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第70話 西方の勇者 其の六 ”冒険者ギルド”

 ――――王都ガウーリア


 三人は、高い城壁に囲まれた都を前に、驚きと感動を感じていた。

 ヨーロッパなどには現在も城塞を残した都市が存在するが、いま目の前にしているのは生きた城塞都市。歴史的遺物ではなく目的を持って現役で機能している建造物である。


 レオは城壁を見上げ、感嘆のため息を吐いた。


「田舎の小国とはいえ、なかなかのものでしょう」


 ラルクが自慢げな笑みを浮かべ口を開いた。


「はい、なんというか、すごく感動してます」

「ははは、そこまでですか?うれしいですね、私の生まれ育った故郷ですから。さあ、中へ行きましょう」


 ラルクたちにいざなわれ、三人は城壁の中へと進む。

 街へと入った三人は歩みを止めた。揃って口を開け、目の前に広がる景色に目を奪われた。


 そこには史実を元にした映画やドラマで見る中世の街並みに似てはいるが、どことなく記憶にあるそれとは違う光景が広がっていた。


「すごいね!馬車が走ってるよ!馬もいるんだね!」


 スリが体を回転させながら全方位の光景を笑顔で見ている。


「それに街並みも、街の人の服も綺麗だな。見た目の文明レベル的にもっとこう……汚れていると思っていたが」


 中世ヨーロッパと言えば、道端に糞尿が転がっていて悪臭も酷かったというのが有名な話だが、目の前の街は綺麗に整備され、服装こそ違うが清潔感は保たれている。そして、鼻腔に入ってくるのは焼けた香ばしいパンの香りや風が吹けば自然の香り。三人はいい意味でのカルチャーショックを受けていた。


「さあ急ぎましょう。ギルドはあの緑色の三角屋根の建物です」



 ――――鋼牙を含めた六人はギルドへ向けて街を歩く。


「ね、ねえ。なんかすごい視線を感じるんだけど……」

「ま、まあ服装も違うし、ラルクさんの話だと俺たちは珍しいみたいだから」


 ラルクたちに連れられ街を歩くレオたちだったが、人々の奇異の目に晒されていることに居心地の悪さを感じていた。


 ひと際多くの視線を集めていたのはやはり褐色の肌を持つジェイデンだった。ジェイデンは目を伏せ、何やら考え込んでいるように歩いている。

 レオとスリはそんなジェイデンを気遣うように、彼の腕に手を添えた。


「気にすることないぞジェイデン。俺たちの青い目も珍しいみたいだし、俺たちはこの世界では特異な存在なんだろう」

「そうそう。さっさと登録を済ませて何か服を探しましょう?目立っちゃってしょうがないわ」

「――――いや……これはチャンスだ」

「え?」


 ジェイデンは上着を脱ぎ捨てると白い歯を見せ、ポージングを取り始めた。


「異世界の民が俺に注目をしている!!己を魅せるフィジーカーとしてこの期待の目に応えないでどうするんだ!!フン!!ハッ!!」

「…………心配して損したわ」


 民衆の好奇の目など、フィジークのコンテストで三連覇を成し遂げている彼にとっては意に介さないものだった。


 筋肉の大きさなどを競うボディビルとは違い、筋肉の美しさを追求したフィジーカージェイデンの爽やかかつ彫刻のような黒褐色の肉体は、人々の視線をあっという間に驚嘆、称賛の色に染めていった。


 この騒ぎにはラルクたちも焦り、


「み、みなさん。ギルドはすぐそこです、早く行きましょう」

「そ、そうですね!急ぎましょう!ほら、ジェイデンも!」

「それがいいわね!ギルドへゴー!」

「待ってくれ!まだ引き締まったウエストを強調するポージングが!」


 満場一致……とはいかなかったがギルドへ急ぐごとに決まった。



「ここが、一応この国一番の冒険者ギルド”ヴァリアント・フォーク”です。さあ中へ」


 その時、ギルドの扉が開き四人の冒険者たちが中から出てきた。


 先頭にいた男はこちらを一瞥すると、レオに視線を止め立ち止まった。

 レオもその視線に気づき、時が止まったかのように二人の視線が交錯する。


「ちょっとスナッシュ、急に止まらないでよ」

「――――ああ。すまない」


 そういうと一団はレオたちの横を通り過ぎて行った。しかし男の目は、通り過ぎるまでレオの姿を鷲のような鋭い視線で捕らえていた。


「ここいらでは見かけないパーティだな。他国の冒険者か?珍しい」


 スリがレオの服の裾を軽く引っ張った。


「先頭にいた金髪の髪の長い男。見てみたけどすごく強い。私たちより強いよ」

()()()()()より、だろ?目が合った瞬間ビリビリと来た。でも、仲よくしようって目じゃなかったな」


 あの男とはまた会う気がする。微かな予感を感じながら、レオたちはギルドの扉を開いた。


 中は多くの冒険者で賑わっていた。

 ギルドでもジェイデンは多くの視線を集めたが、当の本人はそんなことは気にも留めず目頭を押さえ涙腺を緩ませている。


 冒険者ギルドと聞いたときはもっと殺伐とした雰囲気を想像していたが、違うパーティと思われる人たちもあちこちで談笑しており、意外とフレンドリーな空間だったことにレオたちは少し安堵していた。


