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第67話 西方の勇者 其の3 ”脅威と新アビリティ”

 ――――森を彷徨い、三日が過ぎた。


 森の中ではあのブリザードベア以外の魔物とは遭遇しなかった。どうしてもレベルというものを上げたかったレオにとってはすこぶる不満だったが、とりあえずは食べられる野草を教えてもらい飢えをしのぎ、果物から水分を摂取しながら生きるという最低限の目標はクリアできていた。


 とはいえ、どこまでも続く同じ景色、どこまでこの森が続くのかという不安から、三人の口数は進み始めた時よりも減っていた。


「あ――もう!! お肉食べたいお風呂入りたい!! この三日間お腹を満たすのは草ばっかり、私はヤギか!!」


 こういう時に沈黙を破るのはいつもスリだった。


「何だスリ、この前宣言していたヴィーガンはもうやめたのか?」


 続いてジェイデンがスリをからかうように口を開いた。


「まあね。なんか貧血が酷くなっちゃってやめちゃった。人間は肉食でしょ?自然の法則に背いちゃいけないって気づいたの」

「人間は雑食だぞ」


 その時、レオが膝をつきしゃがんだ。


「どうしたレオ、疲れたのか?」

「いや、スリに朗報だ。この森は多分もうすぐ終わる、出口が近い」

「ほんとに!?また剣が教えてくれたの?」

「――――いや」


 レオは足元に生えている草を触りながらいった。


「ほらこの草。ワラビやゼンマイのシダ類に似てる。この種類は明るい場所を好む、森の出口付近だったり野原に生息するんだ。そして木の密度も薄くなってきてるし、風の通りも感じる。出口は近い」


