第73話 西方の勇者 其の九 ”嵐の前の静けさ”
「ねえ、どこいこうか!せっかくの王都なんだから色々と見て回らない?」
スリがとても楽しそうに街並みを眺めている。
「それもそうだな。息抜きも大事だし、この国を知るのにも見て回るのはいいかも」
「俺も異論はない。異世界のファッションにも興味があるしな」
意見は一致し、三人は異世界観光をすることになった。
レベル上げはいつでもできるし急ぐこともない。それよりも、まずはこの世界を知ることも大事だと思った。
「みなさ――ん!!」
受付嬢のアンジェが息を切らしながらこちらへと走ってくる。
「はぁ――。間に合ってよかった」
「どうかしたんですか?アンジェさん」
「みなさんすぐに出て言っちゃうんだもん。報酬を忘れてますよ!はい、お受け取りください」
レオたちは、少しバツが悪そうに金貨を受け取った。
「みなさんこれからどちらへ?」
「服というか、装備を整えようかと思ってます」
「あー、その恰好は少し目立ちますもんね」
「ねえアンジェさん、どこかいいお店って知ってますか?」
アンジェは口に指を当てて考えている。
「ん――。あ!ここから二区画先を左に曲がったところに冒険者さん用の鍛冶屋がありますよ。他の店よりちょっと高価な店ですけど、良いものが揃うと思います」
お金にも余裕があるし、せっかくだから良いものを揃えよう。
アンジェの提案を受け、三人はその店に向かうことにした。
一行は初めて目にする異世界の街並みを堪能しながら町を歩いた。
自分たちは違う世界にいる。それだけで、下手な観光地に旅行するよりも三人の気分は高揚した。
「可愛いのがあるといいなぁ。でも、そんなに贅沢しちゃっていいのかな」
「”安物買いの銭失い”という言葉が日本にはあるからな。納得できるものを揃えよう」
「なに?それ」
「安いからって品質が悪い物を買うと、結局はすぐに壊れたり、メンテナンスに費用が掛かって損をするって言葉だ」
「ジェイデンの言うとおりだ。良いものを揃えていた方が安心感も違う、俺たちは命を懸けて戦うんだからな」
「それもそうね。――――あ!これ可愛い!!あ!これも!これなんだろう、魔法の道具かな!」
スリは先ほどの心配はどこ吹く風といった感じで露店の商品を購入していく。
「お、おいおい。良いものを揃えるのと無駄遣いは違うぞスリ」
「ハハハ」
和やかな雰囲気で街を歩く三人は、ほどなくして鍛冶屋の前に着いた。
見るからに格式の高そうなその店のウインドウには、騎士でも装着するかのような精鍛な造りの鎧などが飾ってある。
レオはやや緊張した面持ちで扉を開けた。
「――――よし入ろう」
入った瞬間、金属の香りが鼻腔に広がった。
店内には様々な鎧や武器、そして装飾品が飾られてある。奥には肌着だろうか、衣服が置かれてあるエリアがあった。
「いらっしゃい。じっくり見てもらっても構わないが、不安なら俺がおすすめのものを選んでやるぜ」
カウンター内にいた頬に傷のある男性が声をかけてきた。
「あ、はい」と返事をし、レオたちは店内を物色した。
しかし、知識に乏しい三人はどれを選んだらいいのかわからず、ただ困惑していた。
そんな雰囲気を察したのか、店主と思われる男がカウンターから出てきた。
「兄ちゃんたちは初心者かい?どんなものを探してるんだ?うちは何でも揃ってるぜ」
「俺は、動きやすくて、でも体をしっかりと守ってくれるような鎧とか……かな。出来ればカッコいい物を……」
「俺は鎧とかは別にいい。肉体を目立たせるような衣服と装飾品がほしいな」
「私は……なにがいいんだろ……鎧とかはなんか違うし」
「オーケーオーケー。じゃあ一人ずつ見てやろうか、まずはそれぞれの適性……ジョブを教えてもらえるか?」
レオたちは自分の適性を店主に話した。
レオは「自分は勇者です」とは気恥ずかしくて言いにくかったので、騎士のようなものと濁して伝えた。
「なるほどね、お嬢さんはウィザードか。じゃあ少し待っててくれ。おいサリー!サリー!いるか?」
「ハイハーイ」
店主が叫ぶと、奥の方から女性の声が聞こえた。
