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第77話 西方の勇者 其の十三(終幕) "心の中に英雄を"

 街はいたるところにがれきが散乱していて、綺麗な街並みは見るも無残な姿になっていた。


「クソッ!!遅かったか!!」

「いや、街の中心部の方はまだ無事なようだ。教会と鐘塔が崩れずに形を残している」

「――――むこうの方から叫び声が聞こえる、急ぎましょう!」


 その時、城の方角から騎馬隊が先陣を切って走ってきた。人数は二十名ほどで、レオたちの姿を見つけると駆け寄り、馬上から声をかけてきた。


「冒険者の方とお見受けする。メルトドラゴンはどこにいるかわかりますか」

「中心部の方から住民の叫び声が、俺たちも今から向かう所です!」

「もうじき我が軍とウィザード部隊も到着します。ご協力感謝する!!」


 そういうと、騎馬隊は中心部に向けて走って行った。

 レオたちもその後を追う。


「これで何とかなりそうですね!」

「――――だといいがな」



 だが、レオの考えは誤算に終わった。

 百メートルほど先で、メルトドラゴンが飛翔したのを確認した瞬間だった。


 翼から巻き起こる暴風で吹き飛ばされた馬と兵隊たちが目の前をかすめ、ある者は建物に激しく打ちつけられ、ある者は民家の壁を突き破り、まるで部屋の隅に投げ捨てられた人形のようにピクリとも動かない。


 文字通りの全滅だった。


 メルトドラゴンは上空へと飛翔し遠くを睨みつける。その眼には子を奪われた憎悪がにじみ出ていた。

 その目線の先には、隊列を組みこちらへと歩を進める四千人のタイリース軍と五十人のウィザード部隊。


 タイリース王国は約一万人の兵を有している。その半数近くを動員するということは、国としても国家の危機と想定しての決定に他ならない。だが――――


 飛翔するメルトドラゴンは、隊列に向かって照準を定めた。

 幼体の倍はありそうな大きな口が、縦に大きく開かれる。


「お、おい。あれは――――」

「あ、あれがメルトドラゴンか。なんとおぞましい姿……」


 タイリース軍は都市上空に浮かぶその姿にどよめいた。巨大な翼を広げたその濡羽色の鱗を纏った巨大な生物。

 軍隊は行進を止め、我々は今からあれと戦うのかとみな息を飲んだ。その刹那。

 黒く巨大な物体が発光し、光に隠れた。


「うああああああ――――!!!!」

「ぎゃああああああ――――――――!!!!」


 現場は一瞬にして断末魔が響く地獄絵図と化した。

 メルトドラゴンの熱線が軍の隊列を容赦なく襲ったのだ。


 その熱線は、幼体の吐くものとは威力も何もかもが桁違いで、地形すらも軽く変えてしまうほどの威力だった。

 熱線に飲まれた者の肉体は瞬時に蒸発し、身に付けている鎧などはヘドロのように溶けて原型すらなくなった。


「ち、散れ――――!!!!一時撤退だ!!退却――――ッッ!!!!」


 軍は散りじりになり、兵たちは生を掴むため必死に逃げ惑った。


「クソ…… なんてことを」


 レオはその凄惨な光景をただ眺めるしかなかった。


 もちろんレオは戦争を目の当たりにしたこともない。目の前で繰り広げられている光景に、映画を見ているかのようなフィクションさを感じながらも、肌と神経を刺すように刺激する空気感がそれを現実だと囁いてくる。


 そんな状況に戸惑いを隠せないでいた。



 異界の勇者。自分の星命盤(ステータス画面)に書かれていた勇者という二文字。


 ――――勇者とは……なんだ?


 十年、二十年、三十年。様々な想いや出会い、記憶を積み重ねてきたであろう人間一人の生涯が一瞬で閉じていく(さま)を眺めながら、ただ立っていることしかできない自分にふとした疑問が浮かんだ。


 スナッシュはそんなレオを一瞥して、


「気にするな。元々何人来ようとおとり以外の役には立たない」

「そ、そんな」

「ヴォルフ・ガーナインのキャンディ・メイ。オルディアのガイネル。レイナムルのエミレナ・ファル。強大な敵の前では、幾千の名もなき兵より英雄と呼ばれる存在一人の方が意味を成す」


 レオの心中を察してか、重い口を開いた。

 彼なりの気づかいのようだ。

 