「意外と、みんな仲がいいんですね」


 レオはラルクに尋ねた。


「ええまあ。お互いにいつ死ぬかわからない職業ですからね。ライバルでもありますが、仲間意識の方が強いのかもしれません。死ななくても怪我で引退というのもしょっちゅうですし」

「明日は我が身。ですか」

「そうですね。いつの間にか絆が生まれていくっていう感じです」


 素晴らしいな。レオはそう思った。

 裕福で安全な()で起き、キッチンに行けば当たり前のように食事が用意されていて、父の会社を継ぐために勉強をしていい成績を取り褒められ、学校で友人と談笑をし、そしてまた()の中に帰り食事をして眠る。


 満ち足りた生活ではあったが、レオはどこか物足りなさを感じていた。窮屈さという方が正しいだろうか。

 その足りないものがここにあるような気がした。やるべきことはやっていた。でも、燃える物がなかった。

 殻の中の温室で縮こまっていた自分を解放できる。この世界なら。


 そしてそばには、同じく命をかけた使命を背負った気の許せる仲間がいる。レオの拳は強く握られ、震えた。


「では、カウンターへ行きましょう」


 カウンターへ行くと、大きなリボンをつけた女性が笑顔で出迎えてくれた。


「お疲れ様でーす。ラルクさん」

「今回も無事に戻れたよアンジェ。この人たちのおかげでな」

「この人たち?」


 女性はレオたちの方を見た。そして見慣れた定型文のような反応を見せた。

 しかしそこは、さすが数多くの冒険者を見てきたプロ。すぐに平静さを取り戻し、自分の役割を遂行し始めた。


「今日はどのような要件ですか?あ、素材の採取に行ってらしたんですよね、では――――」

「これを見てくれ。アラクーネの魔核と牙だ」

「アラクーネって。……エェ――――ッッ!!!!あのアラクーネを討伐してきたんですか!!??」


 アンジェの声に、ギルド中の冒険者たちが驚きの声を上げこちらに視線を向けた。


「あ、アンジェ!静かに! 俺じゃない。討伐したのはこの人たちだ」

「え?あ、ああ。すみません!――――はぁ、今日は驚くことばかりだわ」

「何かあったのか?」

「はい、ついさっきも、エブンズダールから来たっていうS+ランクのパーティが色々と聞いてきまして」

「え、S+だと!?ここみたいな小国だと英雄並みの扱いを受ける冒険者じゃないか!そんな奴らが何をしに」

「メルトドラゴンはいつ目覚めるのか、どこにいるのかって何度も聞いてきまして。ちょっと怖かったです。ヴォルフ・ガーナインの元騎士だとかで、知らないと言ったら王城へ行くと出ていきました」


 三人は顔を見合わせた。


「それってさっきの奴らじゃない?」

「ああ、多分そうだ」

「英雄並みか、凄い奴らだったんだな」


 レオはアンジェに尋ねた。


「S+ランクってそんなにすごいんですか?」

「え?それはすごいですよ、常人がなれる最高ランクですから。この国には一人もいません」

「常人?」

「それ以上は、えーと、ゴールドからアダマンタイト級まで五つのランクがあって、オーラというものを扱えないとなれない、まさに一騎当千の常人ならざる英雄たちです。敬意をもって称号持ちと呼ばれています」

「オーラ……」


「そんな人間がどこかに存在するのか?」


 ジェイデンの問いに、少し戸惑いながらアンジェは答えた。


「は、はい。東のヴォルフ・ガーナイン王国にあるエブンズダールには”キャンディ・メイ”というオリハルコン級の覇人(はじん)がいると言われています。王も元ミスリル級の冒険者だったとか」

「まあ、あの国は強国だが魔族領との国境があるからな。それくらいの猛者がいないとすでに滅亡しているだろう。そのおかげで魔族が好き勝手に外で暴れないで済んでるんだが」


