第75話 西方の勇者 其の十一 "共闘"
立ち昇る炎は熱線を吐く寸前だった巨体を飲み込み、うねりを上げた。
「こ、これはフレイムピラー!? いったい誰が火属性中級の高位魔法を――――」
パナメラは上空へ昇る炎の柱を見上げた。
他の面々も同じだ。炎に包まれ吠えるメルトドラゴンを見て目を見開いている。
「――――なんとか間に合った?」
稲妻の騎士の四人は声の方向を一斉に見た。
その目線に先には、装いを新たにしたレオ、ジェイデン、スリの三人の姿があった。
「全員無事のようだな、よかった」
「うん。やっぱりギルドの前で会った人たちね。四人ちゃんといる」
「――――あれがメルトドラゴンか。ドラゴンというよりデカい鳥に見えるな」
「あの子たちは―――― ギルドのところにいた子たち……かしら」
パナメラは目を大きくして呟いた。
スナッシュの視線も三人を捉えていた。
再びレオと視線が合う。
レオたち三人は、加勢すべくパナメラのところに駆け寄った。
「ありがとう。あなたのおかげで命拾いしたわ」
パナメラはにこりと笑った。
「間に合ってよかったです。それより――――」
スリはメルトドラゴンを一瞥した。
「もう一匹が来る前にあいつらをなんとかしないと」
「え? もう一匹って……ドラゴンはあの二匹だけじゃないの!?」
「はい。王都に着いたとき、山から三つの魔力を感知しました。――――大きいのはまだ上にいるようですね」
(上って……この岩山は標高千メートル以上。この子、あんな上空の魔力も探知できるの?)
パナメラは驚いた顔でスリを見た。
「あんたたち!助かったぜ!」
デイケルがこちらへと駆けてきた。
「デイケル、ドラゴンは三匹いるみたい」
「はい。大きい反応はまだ山の上にいるみたいです」
「ま、マジかよ……それは間違いないのか?」
「スリの魔力探知は正確です。大きいのがまだ上に」
デイケルは声を張り上げた。
「スナッシュ!!もう一匹デカいのが上にいるみたいだ!!」
スナッシュは変わらず、冷酷と言えるような無表情、良く言えば冷静な顔でレオを立ちを見た。
「ならば悠長に挨拶をしている暇はない。そいつらが加われば戦況も少しはマシになるだろう、居ないよりはだがな」
カチ―ン!!
「は!?」
スリの口から、乾いた声が漏れた。
眉間にはっきりと不快の溝が刻まれたスリを見て、デイケルが両手を顔の前で合わせて気まずそうに笑った。
「違うんだ!”さっきは助かった。君たちがいれば心強い、共に戦おう”ってスナッシュは言ってるんだ」
「何なのよそれ!それに、ギルドで会った時も思ったけど表情筋が存在しないんじゃないの?あいつ」
「ま、まあまあ落ち着いて。スリ」
「許してあげてスリちゃん、あれでも昔は素直な子だったのよ。今よりちょっとだけね」
和やかな雰囲気もつかの間、ドラゴンは再び動きを見せた。
一匹が巨大な翼を羽ばたかせ宙に舞い上がり、再び嵐のような暴風がパーティらを襲う。
「うあッッッッ!!この風は……ヤバい!!!!」
「きゃあッッ!!」
「掴まれ!!スリ!!」
飛ばされそうになったスリの腕をジェイデンが掴み、スリもジェイデンの腕を強く握った。
「みんな!!結界に入って!!」
パナメラの展開した結界に避難する一同。スナッシュも地面に剣を突き立て、飛ばされないようにするのがやっとだ。しかし、その眼光は二匹のドラゴンから逸れることはない。
巻き上がる暴風でスリのフレイムピラーの炎も消え、もう一匹ものそりと動き始めた。
「ウソ!!無傷なのあいつ!?」
「いいえ、ダメージは受けているわ。強固な鱗も、あの炎に包まれれば内部に熱が通ってるはず」
しかし、アラクーネのように仕留めることはできなかった。
火の消えたドラゴンは、身体から煙を上げながら翼を広げ威嚇の咆哮を上げた。
ついにレオたち、そして稲妻の騎士の共闘が今始まった。
「よしっ!行くぞ!スリ、ジェイデン!」
「腕が鳴るぜ」
「ラジャー!」
「ちょっと待ってくれ!!」
結界から出ようとするレオたちをデイケルが呼び止めた。
「どうかしたんですか!?」
「あいつらの鱗は生半可な剣じゃ通らない。でも、俺のスキルとバスターソードならあの鱗を砕ける。だから俺が一撃を入れられるように隙を作ってほしいんだ」
「わかりました。とりあえず俺は前線に出る!ジェイデンは――――」
「俺はここに残って二人の盾になる。任せておけ」
「わかった、無茶はするなよ」
「ああ、お前もな」
パナメラは上にいるトルアーノに合図を送った。トルアーノもその意図を理解して親指を立てた。
「飛ばれちゃ厄介なんだよ、俺が上にいることを忘れんじゃねえぞ!!」