「俺とお前は奴の前に今もこうして立っている。挑む権利を得たのだ。――――これは現実だ少年。生き延びたければ、心の中に英雄を持て」

「英雄……」

「自分は英雄だと鼓舞しろ、俺とお前にはその資格がある。救おうと考えるな。生きようと思え」


 そう言葉を残すと、スナッシュはメルトドラゴンの真下へ飛び出した。

 不器用なスナッシュの言葉の意味を、この時のレオは理解しきれないでいた。


 スナッシュは上空へ光の斬撃を連続で放った。斬撃は飛翔するメルトドラゴンの腹部に直撃し強固な鱗に弾かれた。そして憎悪に満ちたおぞましいほど冷酷な目がレオとスナッシュに向けられた。


 二度、三度。その巨大な翼を小さく煽ぎながらメルトドラゴンは地面を揺らし着地した。

 その目は、完全に二人を捉えていた。


「奴の動きは鈍重だ。俺とお前なら避けられる。回避を続けて疲弊するのを待つ」

「わかりました!」


 威嚇の咆哮を合図に二人は飛び出した。


 巨大な尾、鋭利な爪、そして牙。あらゆる攻撃が本能むき出しで襲い掛かってくる。


 私の前に立つとはいい度胸だ、迎え撃とうじゃないか。

 レオとスナッシュ二人にのみ照準を絞り襲い来るメルトドラゴンからは、そんな気持ちが伝わってくる気がした。


 成体のメルトドラゴンの動きは予想に反して俊敏で面食らったが、二人のスピードなら余裕を持ちながら回避できるのもだった。 


 だが、レオもスナッシュも隙を見て剣での攻撃を試みたが、メルトドラゴンの羽のような(はがね)の鱗には傷一つ付けることはできなかった。


 そして、お互いに決め手がないまま三十分ほどの時間が過ぎて行った。


「クソッ!!どうしたらいい、仮に疲れさせてもダメージを通す攻撃が出来なければ意味がない!」


 メルトドラゴンの体力は尽きるそぶりもなく、ただ過ぎていく時間にレオは苛立ちと焦りを感じていた。

 ただ一つ幸いなのは、街の通路が広くメルトドラゴンが二人に固執しているため、周りの建物には被害が少ないということだ。


《あいつは本能のままにあと数時間は動き続けるよ。先に主たちが限界を迎えるかも》


「じゃあどうしたらいい!?」


《――――今のところ打てる手はない。スナッシュの行動は冷静な彼らしくなかった。早計だったというしかないね》


「ええ!?もっと早く言ってくれよ!」


《仮に言ったとして、彼が素直に言うことを聞くように見える?》


「うっ。確かにそれは……」


《まあ、切り札に天星という技もあるけど――――》


「天星?」


 レオは星命盤を開きアビリティの項目を確認した。


==================

《天星》

 体内のマナと魔力を圧縮・爆発的に解放する。

 発動中、身体能力を大幅強化。

==================


《でも、これはあくまで切り札。成体のメルトドラゴンの鱗は幼体のものより数段硬い。もしこれも通じなかったら――――》


「打つ手がなくなる」


《それだけならいいけど、マナを使い果たしてソニック・ブレイクすら使えなくなる上に、疲弊して動けなくなっちゃうよ。そうしたら、主は奴の胃袋の中に直行》


「ハ、ハハ……笑えないんだけど」


《奇跡でも起こらない限り、それが今の状況で一番確率が高い結末だよ。ほら、右から尾の攻撃が来るよ、伏せて(かわ)して》



 ――――さらに時間が過ぎ、二人に疲労の色が見え始めた。

 息も荒くなり、このままでは体力もいつまで持つかわからない。


 スナッシュは特に疲労が顕著だった。アクセル・シンクの思考加速状態で、剣からの助言を受け攻撃を回避しているレオと違い、スナッシュは凛人との戦いで見せた因果視(フェイトサイト)で0.5秒先の行動予測をしながら攻撃をいなし続けている。それは、高い集中力が必要なため本来は仕留める際の決め手として使用するものであり、持久戦には不向きなのだ。


