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第72話 西方の勇者 其の八 ”メルトドラゴンVS稲妻の騎士”

 大きな影に包まれた地表はおよそ普通の人間ではその場にいることさえ不可能な暴風に晒され、三人は地に伏し耐えることしかできなかった。


「いきなりなんなんだよこりゃあ!!」


 岩に掴まりトルアーノが叫んだ。


「だ、ダメ!!もう……無理……!!」

「俺の手に掴まれ!!パナメラ!!」


 吹き飛ばされる寸前、デイケルが手を伸ばしパナメラの手を掴んだ。デイケルは大剣を地面に刺し、必死に体勢を整える。


 そして、上を見上げたデイケルは太陽を覆う影の存在に気づいた。


「あ、あれは!?――――上だッ!!!!」

「う……上!?」


 その声にパナメラとトルアーノは空を見上げた。


「おいおい、なんなんよありゃあ!!」


 上空には巨大な翼を持った怪物がこちらを睨みつけ、その翼を羽ばたかせていた。

 体長の三倍はあろうかという巨大な翼は、一つ羽ばたくたびに強烈な風を巻き起こす。


「な、なにあれ!鳥!?」

「わ、わからねーが、長くは持たねーぞ!!なんとかしねーと!!」


 その時、光る斬撃が空を走り、その怪物をかすめた。

 怪物は体勢を崩すと地響きとともに地面に降り立ち、大きなくちばしを開け咆哮した。



「――――霊峰を包むは巨翼の影。その両翼は天を割いて嵐を呼び、その開口は地を灼いて万物を溶かす。

――――百代の年が過ぎし時、泡沫(うたかた)泰平(たいへい)は終わりを告げ、霊峰の頂にて偽りの怪鳥が世界の終わりを奏でん」



 三人が声の方向を見ると、剣を抜いたスナッシュが突き刺すような眼光を放ちながらこちらへとやってきた。


「スナッシュ!!」

「助かったぜスナッシュ。腕がちぎれる所だった」

「スナッシュ。さっきの詩はなに?」

「この国に古から伝わる言葉だ。――――それより敵を注視しろ」


 三人の視線の先にいるのは、一見して巨大な怪鳥に見えなくもない異形の生物。

 しかしよく見れば、羽毛かと思われていたものは、羽のような形をした(うろこ)。そしてその目は爬虫類のように半透明の瞬膜が閉じ、下方向から瞬きをした。


「どう見ても鳥じゃないね、ありゃ」

「あれがメルトドラゴンだ。予想より早く出会えて助かった、無駄な時間をかけなくて済む」

「確かにとんでもない魔素を感じるけど、私たちなら何とかできなくはないわ」


 しかし、パナメラの推測を嘲笑うかのように、再び地面が影に包まれた。


「ちょ、ちょっと待て!!マジかよ!!!!」


 上空には、もう一匹のメルトドラゴンが巨翼を広げ優雅に飛行している。

 地表は再び暴風に見舞われ、建物すら破壊しそうなほどの狂風に包まれた。


「そうはいかないわよ!」


 しかし彼らはS+を掲げるパーティ、意表をつかれなければ遅れは取らない。

 パナメラは教会仕込みの神聖魔法で周囲に結界を張り、暴風からパーティを護った。

 セレイナの展開する結界に比べれば小さく脆弱なものだが、強風から身を護るには十分なものだった。


 そして、手の平から光る小鳥を顕現させた。


「クーちゃん、城にこのことを伝えて」

『わかったぁ。伝えればいいんだねぇ?』

「お願い、急いで」


 光る鳥は飛び立つと、パタパタとマイペースで飛んで行った。


「おっそ!相変わらずだなお前のファミリア(使い魔)

「うるさいわね!仕方ないでしょ、クーちゃんはのんびり屋なのよ」


 だが戦闘中の三人はのんびりもしていられない状況だった。この結界も次の攻撃が来ればそれを防ぎきれる保証もない。

 そんな中、スナッシュが冷静に言葉を発した。


「トルアーノ。飛んでいる奴を()からなんとかできるか?」

「あ?ああ。岩山に近づけてさえくれればぶち落としてやるぜ」

「了解した。パナメラは下にいる奴が余計なことをしないように止めていろ。結界を張りながらできるか?」

「違う属性の魔法なら術式が被らないから大丈夫よ」

「デイケルは空の奴が落ちるまで待機だ」

「ラジャ!」

「――――動くぞ」


 そういうと、スナッシュは剣を構えた。その剣は鈍い光を発し、スナッシュが高速で剣を振ると鋭い光の斬撃が飛行しているドラゴンを襲う。


 スナッシュもまた、凛人に負けてからというもの、苦悩しながらも鍛錬を積み、”オーラ”を会得しつつあった。人の域を超え、覇人への道を歩まんとしていた。


 スナッシュは連続で斬撃を飛ばし、上空のドラゴンの動きを制御した。徐々にドラゴンを岩山へと誘導していく。


 パナメラはフレアボールと、ノックバック効果も高いファイアバレットを交互に発射し、地表のドラゴンに動く隙を与えなかった。


 しかし、咆哮を上げたドラゴンはくちばしにも似た大きな口を開いた。


「パナメラ、奴に口を開けさせるな!」

「はい!! 雷光よ凝縮しろ。解き放つ時まで、その力を眠らせよ…………ボルトスフィア!!」


 発射された中型の雷球はメルトドラゴンに直撃し、爆ぜた。

 爆散した雷球の電撃により、メルトドラゴンの動きが封じられる。


 一方、岩山付近まで誘導されたメルトドラゴンを確認したトルアーノは、結界を飛び出した。

 岩肌へ飛び移ると袖から暗器のような爪を出し、まるで忍者のように岩山を一気に駆け上った。


 そして、ドラゴンの頭上を取り空中へジャンプすると、大きな葉巻のような筒を八本取り出し指の間に挟めた。


「落ちて這いずり回れ!!この鳥トカゲ野郎ッッ!!!!」


 着火されたその筒は、超小型のミサイルのようにメルトドラゴンの背と頭部に向けて一直線に飛んで行く。そして、見事全弾着弾に成功した。


 翼の付け根と頭部を爆破されたメルトドラゴンは、叫び声をあげ地面へと墜落した。

 しかし、その一頭はすぐに起き上がるとスナッシュたちを威嚇し始める。


「クソッ!頑丈な奴だぜ!!大して効いてねえってか」


 スナッシュたちは二頭のメルトドラゴンと対峙した。


「トルアーノ特製の飛翔弾をあれだけ受けて無傷ってことは、物理で行くしかないな!」

「私の火属性魔法でも動きを止めるのがやっとよ。雷属性は内部にも効いたみたいだけど、到底致命傷にはならない感じね」

「デイケル。お前の火力ならあの邪魔な鱗を突破できるかもしれない」


 その時、一匹が大きく口を開けた。


「パナメラ!!あいつも止めてくれ!!」

「む、無理よデイケル!一匹で限界!!私一人じゃ手が足りない!!」


 メルトドラゴンの口から、スナッシュたちに向かって無慈悲にも高熱の熱線が放たれた。


お読みいただき、ありがとうございました!


♦筆者より♦

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