第76話 西方の勇者 其の十二 ”サリーとヴィッツ”
レオとスナッシュは息の合った動きで再び戦場をかき回す。
二匹のドラゴンは二人の高速移動について行けず、ただただ首を右往左往して戸惑っている。
しびれを切らした一匹が、飛翔しようと翼を大きく広げた。だが、二人体制となったウィザード部隊はそれを許さない。
「スリちゃん!!左の奴を飛ばさないで!!」
「は、はいッ!!」
スリはドラゴンを指さし「セット!!」と叫んだ。そして、
「フレイムピラ――――ッッッ!!!!」
炎の柱が、翼を広げたメルトドラゴンを包みうねりを上げた。
メルトドラゴンは数メートルほど飛翔したが、上空まで伸びる炎の柱を脱せず地面へと崩れ落ちる。
すかさずデイケルがその個体にアーマーブレイクを叩きこんだ。
ドラゴンは大きな叫び声を上げる。その一撃でドラゴンの脇腹が二メートルほどの地肌を露出させた。
もう一匹を攪乱していたスナッシュが声を荒げた。
「斬れッッッッ!!!!!」
その声に呼応したレオは、自身の足に目一杯の力を込めた。
《主、ここはチャンス。全力でソニック・ブレイクを発動するよ。速度を乗せて切り裂いて》
「はああぁぁ――――――――――――ッッッッ!!!!」
一筋の光の線がドラゴンの後方まで伸びた。
そして次の瞬間、メルトドラゴンはわき腹から大量の血しぶきを上げて天へと咆哮した。
「やったかッ!?」
レオは叫んだ。だが、メルトドラゴンは地に伏しそうになる寸前で踏ん張り、目を真っ赤に紅潮させた。
しかしそこは歴戦のS+パーティ。パナメラは詠唱を唱え、その個体に杖をかざした。
「そろそろ眠りなさい!! ボルトスフィアッ!!」
放たれた電撃の球体は、鱗がはがれ深く切り裂かれた患部に直撃し、メルトドラゴンはバリバリと音を立て爆ぜる電撃に包まれた。
――――天を見上げ動きが止まった。
斬られた幹部と口からから黒い煙を上げ、ドラゴンはその巨体をゆっくりと地に伏した。
「よっしゃあ!!一匹討伐したぜ!!」
トルアーノが歓喜の声を上げ、全員の気が少し緩んだその時、パナメラが攻撃をやめ野放しになった一匹が大口を開け、パナメラとスリ、そしてトルアーノがいる結界へと怒りの熱線を放った。
「し、しまった!!スリ!!」
「――――パナメラ!」
誰がどう見ても間に合わない。たとえ俊足で間に合っても、熱線を防ぐことも三人を抱えて避ける暇もない。
スリとパナメラは互いに抱き合い、目を瞑った。
その時、三人の前に大きな影が立ちはだかった。
「じぇ、ジェイデン!!逃げて!!」
スリの声にジェイデンは「任せろ、俺はお前たちの盾だ」そう言って両手を前方にかざした。
「虚像の盾!!!!」
結界の前に、薄緑の光を鈍く発光させた巨大な盾が出現した。
これはジェイデンのスキル。自身の魔力値によってその強度が変化する守護の要だ。
「きゃああああ――――――――!!!!」
スリたちは高熱の光に飲み込まれた。
「――――ス……スリ……」
――――前線に出ていた三人がその生存を諦めて俯きかけた時、収まっていく光の中から黒い影が見えた。
「あ……あれは。 ――――ジェイデン!!」
レオは安堵の笑顔を見せた。
そこには、ジェイデンが勇ましいいで立ちで三人の前に仁王立ちをしていた。
もちろん後ろの三人も無事だ。しかし。
「うっ――――」
ジェイデンは身体から煙を上げ、その場に片膝をついた。
今のジェイデンの魔力では、熱線を完全には防ぎきれていなかった。
「ジェ、ジェイデン!!しっかりして!!」
「あなたヒーラーでしょ!?早く治癒を!」
「……情けないが、今ので魔力切れのようだ。身体が……重い」
「――――私に任せて」
パナメラがジェイデンの横に寄り添い、背中に手を添えた。
「パナメラさん、治癒魔法もできるんですか!?」
「ええ。私は教会育ちだから神聖魔法を少し使えるの。ただのヒールで治癒できればいいけど」
「すまない。これくらいの火傷なら、俺の自動治癒で時間さえあれば治るんだが」
「いいから黙っていて。軽い火傷じゃないわよ」
レオも一瞬肝を冷やしたが、何とか無事なようで胸をなでおろした。
「よかった」
《ジェイデンの固有スキル"不屈"も併用すれば無傷だったんだけどね。まだ彼も慣れていないから仕方ないね》
「マジか……凄いなジェイデン」
「まだもう一匹いる、気を抜くのはまだ早いぞ」
スナッシュの言葉にレオたちは再び臨戦態勢に入った。
《主、まだドラゴンの魂とマナは霧散してない》
「え、どういういことだ?」
《まだ完全に死んでいないってこと、早くこの剣でとどめを刺して》
「あ、そうか!きちんと報酬はもらっておかないとな」
レオは倒れているドラゴンの元へ行き、鱗の砕けている部分に剣を突き刺した。ドラゴンの身体は大きく脈打ち、その目からは生気が失われ、完全に息絶えた。
メルトドラゴンの身体から魂とマナが青い粒子となり吹き出し、剣に吸い込まれた。
《じゃあ、ドラゴンの魂とマナを二人にも分配するね。これでレベルアップは確実だよ》
レオは拳を握った。
(レベルアップはやっぱりすごい。身体の変化を如実に実感できる……これなら!)