 スナッシュの金色の長い髪が息を切らして下を向いた彼の顔を隠し、滴る汗が石畳を染めた。

 しかし極度の疲労の中にあって尚、彼の目は力なくではあるが再びドラゴンを見据えた。


 その時。


「ママ…… ママぁ、パパぁ。どこなの?」


 ぬいぐるみを抱えた少女が、涙で顔を濡らしながら戦場となっている大通りに現れた。


「来ちゃダメだッッ!!!!」


 レオの声に少女は驚いて顔を上げ、そして不気味に首をかしげるメルトドラゴンと目が合った。


「あ……ああ……あ。 ママ……」


「メリーナ!!!!」


 建物の陰から一人の女性が飛び出してきた。

 女性は血相を変えながら少女の元へ走っていく。


「ママぁ!!うああ――――ん!!!!」

「メリーナ!地下室にいなさいってあれほど――――」


 メルトドラゴンは動いている者に反応し、巨大な口が走りくる母親に襲い掛かった。


 疲弊していたはずのスナッシュの目が見開いた。

 およそ一秒後にはその邪悪な口の中に取り込まれるであろうその母親の姿が、過去と重なり合った。

 目の前でエルカドに奪われた母の面影が、救えなかったあの時の自分への無力さと怒りが、自身の壁にぶち当たりもがいていたスナッシュに変化をもたらした。


「うおおおおおおおお――――――――!!!!!!!!」


 スナッシュの身体とブレードが金色に輝き、その速度は空気の壁を割り、音を置き去りにした。


 スナッシュの音速の剣がメルトドラゴンの(くちばし)とぶつかり合い激しい火花を散らした。

 剣はその衝撃に耐えきれず粉砕された。だが、メルトドラゴンの強固な(くちばし)もまた砕かれていた。


 悲鳴を上げるメルトドラゴン。


「や、やった!!スナッシュさん!!」


 しかし次の瞬間、限界を迎えうな垂れたスナッシュに、メルトドラゴンの巨大な尾が襲い掛かかった。

 全身を激しく殴打され、吹き飛ばされたスナッシュは建物に激突し壁にめり込んだ。


 スナッシュの頭が力なく垂れた。


「スナッ――――」


 その刹那、レオの視界が眩く照らされた。


《主よけて!熱線が来る!》


 スナッシュに気を奪われていたレオは、コンマ数秒回避が遅れ、その熱線はレオを(かす)めながら建物に大穴をあけて行った。


 身体から煙を上げ石畳を転がるレオ。


「グッ、ああ……あ」


 左の太もも部分のズボンが焼かれ、その隙間からは痛々しい傷が顔を覗かせていた。


《主!大丈夫!?》


「うっ…… だめだ、これじゃあもう走れない!――――クソッ!!」


 怒れるメルトドラゴンは目を血のように赤く染め、鈍い地響きを上げながらレオに歩み寄る。


 万事休すかと思われた時、建物の中に人影が動いた。


「ん――、うるさわねぇ。マスター、目が覚めちゃったから寝起きの一杯をちょうだーい。きついのがほしいわ」


 魔女帽子を被った二十代くらいの女性は顔を赤らめながら店内をキョロキョロと見回した。


「あれ?みんなどこ行ったのかしら」

「あなたが酔いつぶれてる間にみんな地下室に逃げちゃいましたよ」


 メガネをかけた三つ編みの少女が本を片手にその女性へと近づいてきた。


「逃げるって、何から?」


 少女は無言で窓の外を指さした。

 そこには剣を支えに膝をつくレオの姿と迫りくるメルトドラゴンの姿があった。


「――――せっかく気持ちよく良い酒を飲んで寝てたのに、許すまじ。ね。」


 女性はため息をつくと、席を立ち屋上へと出た。


「お仕置きよ」

「助けるのですか?お優しいですね」

「ち、違うわよ!ここは水がいいのかしら、お酒が美味しいのよ。また来たいと思っちゃったの!」


 女性は杖を掲げると、先端からビー玉ほどの小さな光の玉が出現し、杖を向けるとメルトドラゴンへと飛んで行った。


 女性は呟く。


「極大火炎魔法、インフェルノ」


 光の玉が接触すると、その巨体を優に包み込む爆炎が巻き起こり、その業火はあまりの高温に青く燃え上がった。


「うわああああああッ!!!! ――――あ、あれ?これは」


 レオもその爆炎に巻き込まれそうになった時、光りの結界がレオを包み込んだ。


「考えなしにインフェルノなんか放ったら彼が灰になっちゃいますよ」

「うるさいわねぇ。あなたが守ることくらい想定済みよ。ほら、結果オーライ」

「はぁ……」


 そして、女性は正面の床に杖をトンと立てた。


 今度は女性の周りの大気が白く輝いていく。

