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第74話 西方の勇者 其の十 ”百死一生”

 三人は意気揚々とギルドの扉を開いた。しかし、


「――――あれ? ……なにこの雰囲気」


 スリの言う通り、ギルド内にはどんよりとした重苦しい空気が立ち込めていた。

 奥には兵士と思われる、紋章の入った鎧を着こんだ男が二名。ギルド長と何やら話しをしている。


 いつもはにぎやかに談笑をしている冒険者たちは皆うつむいて席に座り、兵士とギルド長から顔をそむけている者もいる。

レオは先ほどとは全く違うギルド内の空気に、胸のざわつきを感じていた。


 事情を聞こうと、レオたちはアンジェに話を聞こうとカウンターへと向かった。


「あ!レオさん!」


 アンジェは(すが)るような目つきでレオの名を呼んだ。


「どうかしたんですか?いつもとギルドの様子が」

「それが大変なんです!あの――――」


「おお――――!!!!探してたのよね!!君たち!!」


 アンジェを遮り、ギルド長が叫びながらこちらへ飛んできた。

 汗を滲ませ血相を変えたその顔は、起きていることがただ事ではないことを察するには十分なものだった。


「ささ!彼らなのね!」


 ギルド長の言葉に、兵士たちの視線はレオたちに注がれた。


「――――彼らが?」


 兵士たちはレオたち三人に、値踏みをするかのように視線を這わせた。

 やはりジェイデンのことが気になるようで、その視線は彼のところで止まりがちになる。

 スリはそれも気に入らないようで、兵士たちの態度にやや不機嫌そうな顔をして鼻からため息のように息を吐いた。


「そうなのね!彼らがこのギルド三十年ぶりのSランク冒険者なのよね!」

「まだ子供のように見えるが、本当なのですか?」 


 兵士の疑問も当然である。国によって成人のとみなされる年齢は違う。

 ヴォルフ・ガーナインやオルディアは十五歳で成人とされているが、ここタイリースでは二十歳が成人なのだ。


 まだ十七歳のレオたちはこの国では子供の年齢である。

 しかし、ギルドは連盟を通じて規定は共通であり、十五歳から登録ができるので問題はない。

 兵士の疑問は、この若さで本当にSランクなのか?ということだ。


「もちろんなのね、彼らはあのアラクーネを瞬時に討伐できる実力なのよね」

「あ、あのアラクーネを!では彼らが!」


 その言葉で兵士たちの態度が一変した。


「君たち、一刻も早くメテイーオラへ向かってほしい」

「ちょ、ちょっと待ってください。話が見えないので説明をお願いできますか?」

「これは失礼、もう知っているものかと思って話してしまった。――――メルトドラゴンが現れたのだ」

「メルトドラゴンが!?」


 レオとスリはまさかといった表情だ。ジェイデンは表情を崩さず冷静に兵の話を聞いている。


「気づかなかった……」


 スリは考え込むように親指の爪を噛んだ。

 スリは、あの山で気配を感じてから常にアンテナを張るようにしていた。

 しかし、初めて散策する異世界の町に浮かれて、注意力が散漫になっていたことに気づいた。


 魔力探知が得意な自分はいわばパーティの監視塔。敵をいち早く察知し、常に敵の先手を取り不意をつかれないようにするのが自分の務め。

 こんなことではこれから先、大切な親友を守れない。

 人一倍責任感の強いスリは、すぐ調子に乗ってしまう癖のある自分を強く戒めた。


「それで、被害は?」

「今のところは確認されていない。一組の冒険者パーティがメテイーオラで食い止めてくれているおかげだろう」

「冒険者が?」

「ああ。なんでも、他国から来た冒険者らしい。メルトドラゴンの目覚めも、そのパーティの使い魔が知らせてくれたのだ」


 他国から来たという言葉に、レオの脳裏にはギルド前ですれ違ったあの男の顔が思い浮かんだ。


「残念ながら戦えそうなパーティは君たちしかいないのね。他の国の冒険者に任せっぱなしにするわけにもいかないから、すぐに加勢に向かってほしいのね」

「我々も軍の編成や承認にまだ時間がかかる!頼む!」

「わかりました!今すぐ向かいます!」

「すまない。こういう時は身軽な冒険者が羨ましく感じるよ……我々は軍を動かすにも色々と面倒でな。国民の危機だというのに……」


 兵は俯き、拳を震わせた。

 国家という巨大な組織ゆえの不自由さに兵の顔は不甲斐なさに溢れていた。


 レオたちは出発の言葉も口にせずギルドを飛び出した。


 三人は持ち前の常人離れした脚力でメテイーオラへと走った。

 しかし、スリはまた親指の爪を噛み、なにかを考えている様子だ。


「スリ、どうかしたのか?」

「ん?うん…… このまま向かってなんとかなるのかなって」

「レベルのことか?」

「うん。私の感知した強さだと、小さいの一匹なら多分なんとかなる感じ。でも、大きいのは私たちじゃまだ無理なのよ」

「小さいのは二匹だったな」

「そう。だから、このまま向かってもどうなるのかなって」

「今戦ってるのは多分ギルドの外ですれ違ったパーティだ。あのパーティは俺たちより強いってスリ言ってただろ?協力すれば何とかなるかもしれない」

「違うの。あの後、それを加味して想像してみたんだけど、私のシミュレーションではどうしても大きいのは倒せなかった。桁違いなのよ、大きい奴の力は」

「――――それでも、今は行くしかないんだ。やれるだけやってみよう」


「そうだ!」スリは手をパンと打った。「こういう時こそ剣に聞いてみましょう!?アラクーネの時みたいに何かいい案があるかも」