 人を越えた称号持ちの英雄、そして魔族。レオは武者震いをした。

 こんなにもワクワクすることが今まであっただろうか。東の国の英雄か。会ってみたい。

 レオのそんな姿を見て、スリはため息混じりに肩をすくめた。


「魔族がいるということは魔王もいるってことだよな。どんな恐ろしいやつなのか興味がある」


 ジェイデンは胸元で、手のひらを拳でガシリと叩いた。


「ああ、ジェイデン。そして俺たちは多分そいつらから世界を守るためにここに来た。やるべきことが決まってきたな」

「だね。強くならないとね、その称号持ちみたいに」


 彼らの方向性は決まりつつあった。まずは冒険者となりレベルを上げる。そして、世界を周り、平和を脅かしていると思われる魔族をこの手で――――

 戦うべき敵がはっきりしてきたことで、三人の士気は急激に高まった。


「話が逸れたな。彼らはまだ冒険者登録をしていないんだ」

「アラクーネを討伐するくらいなのにまだしていないんですか!?」

「ああそうだ、だから登録ついでにギルド長に会わせてほしいんだが」

「わかりました。報酬の件もありますしあちらの執務室にご案内いたしますね。どうぞ」


 レオたち三人とラルクはアンジェに案内され執務室へと向かった。


「失礼しますギルド長、アラクーネ討伐の件でラルクさんがお話があるそうです」

「あ、アラクーネ? 入りなさい」


 部屋の中には、恰幅の良い、悪く言えば中年太りの男性が窓際に立ちこちらを見ていた。


「アラクーネがどうかしたのかね?ラルク」

「これを見てください」


 ラルクは魔核と牙をギルド長に見せた。すると、ドタドタと猛ダッシュでこちらへと走ってきた。


「こ、これはまさか?」

「はい、アラクーネの魔核と牙です」

「な、なんと!あの厄介者を始末してくれたのかね!!」

「はい、こちらの方たちが」


 ギルド長がレオたちを見ると、辟易するほど何度も見た表情を浮かべた。

 その様子に、レオとスリはまたかと眉を下げて笑った。


「か、彼らはなんだね?この国では見かけない風貌だが」

「森で会った方たちです。あのアラクーネを一瞬で斬り伏せ、瞬く間に炭にするほどの実力者です」

「――――なんと、あのアラクーネを。まだ若いようだが、どこのギルドの出身かね?」

「それが、彼らはまだどこにも所属していないんです」

「なんと!まだフリーなのかね!?」


 ギルド長はレオの手をガシリと握ってきた。その手は意外にも分厚く硬く、見た目に反してこの人も只者ではないんだなとレオは思った。


「君たち!是非うちのギルドの所属にならないかね!?」

「え? あ、は、はい。こちらこそ是非」

「よぉし決まりなのね!じゃあランクは―――― Sランクでどうかね!?」

「え!?ギルド長、いきなりSランクなんて前例は――――」

「いいじゃないのいいじゃないの。だって彼らはあのアラクーネを一瞬で討伐したんでしょ?」

「ま、まあそうですが」

「じゃあSでいいじゃないの。アラクーネはAランクパーティ以上推奨の魔物。それを一瞬で倒したんだからSしかないじゃない?」


 レオたちは、この時からヴァリアント・フォーク所属のSランクパーティとなった。


 ギルド長は安堵のため息を吐きながら椅子にドカリと座った。


「これようやく肩の荷が少し下りたのね。城からはアラクーネ討伐を急かされるし、ギルドのレベルと人材不足を指摘されるし…… もうストレスで禿げる寸前だったのよ。――――でも!」


 ギルド長は立ち上がると、レオの肩を両手で力強く掴んだ。


「約30年ぶりにこのギルドからSランクも誕生したし、アラクーネ討伐も片付いたし、今日は久しぶりにいい酒が飲めそうなのね! ――ああ、そうそう」


 ギルド長は机から三枚の紙とペンを持ってきた。


「これはなんでしょうか」

「契約書ね。さあ、ここにサインをして」


 言われるがままレオたちは契約書にサインをし、それを手渡した。


「レオ・J・クロス。ジェイデン・カーター。スリ・ブラウン。良い名前なのね。――――じゃあ、一年はこのギルドでしか依頼を受けられないから、よろしくなのね」

「え!? い、一年もですか!?」

「あたりまえじゃないの。Sランクに認定しましたー、ハイさよなら―じゃこっちも困るのよね。この国を出るのも許可が下りた場合以外は原則禁止、破ったら規約違反で登録は抹消。ペナルティで二年はどこのギルドとも登録できないのよね」


 三人はしてやられたと開いた口が塞がらなかった。



 ――――執務室を後にした四人は、階段を下り一階へと向かった。


「レオ君すまない、契約のことを伝えていなかった。すぐに旅立つつもりだったんだろ?」

「い、いえ。登録できただけでもありがたいですから、Sランクにもなれたし」

「――――そうよ!!」


 突然スリが声を張った。


「この国でレベルを上げてからでも遅くはないんじゃない? 街も綺麗でいい所だし、動くのはその後でも悪くないじゃん!」

「それもそうだな、スリの言うとおりだ。前向きに捉えよう、レオ。俺達には準備が必要だ」

「――――うん、そうだな。どこに行っても戦えるように強くなろう!ここで!」


 旅立ちは一年後。三人はこの国で準備をすることを決意した。


 しかし、ギルドに凶報が届いたのはその日の夕方の出来事だった。

お読みいただき、ありがとうございました!


♦筆者イットより♦

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