第89話 厄災級の魔獣
オッド・ソーの咆哮は森の木々を激しく振動させ、無数の木の葉を舞わせた。
内臓までビリビリと来る。随分とお怒りのようだ。
――――ここではマルテスもいるし戦いづらいな。
「マルテス! 森から出るぞ!」
「は、はい!!」
俺は一発のファイアバレットを宙に出現させた。
「く、空中に火魔法が……!?」
俺はファイアバレットは甲高い衝撃音を立てて勢いよく発射され、それはオッド・ソーの顎に命中した。
オッド・ソーの顎が跳ね上がる。
「行くぞ!」
「ひ、ひあっ!!」
その隙に、俺はマルテスを抱え森の外へと走った。
ファイアバレットは、確実に追ってこさせるための挑発の意味もあった。
今の自分というものを確認するのに、このクラスの魔獣はちょうどいい相手と思ったからだ。
――――よし、森を抜けた。
「ちょ、ちょっと!! 前衛もいないウィザードをこんな所に一人にしないでよ!!!! ――――て、ぎゃああーーーーー!!!!」
俺たちのあとを追って、オッド・ソーが大木をものともせず、へし折りながら森から飛び出してきた。
「な、な、な、何なのよこの怪物は!!!! ――――魔素が強すぎて私の鑑定がはじかれてる!?」
「おいあんた」
「は、はい!」
「あんたも一応Aランクなんだろう? 今度はマルテスを守ってやれ」
「ま、守るって、あんな化け物からどうやって!? 無理よ!!」
「離れた所で魔力障壁を張っているだけでもいい」
「わ、わかったわ!!」
マルテスとメアリーは距離を取るために走った。
「マルテス! もっと早く走りなさいよ!!」
「は、はい!」
二人は五十メートルほどの距離を取り、メアリーは障壁を張った。
「あの男…… 死んだわね。あんなのに勝てっこないわ。そうなったら次は私たちよ…… ――――はあ。二十四で死ぬなんて……果たさないといけない目的もあるのに。これもこれまでの因果ってやつかしらね」
メアリーはその場にへたり込んだ。
「いえ、リント様は勝ちます」
「なんでそう言い切れるのよ! 無理に決まってるじゃない!!」
「勝ちます! リント様は、アダマンタイトランクの冒険者様なんです!」
「ア、アダマンタイトって…… う、嘘よ! 存在するの!?」
「はい。僕は見ました。あの人の腕の、漆黒の認証石がはめられたリングを」
――――さて、何から試そうか。まずは……
俺はマナをオーラへと変換させ、マナチューニングも同時に行った。
剣と身体が金色に激しく輝き、足元からは緑色の粒子が噴き出しオーラの上から俺の身体を包み込む。
これが以前までの俺の戦闘形態。
まずはこれで様子を見る。グラトニー・デスクランプスを仕留め損なった時よりも、身体能力が格段に上昇している今ならどうか。
「あ、あれがオーラってやつなの!? すごく、綺麗なのね……」
「この目で称号持ち様の戦いを見られるなんて! 二度とあるかわからない! 目に焼き付けておかないと!!」
俺は地面を砕き割り飛び出した。
オッド・ソーはその剛腕を振り回すも、俺は飛行術を巧みに使い空中で体制を変えそれを躱し、わき腹を一気に斬りつけた。
手ごたえが薄い。硬いな。
剣を構え振り返ると、斬ったはずの傷が徐々に塞がっていくのが見えた。
人のことは言えないがとんでもない再生能力だ。だが、不死というわけではないだろう?
再び飛び出した俺の剣とオッド・ソーの凶悪な爪がぶつかり合い激しい火花が散る。
そして俺の剣はオッド・ソーの爪を砕き割った。
一つ吠えたオッド・ソーは仁王立ちをやめ四つの足で立つと、身体を震わせた。
すると、オッド・ソーを起点に地面や空気が凍り付き、半径数十メートルが氷結地帯と化していく。
とんでもない気温低下だ。呼吸をするたびに肺が凍りそうになる……クッ。
接地している俺の足が凍り始めている。まずい。
俺は空中へと浮いてそれを回避した。
酷寒のフィールドは徐々にその範囲を広げ続ける。
「あ、あれは上級中位の氷魔法、コキュートス…… 魔獣がこんな高位魔法を使うなんて。危ないわマルテス、もう少し距離を取るわよ」
「は、はい! (……リ、リント様)」
オーラとマナチューニングのコンボでも深くは斬り裂けないか。毛も肉も異常に硬い。そしてあの回復力。
オーラを高めようと思えばまだまだ高められる。今は四割程度といったところだ。
あくまで、瞬時に変換できるのが今の状態というだけのこと。
だがオーラを練るには高い集中力が必要で、それだけ時間もかかるし隙も大きい。
戦闘中に”ちょっと待っててね”などというのは通用しない。
あの力と万能感を満たす、麻薬のような黒い粒子はなるべくなら使うのを避けたい。
まだ自分でうまく制御が出来ないからだ。あの声の誘惑と、万能感と快楽に飲まれそうになる。
――――なら、あれをやってみるか。試してみたくて仕方がなかった。
話しを聞いてから俺なりに考え続け、自分なりの理屈に昇華させることはできた。あとは、成功するか否か。
俺は剣を空に掲げた。
大丈夫。今の俺なら。
空中に魔法を発現させる応用で、俺は剣にフレイムバレットを発現させた。
ブレードが炎の立ち昇らせる。
よし、成功だ。これで魔法剣の完成。あの男とやり方は多分違うんだろうけどな。
「け、剣に炎が――――」
「あ、あれは。Sランク冒険者のディックさんが使う魔法剣!?」
そしてここからだ――――
俺は剣も自分の一部、繋がっていると捉え、ブレードにマナを集約していく。
マナはオーラや魔素のみならず魔力の源でもある。生き物なら誰でも持っているものだが、ウィザードになれるかどうかはそのマナを効率よく自由に魔力へと変換できるか否かで適性が決まる。(王立宮廷魔導士エルメリアさんの受け売り)
大気のマナを感じとり、中空に魔法を生成できる俺には容易な事だった。
剣に集約されたマナは魔力へと変換されていき、剣から立ち昇る魔法の炎は無尽蔵の魔力を吸収しその姿をより激しく変貌させていった。
……まだだ、もっと。
炎の揺らぎは消え、その炎は高火力のバーナーのように青白く変化し、凄まじい燃焼音を立てた輝く剣へと変貌した。
例えるのならビームサーベルのようだと俺は思った。
「さあ、もう一度交わろうか。オッド・ソー」
ゆっくりの助走から徐々にスピードを上げ行き、高速で飛び跳ねた俺の軌跡には熱の光が流星のように道を作った。
そして、
超高温の剣は俺を引き裂こうと伸ばしてきた腕ごと切り裂き、俺はオッド・ソーの腹部に深い傷を負わせた。
その巨体を地に鎮めるオッド・ソー。まだ息はある。だが、発火した傷口は再生を阻害され開いたままだった。
「お前のおかげで色々と試せたよ」
あとはトドメだけ。長く苦しめるのも症には合わない。
なんの邪念も損得勘定もない。こいつも今生きるために獲物を狩っているだけなんだから。
俺はもう一つ試してみたいことを思いつき、それで葬ろうと思った。
お読みいただき、ありがとうございました!
♦筆者より♦
下にスクロールして頂くと☆☆☆☆☆という評価ボタンがありますので、ちょっとでも「面白かった」「感動した」「続きが気になる」など思って頂けましたら是非、応援や反応をよろしくお願いします!
更新の励みにさせて頂きます!




