉様の歩法が、芸術の域に達しているからなのです。……ああ、この足音、録音して毎日聴きたいですわ!」


 マリエルとレベッカが、アルトリアの背後でステップを踏むように歩いている。

 シェリーは天井の梁に飛び移り、楽しそうに笑っていた。


「ダンナ、ここの魔物、倒すたびに歓声が聞こえるよ。……ほら、あそこの『ダンシング・オーガ』、アンタの剣に合わせて踊りながら死んでいったよ」


「……悪趣味なダンジョンだな。だが、悪くない。戦いとは本来、心躍るものであるべきだからな」


 アルトリアが、銀色の白銀鎧を軋ませて笑ったその時。

 背後の通路から、聞き覚えのある、統制の取れた「鉄の音」が響いてきた。

 それは、彼女が三年間、毎朝耳にしてきた、愛すべき部下たちの足音だった。


「……止まれ、マリエル。……客人が来たようだ」


 アルトリアが静かに振り返る。

 そこには、フル装備で身を固めた五十名の近衛騎士たちが、悲痛な面持ちで整列していた。

 先頭に立つのは、アルトリアが最も信頼していた部下、重騎士のハンスだ。


「……ハンスか。久しぶりだな。……その装備の煤け具合、手入れを怠っているな?」


「……っ、副団長!!」


 ハンスは、アルトリアの姿を見た瞬間、膝をつきそうになるのを必死で堪えた。

 銀色に輝き、以前よりも遥かに神々しいオーラを放つアルトリア。

 そしてその隣には、王国が誇る天才たち。

 彼らの目には、アルトリアが「不幸な追放者」などではなく、「新しい国の女王」のように見えていた。


「……副団長。我々は、王命により貴女を連れ戻しに来ました。……カイル殿下が、その……非常に深刻な、精神の……その……」


「『自分の左腕に恋をしている』、だろう? 知っている。私がそうさせたようなものだからな」


 アルトリアがさらりと言ってのけると、騎士たちの間に激震が走った。


「な、なんだって……!? やはり、副団長が王子の目を覚まさせるために、高度な精神攻撃を……!」

「違いますわ。アル様が、あのゴミに『自分を愛する自由』を与えて差し上げたのですわ!」

「左様です。もやし王子には、自分がお似合いなのです。アル姉様の筋肉を拝む資格など、万に一つもないのですわ!」


 マリエルとレベッカの毒舌が、騎士たちの心をさらに折っていく。

 ハンスは拳を握りしめ、顔を上げた。


「……承知しております。今の殿下に、貴女を連れ戻す資格などないことも。……ですが、これは騎士としての忠義。……副団長! 我々を、力ずくで捻じ伏せてください! そうでなければ、我々は……貴女を諦めることができません!!」


 騎士たちが一斉に剣を抜いた。

 それは敵意ではなく、アルトリアへの「最後の稽古」を願う、悲しい懇願だった。


「……いいだろう。ハンス、そしてお前たち。……史上最年少副団長、アルトリア・ベルンシュタインが相手だ。……かかってこい、魂を込めてな!!」


 アルトリアが大剣を抜き放った。

 第八階層の壁が、激しい戦太鼓の音を鳴らし始める。


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