《無理だよ。親ドラゴンにはこの面々ではまだまだ勝てない。過信したら全滅だよ》
「たはは……お見通しってわけね」
レオはソニックブレイクで駆けながら考えた。
子ドラゴンは残り一匹。このメンバーなら一匹減った分、もう一匹を倒すのも時間の問題。でもその後の親ドラゴンはどうする?
成長した俺たちを加えても倒せないなら……
王国軍の到着を待つか?いや、勘だけど、それだと無駄に被害が広がるだけな気がする。
下手に刺激してもしここから近い王都にでも行かれたら……
思考を巡らせているうちに各々が自分の役割を完ぺきにこなし、デイケルの一撃でメルトドラゴンの鱗が再び大きく破壊された。
そして、今度はスナッシュが光る斬撃を容赦なく二度三度とたたき込み、メルトドラゴンは断末魔を上げて絶命した。
一匹となった幼体は、連携の取れ始めた二組にとってはさほど手こずる敵でもなくなっていた。
しかし、天に上るような断末魔は、七人に安堵の暇すら与えなかった。
「――――来る!」
スリは山頂を見上げ、一言発した。
上空からは、先ほどの個体とは全く違う野太い咆哮が響いた。
地面が大きな影で黒く染まっていく。
徐々に強くなっていく風に、パナメラは先んじて結界を張った。
「へへ、ついにママのお出ましか?」
トルアーノがこめかみから一筋の汗を流し、若干口元を引きつらせながら虚勢を張った。
徐々に下降してくるにつれ露わになるその巨体に、一同は身体を力ませた。
その咆哮は地を振動させ、腹の奥までビリビリと響かせる。
地上はもはや竜巻の中のような暴風になっていた。メテイーオラ、嵐の巣とはよく言ったものだ。
息もできないほどの渦巻く風の中、レオたちはその姿をなんとか視界にとらえた。
幼体の倍以上はありそうなその巨躯と黒く光るその鱗。すべてを捕食の対象としか見ていないようなその血の通っていない眼光。
レオは背筋が凍るような恐怖を感じた。
絶対に勝てるわけがない。
その姿を見て、レオが真っ先に感じたのがそれだった。
結界を張っているパナメラすらその暴力的な風には耐えられず、一同は数十メートルの距離を吹き飛ばされ、地面へと激しく転がった。
「うっ……みんな!!だ、大丈夫か!?」
レオはなんとか立ち上がり辺りを見ると、スリとパナメラが倒れている。
男性陣はなんとか膝を付きながらだが体を起こした。
「スリ!!パナメラさん!!」
「大丈夫、気を失ってるだけのようだ」
駆け寄ったレオに、ジェイデンが伝えた。
成体のメルトドラゴンは、息絶えた自分の子供たちを確認すると、荒れ狂ったように翼を広げ、咆哮を上げながら飛び立った。
「お、おいおい…… ガキども放置してぐーすか寝てたくせにブチギレかよ。そんなに大切ならケツに噛みついて見張っておけや」
トルアーノが頭から血を流しながら吐き捨てた。
飛び去って行くメルトドラゴンをスナッシュは目で追っていた。そして、レオのもとに歩み寄った。
「――――少年。まだ走れるか?」
「はい。まだ大丈夫です」
「やつが飛び去ったのは王都の方角だ」
「お、王都!?」
レオが考えていた最悪の想定が起ころうとしていた。街にはギルドのみんな、そして鍛冶屋のヴィッツさんとサリーさんもいる。
そして三人で街を散策している時に見た人々の幸せそうな顔が脳裏をよぎった。
「俺とお前の速度で向かえば、今からなら被害が少ないうちに追いつける。行くぞ」
「はいっ!!」
レオとスナッシュは走り出した。
「あとで俺たちも向かうからな!」というデイケルの声に振り向きもせず、二人は韋駄天のように荒野を駆けた。
追いついたところで、幼体にも決め手がなかった自分たちでは何もできないかもしれない。
でも、走らずにはいられなかった。
きっと、スナッシュも同じ気持ちなんだろうとレオは思った。