 その輝く粒子は杖の先に集約していき、女性は、生成された結晶に艶やかな仕草で息を吹きかけた。


「エターナル・ゼロ」


 輝く粒子がの束が、高温の炎でもがき苦しんでいるメルトドラゴンを包むと、燃え盛る爆炎は消滅し、メルトドラゴンは瞬時に氷漬けとなった。


 氷の彫像のようになったメルトドラゴンはピクリとも動かない。


 レオはその光景に、ただただ呆然とするしかなかった。


「――――頃合いかしらね」


 女性がそう言うと、メガネの少女が手をかざした。

 あたりの小石やがれきが一点に集まって行き、巨大な大岩が生成されていく。


「ボルダー・ショット」


 大岩は氷漬けになっているメルトドラゴンに直撃し、拘束していた氷は砕け散った。

 解放されたメルトドラゴンは力なく地面に腹を付け、グルグルと唸り声を上げている。


 強固に身体を包んでいた鱗も、所々ひび割れていきパラパラと地面に落ち始めている。


「そこのボク!今なら斬れるはずよ!早く始末しちゃいなさい!」

「ど、どこから声が!?」


 レオは辺りを見回した。

 しかし、先ほどまで女性たちがいた屋上にも、二人の姿はどこにもなかった。


《奇跡が起きたよ主!天星を解放するから早くとどめを刺して》


「あ、ああ!分かった!!」


 レオの身体が赤い膜のような半透明の光に包まれ、身体から蒸気が上がり始めた。


《開放するよ!一度きりだから仕留め損なわないでね!》



 一旦は収束した赤い光が爆発したように周囲に広がると、レオは地面を蹴り流星の(ごと)く飛び出した。

 太ももの傷から血しぶきが上がるが、天星による身体強化と大量のアドレナリンの影響でものともしない。


 ちょうどその瞬間、スリとジェイデン、そして稲妻の騎士のパーティがその場に到着した。


「レオ!!」


 氷漬けになり静まり返ったことから、脅威は去ったのかと地下室から様子を見に出てきた人たち、逃げ遅れて屋内に息をひそめていた人たち、そして仲間たち。


 多くの人たちが見届ける中、レオの剣はメルトドラゴンの首を切断した。


 巨躯が力なく崩れ落ち、レオもその勢いで激しく石畳を転がる。


「レオ――――ッッ!!!!」


 スリとジェイデンがレオに駆け寄った。


「レオ!しっかりして!大丈夫!?」

「……あ、ああ。……力が入らないや」

「まったく、凄い奴だよお前は。俺も少し魔力が回復した、今治癒してやるからな」


 スリに膝を貸してもらいジェイデンが治癒している中、レオは辺りを気にした。


「――――スナッシュさんは?無事なのか?」

「スナッシュも無事よ」


 パナメラとデイケルに支えられながら、スナッシュがこちらへと歩いてくる。


「う……」


 ダメージは思ったよりひどく、スナッシュは膝をついた。


「スナッシュ! ――――命があったから良かったものの……もうこんな無茶をしちゃだめよ?」

「――――ああ。すまない」

「今治癒してあげる。私の治癒魔法じゃ気休め程度だけどね」


 レオは安堵の顔を浮かべた。

 あの親子を助けた時の彼の姿。レオの目に映ったスナッシュはまさしく英雄だった。


 ”救おうと思うな”


 スナッシュは戦う前にそう言ったが、やはり人は誰かを守る時にこそ限界を超えた力を出せるんだ。

 レオは彼の姿に、勇者としての自分のあるべき姿を見つけた。


「――――少年」


 スナッシュがレオに語り掛けた。


「見事だった。今の俺にはやつを倒すのは不可能だった」

「俺も同じです。誰かが魔法で助けてくれたんです、じゃなかったら俺は死んでいました」

「――――そうか。だがその強運もお前の力だ。熾烈を極める戦場で生き残る奴は総じて強運の持ち主だ」


 スナッシュは目を閉じた。


「いつか、ドラゴンを打ち倒せるほど強くなろう。俺もお前もな」

「――――はい」


 そして、激戦を乗り越えた戦士たちの周りには、いつの間にか人々が集まってきた。

 人々からは、喜びではなくどこか悄然とした、憔悴しきった様子が見て取れた。


 中には家や店を失った者や家族や友人を失った者もいる。当然と言えば当然のことだ。人々は心に傷を負っていた。


「酷い……あんなにきれいで笑顔にあふれた都だったのに」


 スリは勢い良く立ち上がった。

 そして、民衆に向けて声を張った。


「みんな!元気を出してとは無責任に言えないけど…… 私たちがいる限り、この街にはもうこんな悲劇は起こさせない!だから、信じてほしい!そして、悲しむだけ悲しんだら、前を向いてほしい!」


