第90話 帰還
オッド・ソーはどうにか体を起こそうともがいたが、発火して塞がらない傷口はあまりにも深く、うなだれると舌を出して呼気を荒くした。
「……ま、まさか、本当に倒しちゃったの?」
「――――す、すごい。オッド・ソーを一撃で…… 本で読んだアダマンタイトの英雄様よりリント様はすごい人なのかも。き、貴重な歴史の一ページを僕は目の当たりにしてるのかもしれない」
「あっ! ま、まだ何かするみたいよ!」
俺は絶命寸前のオッド・ソーから距離を取り、上空に無数のフレアボールを発現させた。
そして、それらを一点に集め、巨大な火球を作り出した。
「な、なんて魔力量なのよ…… 人間にはありえない」
「あ、あんなこと可能なんですか?」
「普通に人間には無理よ。中級魔法のフレアボールは力量に関係なく一発ずつ生成して発射するもの。あんな数なんて見たこともないし、それを融合させるなんて見たことも聞いたこともない…… そもそも空中に生成すること自体が私からすると怪奇現象だわ」
大気中のマナを自分の一部と捉えて魔力に変え、ファイアバレットを出現させる要領だ。この火球にマナを集めて魔力に変え続けたら……
魔力を蓄え続けた直径五メートル以上はある火球は、焔炎と激しく燃えた後、先ほどの剣と同様に炎の揺らめきは消え、高熱の光を発する球体へと変化していった。
上空十メートルほどの高さに生成されているが、その熱は凄まじく地上の草木をジリジリと焼き発火させていく。
「おっと」
俺の服も発火し始めた。このままじゃ丸裸になってしまう、今はそろそろ限界か。
だが成功だ。自分が思い描いていたものに近い結果に俺は満足げな顔を浮かべた。
地上を明るく照らすその球体は、まさに小さな太陽と呼んでもさほど相違ない代物だった。
「――――オッド・ソー。何でお前はここに来たんだ? 遠い西の森から自分で来たのか? お前一匹だけ? ……そんなわけないよな。ここに来なければ、お前は平穏に暮らしていたはずだ。俺が代わりにそれを究明してやる。だから、安らかに眠れ」
俺は手を前方へとかざした。
火球から光の玉へと変化したそれは、その大きさには似つかわしくない速度で発射された。
光の球体と地面が接触した瞬間、想像を絶するほどの大爆発が起きた。
それは、生成し発射した術者である俺の想定をもはるかに超えるもので、さながら超新星爆発かのように俺の目には映った。
ものすごい勢いで爆発の範囲が広がってくる。
俺は全力でその場から飛び、マルテスの元へと移動した。
俺は呆然としている二人を抱え、爆発から逃れるように全力で飛んだ。
一キロほど飛び、俺は二人を下ろした。
「――――ここまで来れば大丈夫だろう。これも加減が難しいな、街や村が近くになくて良かった」
「よ、よ、良かったじゃないわよ。あ、あなたいったい何なの!?」
……範囲はもっと小さくて十分だ。それだと生成時間も短縮されるし隙も小さくて済む……フレアボールの代わりにファイアバレットを使って一メートルくらいのサイズで試してみたいな……
「ちょ、ちょっと聞いてるの!?」
遠くには空にそびえる大きなきのこ雲が形成されていた。
その爆発は無視されるはずもなく、近隣の国の監視塔から観測されていた。
マルテスはこちらへ走ってくると、俺の前に跪いた。
「なんのつもりだマルテス。やめてくれ」
「い、いえ! あなたは冒険者である僕たちの頂点! け、敬意を」
俺はマルテスの前にしゃがみ、
「い、痛っ!」
デコピンをした。そして手を持ちマルテスを立ち上がらせた。
「お前は友達だ。友達に跪くやつがいるか?」
「と、とも……」
マルテスの目が涙で滲んでいる。まったく……
「男がすぐに泣くんじゃない」
「は、はい…… でも、うれしくて」
と言いつつ、俺もこの世界に来て間もない頃、セレイナに寄りかかって泣きじゃくった過去があるからな……
思い出すと少しむず痒い。
セレイナはどうしてるだろうか。あのこともあるし後で連絡を取ろう。
「それじゃあマルテス、帰ろうか」
「は、はい!」
マルテスを抱え飛ぼうとした時、女が慌てて声をかけてきた。
「ちょ、ちょっと待って! わ、わたしは!?」
「お前は一人で帰ってこい。無事に帰れたら今回のことは不問にしてやる」
「ね、ねえ冗談はやめてよ。前衛も無しにウィザードが街までたどり着けるわけないでしょ!? な、なにもしないって約束したじゃない!!」
「俺は何もしてないぞ? ただ置いていくだけだ」
「そ、そんな……」
「ま、待ってくださいリント様!」
「様はやめろ」
「り、リント、さん…… メアリーさんも連れて行ってあげてください」
「いいのか? お前に酷い仕打ちをした女だぞ?」
「はい…… 結果的に無事にこうやって帰れるわけですし、元は、冒険者として僕が弱いのがいけないんですから」
「マルテス……あなた……」
俺は一つ鼻からため息を吐いた。
まったく、この少年はどこまでお人好しなのか。それがマルテスの良い所でもあるんだけどな。
この子はこの殺伐とした世界の希望だ。
「特別に連れて行ってやる。マルテスに感謝しろよ」
「は、はい! マルテス……ありがとうね、礼を言うわ」
「いいえ、気にしないでください」
帰り道、俺はマルテスに負担がかからないようにゆっくりと飛行し、オルディアの広大な景色を眺めながら飛んだ。
「うわあ、空からこの国を見れる日が来るなんて。あ! あれ王都かな」
「――――ねえマルテス」
「なんでしょう」
「私、紅蓮を抜けるわ。帰ったらボルドに言うつもり」
「え、どうしてですか? せっかくのAランクパーティなのに」
「まあ色々とね。真っ当に生きたくなったのよ、あなたを見てたらね。本当にごめんなさい」
「……そうですか。メアリーさんならすぐに仲間が見つかりますよ」
「ん……そうね」
そんな会話を聞きながら、俺は少しだけ口元を緩ませた。
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♦筆者より♦
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