♢ ♢ ♢
――――二人が到着する前に、王都にはすでに被害が出ていた。
人々は空からの突然の来訪者に驚き、叫び、逃げ惑った。
巨大な翼で奴が羽ばたくたびに、露店はおろか建物さえもひび割れ、そして砕かれ吹き飛ばされた。
人間など紙屑のように空を舞い建物やがれきに身体を打ち付け命を落としていく。
そして、メルトドラゴンは街の中央に位置するギルドの付近にまでその魔の手を伸ばし、ヴィッツたちの店にも被害が出ようとしていた。
「何事なの!?」
店からサリーとヴィッツが姿を見せた。
「こ、こいつは!もしかしてメルトドラゴンか!?」
「おそらくそうね。まったく、凶悪な面して。商売あがったりじゃないの」
メルトドラゴンは吹き飛ばされて絶命した遺体を貪っている。
死肉を漁る習性があるようだ。
おぞましい顔がこちらを向いた。二人に気づいたメルトドラゴンは翼を広げ威嚇を始めた。
「クソッ!!おれがこんなじゃなければ……」
ヴィッツはズボンの裾をまくった。その片足には義足がはめられていた。
「あなたは店の地下にいて、この店は私が潰させはしないわ」
「バカを言うなサリー!!役立たずだが俺もここで戦うさ!!」
翼をひと扇ぎさせると、暴風が二人を襲った。
「――――店が崩れるからそれやめなさいっての!! グレイシア・アーマー!!!!」
サリーが杖を掲げると、その身体を艶やかな氷の鎧が包み込んでいく。
「――――コキュートス!!!!」
立て続けに魔法を発動するサリー。メルトドラゴンの周囲一帯が凍り付いていき、周囲の温度が急激に低下した。
その効果は広範囲にわたり、ギルドから出てきていた冒険者たちも、慌ててそのフィールドから逃げ出す。
「名前の通り寒さは堪えるんじゃない?少しは頭が冷えたかしら!?」
効果は覿面なようで、メルトドラゴンの動きが若干鈍くなっている。
ドラゴンはその場から脱出しようとぎこちなく動き出した。
「良い子ね!そのままあっちに行ってちょうだい!グレイシャル・バイト!!!!」
巨大な氷の牙が地面から突き出し、メルトドラゴンを激しく突くと同時に、砕けた氷が表面に広がり身体を凍らせていく。
メルトドラゴンは、これはたまらないと言った感じでその場を後にし、街の中心街から消えていった。
「フゥ…… なんとかなったわね」
「まださほど腕は鈍ってないなサリー」
サリーの健闘を見ていたギルドの面々が二人の元へ集まってきた。皆目を爛々とさせている。
「あ、あんたすごいな!!ただの鍛冶屋の若女将じゃなかったんだな!」
「もしかして、あのまま倒すこともできたんじゃないのか?」
「それは無理よ。嫌がらせをして追い返すのが精いっぱい」
そう言って小さく手を広げたサリーは、ヴィッツの顔を見て微笑んだ。
「あなたが健在だったら、二人なら何とかなったかしらね」
「無茶を言うな。あんな化け物を倒すなんてそれこそ一握りの上位の称号持ちくらいさ。元ゴールドの俺と第四階級ウィザードのお前じゃ良くて相打ち、いや手負いにするのが関の山だな」
「でも、まさか伝説が本当であんなのが来るとはね……」
――――その頃、少し遅れてレオとスナッシュが王都へと到着した。
次回で西方の勇者編はクライマックスです。
少し長くなってしまいましたが、ここまで読んで頂いて感謝です!
これからレオと凛人の運命は要所要所で絡み合うことになります。両者は敵になるのか、はたまた共に戦うのか……
お読みいただき、ありがとうございました!
♦筆者イットより♦
ちょっとでも「面白かった」「感動した」「続きが気になる」など思って頂けましたら是非、応援や反応をよろしくお願いします!更新の励みにさせて頂きます。
感想などもお待ちしております。