 民衆はスリの言葉をみな黙って聞いていた。


「私はまだ来たばかりだけど、この街が好き!だから、皆で乗り越えよう!皆には、この街にはあのドラゴンを退治した勇者レオが付いてる!!」

「ちょ、ちょっとスリ。俺はまだ勇者なんて――――」

「フフ、いいじゃないか。心の弱った者たちにはそういう象徴が必要だ」

「スナッシュさんまで!」


 スリの言葉に、民衆がざわめき始めた。


「……勇者」

「本当に、勇者様が守ってくださるの?」

「本当よ!見たでしょ?勇者レオがあの恐ろしいメルトドラゴンを仕留める所を!」


 しかし、まだ人々の表情は硬く、煮え切らない感じが漂っていた。

 そんな様子に、スリは杖を天高く掲げた。


「USA!!USA!!USA!!USA!!」

「お、おい。ここはアメリカじゃないんだぞスリ」

「異世界に来ても私たちはアメリカ人なんだから!気持ちを伝えるの!ほらジェイデンも一緒に!」

「お、おう…… USA!USA!(若干小声)」

「私たちの故郷では、辛い時にこうやって声を合わせるの!!みんなの心を一つにする言葉よ!!皆も続けて!!USA!!USA!!」


 最初はみな口を半開きにしポカンとしていたが、一人の子供が口ずさみ始めた。


「USA、USA、USA」


 釣られるように、子供たちがチャントを口ずさみ始めた。


 そして戸惑いながらも、一人、また一人とUSAコールを口にする者が増え、いつしかそれは大合唱となり街に響き渡った。


 大切なものを奪われ、涙を流しうな垂れている者もいる。しかし、人々はそんな人たちにも寄り添い、手を握り、顔を見て頷き想いを共有し、USAコールを続けた。


「おいおい。どっかの宗教演説かよ、なんじゃこりゃ」


 そう言ってトルアーノが笑った。


「いいじゃない。あんなに暗かった民衆が活気を取り戻したわ。あの子たちはきっと大きくなるわよ、私たちも負けていられないわね。ねえ、スナッシュ」

「――――ああ。当然だ」


 西側諸国で勇者一行と広く呼ばれるようになる三人の物語はここから始まった。

 彼らの運命はこの先どう転がるのか。後に来る避けることのできない出会いから運命は複雑に絡み合っていく。




 ――――街道を進む乗合馬車の中には、女性と少女の姿があった。


「ラーヴェル様が(とど)めを他人に譲るなんて、どういう風の吹き回しですか?」

「ん――? どうかしらね。もう私たちの時代じゃないのよ。新しい時代は若者が作って行かないとね」

「その見た目で言われるとなんか違和感があります」

「なぁに?それは私が若くて美人ってことかしら?」

「まあ見た目だけなら。中身は六十近いババアですけど」

「またこの子は。悪いのはこの口かしら?まだ五十二歳よ!」

「痛いですラーヴェル様。口をつねらないでください」

「――――なんかね。あの子を見てたら、若い頃のアル君を思い出しちゃってね」

「アルメデウス様ですか?たまには会いに行かれたらいかがですか?」

「そうねぇ。そういえば二十年以上会ってないわねぇ。久しぶりに会いに行こうかしら」

「ルーガス様にも会われますか?」

「ん――。あいつには会わなくていいわ。若い頃のままの私に欲情されても困るしね」


 その頃エブンズダールのギルドでは。


「ぶえっくしょ――い!!!!だれだ?俺の噂してる奴は。きっと胸のデカいきれーな姉ちゃんだな。間違いねえ」


次からはまた凛人編です。


お読みいただき、ありがとうございました!


♦筆者イットより♦

ちょっとでも「面白かった」「感動した」「続きが気になる」など思って頂けましたら是非、応援や反応をよろしくお願いします!更新の励みにさせて頂きます。


感想などもお待ちしております。

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