第83話 冒険者マルテス
「す、すみません。今、買ってきます」
よく見るとまだ顔に幼さの面影が残っている。十六、七といった所だろうか。
右腕で鼻血を拭いながら男性は体を起こした。
「マルテスじゃねーか、何があったんだオイ」
「……ラ、ライドさん」
二人は知り合いのようだ。
ライドは座り込んでいる彼の横にしゃがみ、心配そうに肩に手を置いた。
「だ、大丈夫ですから! ハ、ハハ」
「大丈夫って、血が出てるじゃねーか」
「心配ないですから。ぼ、僕は…… 早くしないと」
「なにグズグズしてんだマルテス!! パーティから省くぞ!!」
「す、すみません! 今買ってきます!」
「お、おいマルテス!!」
マルテスはライドの手を払い、商店街へと走って行った。
ライドは顔を険しくして男たちを睨みつけた。男が二人、女が一人の三人組のパーティだ。
「おいテメ―ら! 見ねー顔だがどこの街から来た冒険者だコラッ!!」
「ああん? なんだこいつ」
男はライドの冒険者リングを一瞥した。
「これはこれは、Bランクの冒険者がAランクの俺たちに何の用だ? あん?」
男たちはニヤつきながら俺たちのことを見ている。
「え、Aランク……!? ど、どうしやす兄さん」
Aランクと聞くや途端にライドは弱気になり、小声で話しかけてきた。
「おいおいさっきの威勢はどうした? ビビってんじゃねーか兄ちゃん」
男たちはそんなライドを見て高笑いをしている。
「くっ!! お、おいテメ―!! この兄さんはあのAランクパ―ティ推奨のキュクロープスを単独討伐したお方だ!! テメ―らなんか切り刻まれて魔物の餌になっちまうぞ!!」
……俺かい。
「なにぃ? 苦し紛れの嘘を…… おいメアリー、身の程知らずたちにお仕置きをしてやれ」
「はいはい。殺しちゃったらごめんねぇ、お兄さんたち」
「手加減しろよ、殺したらこの街で依頼を受けられねえ。冒険者同士の殺しはご法度だからなぁ」
女は杖から炎を出現させた。
あれはフレアボールか。こんな街中で放っていい魔法じゃないな。下手をしたら死人が出る。
俺は大気のマナを操作して、杖から出現させた炎を大量のマナで包み込み吸収、鎮火させた。
炎はまるで空気に溶けるように消えていく。
「あ、あれ?」
「何やってんだメアリー」
「ちょ、ちょっと失敗しただけよ。 ――――フレアボール!!!! なんで!?」
女が出現させた炎の玉は、発射する前に全て鎮火していく。
微小の粒子で囲んでいるから、よほどの使い手じゃないと何が起こっているかすらわからないだろう。
「で、出ない! 発動しないのよ魔法が!」
「っんだと!?」
男と俺の視線が重なる。
それはほんの二秒ほどだったが男は目を細め、視線をそらした。
「――――ま、まあいい。Bランク相手に騒ぎを起こすのも格好がつかねえ。悪運は強いみてーだなお前ら、行くぞ!」
俺から何かを感じ取ったか? 伊達にAランクを名乗ってないな。ナイルさんたちに比べれば同じAランクでも小物感は否めないが。
男たちは通り過ぎざまに俺たちを睨みつけながら去っていった。
「リント様。あいつらも秘密裏に始末しますか?」
「いや、放っておいても問題ないだろう」
「かしこまりました」
あの手のゴロツキ冒険者はどこにでもいる。あんなのまで気にしていたらきりがない。
「――――ふう。運良く助かりましたね。まあ、兄さんなら余裕でしたかね」
ライドは自分のことのように強気に笑っている。
「柄の悪い冒険者もこの街にいるんだな」
「ええ。ああいう奴らは”流れ”って呼ばれてまして。情勢の悪化が加速してから、どこからか集まるようになってきたんすよ。ここは冒険者にとっては仕事も多く有名な街ですから」
少しだけセフィリアとエリオのことが気になったが、リンネが付いていることだし問題はないだろう。