「なるほど。レオ、何か聞いてみてくれ」

「オッケー!」


 レオは剣を鞘から抜いた。


《ん~。 おはよう、主》


「寝てたのか…… 寝起きのところ悪いんだけど、手を貸してほしいんだ」


《知ってるよ、メルトドラゴンと戦うんだよね?》


「さすが!話が早いなっ!! どうやったら勝てるか教えてほしいんだ!」


《えっとねぇ――――》


「うんうん」


《無理だよ。どうあがいても今の君たちが親ドラゴンに勝つのは無理。天地がひっくり返ってもね》


「え?」


「ねえねえ、なんだって?なんて言ってるの!?」


「あのさ―――― 無理だって……」


「え……」


「あはは…… どうしよ」


「えええぇぇ――――――――――――!!!!!!」



♢ ♢ ♢ ♢



 一方、メテイーオラでは危機的な状況を迎えていた。


 大きく開いたメルトドラゴンの口が光を発し、輝く光線が放射された。


「あ、あれはまずい!!」


 デイケルが大きな声を上げた。そして、



「左右に散れ!!避けるんだ!!!!」



 スナッシュの声にデイケルは即座に反応し、横へと飛んだ。


「む、無理ッッ!!!!」


 しかし、結界を張り一匹の動きを止めていたパナメラは完全に出遅れてしまった。


 ――――絶体絶命。その時。


「うっ!!」


 持ち前の俊足を生かし、スナッシュは紙一重で熱線からパナメラを救った。


 しかし、


「あ、ありがとうスナッシュ、助かったわ。――――あっ!!」


 地面の土には、ぽつりぽつりと血が滴っていた。

 スナッシュはパナメラを抱えた時、熱線を躱しきれず肩に怪我を負っていた。


「スナッシュ!」

「問題ない。かすり傷だ」


 スナッシュは表情一つ変えず、すくっと立ち上がった。そして言葉を続けた。


「パナメラ、もう一度一匹を止められるか?」

「え、ええ。それは大丈夫だけど……でももう一体が」

「一度に多くのことを考えても先へは進めない。今できることを一つ一つ潰していく。その後のことはそれから考える」

「――――わかったわ」


 そして、デイケルにも指示を出した。


「パナメラが動きを止めたらそいつの鱗にお前のバスターソード(大剣)アーマーブレイク(鎧割り打撃)を叩きこめ。あの羽のような(はがね)の鱗が邪魔だ」

「ラジャー!スナッシュ!」


 三人は各々の役目を果たさんと動き始めた。


 岩山に張り付いているトルアーノは上空から手製の手りゅう弾をばら撒き二匹のドラゴンを翻弄。

 パナメラは再び結界を張り、ファイアバレットとフレアボールを一匹の口元を狙って発射し続けた。


 だが一匹は野放しの状態。いつまた熱線が来るかわからない。

 事態は急を要していた。


「デイケル!!いけっ!!」

「うおおおおおおお――――ッ!!!!」


 デイケルは山肌伝いに駆け、一匹の真横に滑り込んだ。176㎝と戦士としては小柄な体格を生かした速攻だ。そして、自分の背丈ほどもあるバスターソードを構え、ハンマー投げのように勢い良く体を回転させた。その刀身は、徐々に薄紅色の光を帯びていく。



「アーマーブレイクッッッ!!!!!!!!」


 デイケルの鎧割り打撃は、メルトドラゴンの脇腹に直撃した。

 驚いたメルトドラゴンは雄たけびを上げ、土煙を上げながら首をうねらせた。


 黒光りの破片が中空に飛び散る。

 デイケルの一撃は、見事にメルトドラゴンの強靭な鱗を破壊していた。


「よしっっ!! あとは任せた!!スナッシュ!!」


 デイケルの言葉にスナッシュが反応し、縮地ともいえる俊足で一気に間合いを詰めた。


 だがしかし、


「だめだ!!パナメラから離れるな――――ッッ!!!!」


 上空の岩肌にいるトルアーノの声が辺りに響いた。


 もう一匹のドラゴンが、先ほどよりも大きく口を開け熱線を吐き出そうとしているのを、上にいるトルアーノは見えていた。


 その照準はまたもやパナメラ。結界と魔法を行使し、高魔力の発信源となっているパナメラは奴らにとっては格好の的となっていた。


「パナメラッッ!!!!」


 スナッシュが足を止め、戻ろうとするも、


「ダメよスナッシュ!!奴を討って!!私はいいから!!」


 自己犠牲。熾烈(しれつ)な戦いの場ではそう珍しくはない光景。スナッシュもそれは分かっている。騎士として戦場に出ていた時も同じ場面は多々あった。

 だが、頭では理解してはいても感情というものは時として思うように動いてはくれない。


 足を止め、一撃を入れるチャンスも不意にし、かといってパナメラの元へはもう間に合わない。

 冷静沈着なスナッシュの脳内コンピューターが乱れた。


 だが、慈悲などは遠い絵空事といわんばかりに、熱線は放出されようとしていた。

 熱線の光に照らされ、パナメラは覚悟を決めたかのように静かに目を閉じる。



「フレイムピラーッッッ!!!!!!!!」


 その時、轟音とともにメルトドラゴンが炎の柱に包まれた。

いやはや……

あと少しで”西方の勇者”編もクライマックスです。少し長く書きすぎました。

その後は再び凛人編に戻りストーリーが進んでいきます。この地球出身の両者がどう絡んでいくのか、ご期待ください!!


そして、レオたちの元に意外な人物が?今までの話しの中に少し名前が出た程度なのですが、はたして覚えている人はいるでしょうか?


お読みいただき、ありがとうございました!


♦筆者イットより♦

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