トルアーノはまたも葉巻型の飛行爆弾を数本取り出し、飛翔しているドラゴンへ向けて発射させた。
その爆弾は、またもドラゴンの羽の付け根付近に全弾命中。
「よっしゃ!!舐めんなよ鳥トカゲが!」
爆弾は爆発を巻き起こし、ドラゴンはバランスを崩し再び急下降していく。しかし――――
怒りで目を赤く染めたメルトドラゴンは、落下しながらトルアーノへ向けて熱線を放射した。
「こ、これはやべえ!! ――――うぁおっっ!!!!」
間一髪、トルアーノは岩肌から飛び降り熱線を回避した。そして、
「この野郎、俺からもプレゼントだ!!受け取れ!!」
着地したトルアーノは、手製手りゅう弾のピンを素早く引き抜くと、落下し起き上がったメルトドラゴンの腹下に四つ放り投げた。
手りゅう弾はメルトドラゴンの下で連鎖的に爆発を起こした。手製のものとは思えないその威力は、手りゅう弾というよりもはや小型のダイナマイトのようだった。
しかし、体勢を崩すことには成功したが、腹までびっしりと生えている鱗のおかげでやはりダメージはさほど通らない。
二人体制となったウィザード部隊も動き始める。
「スリちゃん、ファイアバレットかフレアボールは使える?」
「はい、両方使えます」
「じゃあ私たちは魔法であいつらの行動に制限をかけるわよ、見てて」
そういうと、パナメラは二つの魔法を交互に放ち、足元や顔を的確に攻撃していく。
「……すごい、狙いも正確だし二つの魔法を交互に連射なんて私にはまだできない。しかも結界を張りながらなんて」
「フフ、ありがと。術式の連続切り替えはちょっと難しいからね。じゃあ、スリちゃんはノックバック効果の高いファイアバレットでもう一匹を攻撃して。羽を広げたり口が開きそうになったらフレイムピラーで阻止してくれる?」
「は、はい!!」
スリの様子を確認したレオは結界を飛び出し、剣を抜いた。
「さて、行こうか!!」
《主、今の私じゃあの鱗に傷をつけるのが精いっぱい。あの大剣の人が攻撃しやすいようにソニック・ブレイクでかき回すよ》
「オーケーッ!!頼むぜ相棒!!」
レオはソニック・ブレイクで、メルトドラゴンの注意がデイケルに向かないように動き始めた。
爪、そして大きな尾の攻撃を高速で交わしていく。
その攻撃は岩を抉り、そして砕いていく。一撃でも喰らったら致命傷になりかねない危険なものだ。
《主、長期戦になっても良いようにソニック・ブレイクの速度は三分の二程度にとどめておくよ》
「わかった!」
――――速い。
スナッシュはレオの動きに驚いていた。
そして思った。あの若者に後れを取るわけにはいかない。自分と似た俊足タイプの剣士であるレオに、冷静なスナッシュが珍しく対抗意識を持った。
スナッシュも地面を蹴り、自慢の足でもう一匹を攪乱していく。
「スリちゃん、二人に当てないように気を付けてね!」
「当てないようにって…… 動きがほとんど見えないです」
「フフ、実は私もよ。当てちゃったら後で謝りましょう!」
「なに、怪我をしたら俺が治してやる。気にしないで撃て」
「え、あなたヒーラーなの?その身体で?」
「ああ、ヒーラーとタンクが俺の役目だ」
「アハハ、ホントおかしいですよね。この見た目でヒーラーって」
一方、近接戦組の戦闘に動きがあった。
魔法による攻撃と、レオとスナッシュの動きに翻弄された二匹は身体をぶつけ合い、バランスを崩した。
「今だッッ!!!!」
デイケルがその隙を見逃さず、再びアーマーブレイクを叩きこむ。
その繰り返しで、徐々に強固な鱗が砕け、剝がれていく。消耗戦と言える戦いだが、着実にレオたちが優勢になりつつあった。
その最中、レオとスナッシュが中央で互いに背を向け合った。
二人は目線を合わせずに言葉を交わした。
「少年。デカいのが上にいると言ったな」
「はい、多分親なんじゃないかと。こいつらは卵を産んで眠る習性があるようなので」
「なるほど。こいつらはまだ戦いを知らない子供というわけか。どうりで動きが拙いわけだ」
スナッシュはデイケルに叫んだ。
「デイケル!あの巨体では突き刺しても致命傷にはできない!斬り裂けるように一ヵ所を集中的に剝がせ!できるか!?」
「ラジャー!!思う存分斬れるように広めに剥がしていくよ!!」
そしてまたレオに声をかけた。
「幼体に時間をかけてはいられない。デイケルが剥がしたら一気に仕留めるぞ」
「はいっ!!」
戦場で背を預け合った僚友は、剣を強く握りしめた。
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♦筆者イットより♦
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