……いや、リンネか。大丈夫だとは思うが。
♢ ♢ ♢
エンドラの冒険者ギルドは、力が強いというだけあってその規模もなかなかに大きく、街のほぼ中心に位置していた。
どうしても、俺の中での基準はエブンズダールのギルドになってしまうのでさすがに見劣りはしてしまうけどね。
中に入ると懐かしい空気感が伝わってきた。
ガヤガヤとした多くの人の声と鎧などが擦れる音、成り上がろうと闘志を燃やす冒険者たちの熱気。
若い冒険者の姿も見かける。良いギルドだ。
掲示板には薬草や素材採取の依頼から農地の警護、Aランクパーティ、Sランクパーティ推奨の魔物の討伐依頼や商人の護衛と多岐にわたり、依頼の数も多い。
身銭も多めに持ってきたし特に依頼を受けに来たわけではないが、ギルドはその街を現す象徴であり、依頼を見れば街の様子や周辺の情報が手に入る。
ん? 依頼の紙に見慣れない表記が。
「Bランク以上2P?」
「ああこれですかい? これは二組以上のパーティで護衛をするんですよ」
「そうなのか。何か理由があるのか?」
「最近、この辺りじゃ見かけなかった強力な魔物が出るようになりまして。南の森と山を越えるような護衛の依頼は大体二組以上じゃないと受けられないんですよ。その分報酬も高いんで、そこまで損はしないんですけどね」
なるほど。冒険者をぞろぞろと連れていた馬車が多かったのはそれでか。
やっぱり瘴気の広がりと何か関係が――――
その時、ギルドの扉が勢いよく開いた。
「おい! 市場の方で喧嘩だ! だれか手の空いてる奴はいないか!?」
ギルド内が少しどよめいた。
市場の方って。まさかリンネが!? いや、考え過ぎだな。いくらリンネでも場をわきまえることぐらいできるだろう。でもエリオたちもいるし少し心配だ。
「喧嘩ぁ? んなもん放っとけばいいだろ、なんだよそんなに慌ててよ」
「違うんだ! 獣人族らしき奴と冒険者パーティが喧嘩してるって話だ!」
「じゅ、獣人族!?」
場内が騒然とした。
俺は額に手を当てた。少しでもリンネを信じた俺がバカだった……
見た感じ、今場内にいるのはAランクが数組、あとはDからBランクといった感じだ。こいつらが行ったところでリンネが相手では被害が広がりかねない。
俺は喧騒と化したギルドを足早に出た。
「ライド、市場はどっちだ」
「市場はあっちです、急ぎましょう兄さん」
――――屋台が建ち並ぶ市場は、ギルドとは逆に静まり返っていた。
多くの民衆がリンネたちの様子を固唾を飲んで見ている。
「お、おい。あれってAランクのパーティだよな?」
「あ、ああ。 Aランクがたった一人に…… それにあの女の耳と尾、人間じゃないのか?」
「人間じゃないって、ま、魔物が街の中に!?」
犬猫のように高性能な耳を持つリンネには、民衆の会話がまるで傍にいるかのように聴こえていた。
「ちょっと耳の位置が違くて尻尾が生えてるだけじゃないか。まったく。――――で、そこの少年」
リンネはため息混じりに、震えながら立ちはだかるマルテスを睨みつけた。
マルテスの後ろには、傷ついて腰を落としている三人の冒険者の姿があった。先ほど凛人達とひと悶着あったAランクのパーティだ。
「や、やめてください!」
「なんで庇うニャ? お前、あいつらにひどく殴られてたじゃないか」
「――――とにかく困るんです。許してください」
「仲間を大事にしない奴はゴミニャ。許すか許さないかはあっちが決める。お前は引っ込んでろ」
「……どきません」
「はぁ……」
歩を進めるリンネの爪が鋭く光った。
お読みいただき、ありがとうございました!
ちょっとでも「面白かった」「感動した」「続きが気になる」など思って頂けましたら是非、応援や反応をよろしくお願いします!更新の励みにさせて頂きます。
感想などもお待ちしております。