「ヴィッツ、どうしたの?」
「あ、この人って――――」
姿を見せた女性は、胸元の空いた少しセクシーなローブを纏い、ウィッチハット(魔女帽子)を被った二十代半ばか後半くらいの女性だった。
レオとジェイデンはその女性に見惚れ、「ゴホン!!」というスリの咳払いで我に返った。
「ハハハ、良い女だろ?少年たち。俺の女房のサリーだ」
「よろしくね、サリーよ」
サリーのウインクに、レオは頬を赤らめ目をそらした。
「素敵!夫婦でお店を経営なんて憧れる」
「まあ、色々と事情があってな。それよりサリー、このお嬢さんの装備を見てやってくれ」
「いいわよ、さあ、こっちへいらっしゃい」
スリはサリーに連れられて奥へと歩いて行った。奥にはウィザード用の装備も揃っていて、武器と防具が並ぶこちらの部屋とは空気感も別な感じだ。魔道具なども置いてあるのだろう。
「じゃあ俺たちもビシっとしたのを選ぶか。予算はどれくらいだい?」
「今のところ金貨一枚ほどです。でも、全部は使わず三分の一くらいは残しておきたいんです」
「まあ生活費もあるしな。だけど、それくらいあれば上等なのが揃えられるぜ」
店主は二人の希望を細かく聞き、試着を繰り返しながら真剣に選んでくれた。
店内にあるものは、さすがアンジェが良い店だと言っていた通り造りもデザインもしっかりとしていて、高価ではあるが目移りする物ばかりだった。
ジェイデンは身体の線が強調されるような装備を好み、アクセサリー類を熱心に見ている。
一方スリの方は、すでに装備を身に付け、購入するものが決まっているようだった。
「うん、あなたの青い瞳に映えてよく似合ってるわ。これにしましょう」
「で、でも、少し派手というか……露出が」
「何言ってるの。ウィッチは男を惑わせて一人前よ」
「ハ、ハハ。そうなんですか?」
スリは少し恥ずかしそうに笑った。
「じゃあ、男たちに見せてきましょう。驚くわよ~、すっごくかわいいんだから」
「は、はい」
そのころ、レオたちも購入する物がだいたい決まった。
店主がレオたちの分の金額を計算していると、サリーの声が聞こえた。
「さあ、あなたたちのお姫様の登場よー」
「ちょ、ちょっとサリーさん!」
姿を現したスリに、レオとジェイデンは目が釘付けになった。
店主はいたずらにヒュッウっと口笛を吹いた。
「ど、どう……かな」
「――――え? え……すごく似合ってるよ。本当にお姫様みたいだ」
「ほんとにそう思ってる?」
「もちろんだよ!似合い過ぎててビックリした」
「あ、ああ。とても似合ってるが、ちょっと目のやり場に困るな」
サリーは後ろからスリの肩に両手を置いた。
「見た目だけじゃないのよ、このローブは衝撃と炎、冷気耐性にも優れていて、スリちゃんのスベスベのお肌を守ってくれるわ。そして、へその下にある魔石に魔力を込めるとぉ」
サリーは魔石に手を当てた。
すると、スリの身体が白い光を発し、その光は店内を明るく包んだ。
「サリーさん、今のは?」
「この魔石にはピュアリゼっていう一般浄化魔法の術式を組み込んであるの。お洗濯をしなくてもいつでも清潔な状態を保っていられるわよ、もちろん装備してる人間の身体もね」
「ええ――!すごく便利!」
「女の子はいつも清潔でいないとね」
装備を揃えた三人は、店主のヴィッツとサリーにお礼をして、店を出た。
「また何かあったらいつでも来な。良いものを揃えておくからよ」
「はい、一年は滞在するつもりなので、何かあったらまたお願いします」
三人は店を後にした。そして――――
「ねえねえ、まだ明るいし手ごろな依頼がないか一度ギルドに行かない?」
「そうだな、大分お金も使っちゃったしスリに賛成だ」
「レベル上げもしないとな、今この時も苦しんでる人はたくさんいる」
「よし!それじゃあギルドへ行こう!!」
装いを新たに、志も新たに、三人はギルドへと歩を進めた。
お読みいただき、ありがとうございました!
♦筆者より♦
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