 はぁッ、とため息をつきスリがしゃがみこんだ。


「やっと終わるのね。草の食べ過ぎでそろそろ身体が緑色になるんじゃないかと思った」

「さすがは学年で成績上位をキープしてるレオだな」


 その時、スリに忍び寄る小さな影が……


「じゃあこんなとこ早く ――――いたッッ!!」

「どうした?スリ」

「な、なんかお尻に鋭い痛みが―――― えっ!?」

「な、なんだこいつ!!」


 スリのお尻に、タランチュラを一回り大きくした異形のクモが張り付いていた。


「キャ――――――――!!!!何よこいつ!!早く取って!!だれか!!!!」

「待ってろ!!今取ってやる!! ――うあっ!!」


 クモを素手で払おうとしたジェイデンだったが、逆に腕に張り付かれジェイデンも噛まれてしまった。


「グッ!!この野郎!!!!」


 ジェイデンはクモを掴み、地面に叩きつけて踏み潰した。


「だ、大丈夫か二人とも!」

「な、なによこいつ気持ち悪い!」

「――――おいおいマジか……勘弁してくれ」


 ジェイデンが後方を見て後ずさりをした。

 二人もジェイデンの異変に気付き視線の方向を見ると、そこには数えることも困難なほどのクモの大群が迫ってきていた。

 クモたちは左右からも無限に湧き出てくる。そして、その後ろからは母グモと思われるガレージほどもある巨大な異形のクモが姿を現した。


「囲まれるぞ!!出口は近い!!走るんだ!!」


 スリとジェイデンはレオの声に呼応し、三人は一斉に走り出した。

 三人は、およそ人間では不可能な速度で走り、クモの大群を突き放していった。しかし――――


「はぁっ!はぁっ!――――なんか……身体が……!」

「な、なんなんだ、身体が重く……」


 スリとジェイデンは急激に速度を落とし、ついには膝をつき倒れ込んでしまった。


「おい!どうしたんだ二人とも!!」


 まずい。このままでは――――

 後方からはクモの大群とあの巨大な親クモが迫ってくる。


「クソッ!!」


 レオは二人の元へ走り、スリとジェイデンの腕を自分の首に回した。

 二人を抱え走ろうとしたその時――――


《主、二人を下ろしてあの巨大なクモを斬って》


「バカなことを言うな!それじゃあ二人があの大群の餌食になってしまうだろ!!」


《大丈夫だよ。あの魔獣を殺せばさっきのブリザードベアの分と合わせて私と主のレベルが上がる》


「レベルが!?」


 レベル。そして、大丈夫。その二つの言葉にレオは即座に反応し、二人を下ろして剣を構えた。


《いい?まずはソニックブレイクであのクモを斬るよ。そうしたら私たちのレベルが上がる。まずはそれから、行くよ?》


「了解!相棒!」


 森に雨が落ち始めた。そして、レオは姿勢を低くすると再びその姿を消した。


 その刹那、巨大グモの頭部が胴体から切断され、宙を舞った。

 そして、剣に魔獣の魂とマナが吸収されたその時――――


「――――これは」


 レオは自分の視界に展開された光景に息を飲んだ。

 クモの大群の動きが止まり、空から降り注いでいた雨のしずくが中空で止まっている。なんとも神秘的な光景だった。


《――――これは主と私の新しい能力、アクセル・シンク(思考超越)。共有している私たちの思考が加速して、周囲の速度が約五百分の一くらいになってる》


「じゃあ、時間停止しているわけではないのか……」


 レオが中空に静止しているように見える雨粒に触れようと手を動かそうとした時、激が飛んだ。


《動かないで!!!!》


 レオはその声に驚き、動かそうとした手を止めた。


《今は覚えたてで咄嗟に展開したから思考加速が全開の状態になっちゃってる。今動くと、身体が五百倍の速度に耐え切れずに崩壊する恐れがあるよ》


「え……マジか。思考と身体が連動してるの?」


《うん。今から言うことをよく聞いて。あのクモの魔獣の()()()()()はとても豊潤だった。倒れている二人にもそれを分け与える、そしたら二人ともレベルが上がるはず》


 ゲームで言う経験値みたいなものと捉えよう。レオは剣の言葉をそう理解した。


《次に、『星命盤、展開』と言ってみて》


「え? ――――星命盤、展開!」


 すると、青白い光が宙に走り、レオの前に半透明の文字列が浮かび上がる。


「これは――――」



==================

【個体名】 レオ・J・クロス

【種族】 人間種

【年齢】 17

【称号】 

・異界の勇者

・星神に選ばれし者

・魔力適性者


【レベル】 7 ⇨ 8 《Lv UP》

【マナ・魔素】 556 ⇨ 607


【体力】 442 ⇨ 477

【魔力】 345 ⇨ 364

【筋力】 297 ⇨ 321

【耐久】 348 ⇨ 375

【敏捷】 1178 ⇨ 1202

【器用】 502 ⇨ 509

【精神】 710 ⇨ 719


==================


【固有スキル】

《勇者の因子 Lv.1》

 あらゆる能力値に補正。

 成長速度上昇。

 闇系統・呪詛系統への特効。


《星導魔法》

 “星のマナ”を用いた特殊魔法。

 通常属性に属さない。


《言語理解》

 異世界言語を自動翻訳。


==================


【スキル】

剣術 Lv.3

体術 Lv.2

魔力操作 Lv.5

魔力感知 Lv.1

集中 Lv.3


==================


【加護】

《星女神ストレイアの加護》

 魔力上昇(大)

 精神耐性付与

 致命傷時に一度のみ自動防護

 回復速度上昇 (少)


==================


【アビリティ】

《天星》

 体内魔力を圧縮・爆発的に解放する。

 発動中、身体能力を大幅強化。


《ソニック・ブレイク Lv.2》

 亜音速での先制特攻。


《アクセル・シンク》⇦New

 最大500倍の速度で思考、行動が可能。剣精との共有可。


《ディバイン・ブレス》⇦New

 勇者固有能力。

 口づけ・呼気で毒、呪いを浄化する。

==================



《これは君の現状のステータスのようなもの。魔法と違って、習得した特殊能力はここで確認しないとわからないから、こまめにチェックしておいたほうが良いよ》


「へぇ。あっ、これって――――」


 レオはアビリティの項目に注目をした。


《さっき説明したアクセル・シンクともう一つを習得したみたいだね。二人の症状はクモから受けた麻痺毒。奴らはそれで獲物を動けなくして捕食するんだ。まずはそれでジェイデンを治療して》


「え、先に毒を受けたスリが優先じゃないのか?」


《説明をよく見て、彼女はお尻を噛まれたんだよ。君は女の子のお尻に口づけしたり息を吹きかけるの?》


「あ……それは……」


《今からジェイデンとスリにもマナソウルを分け与える。それで彼らのレベルも上がるはず。癒しの使徒であるジェイデンなら、毒の中和や回復系の初級魔法を使えるようになるはず》


「なるほど、わかった!」


《じゃあ、アクセル・シンクを解除するから走って!》


 マナソウルを分け与えられたスリとジェイデンの身体が青白い光を放っている。


 レオはそれを確認すると、ソニックブレイクでジェイデンの元へ走った。

 レベルが上がった影響なのか、以前より身体への負担は軽減されている。


 レオはジェイデンの噛まれた手の傷に息を吹きかけた。レオの輝く粒子のブレスがジェイデンの手を包み、毒を中和していく。


「――――うっ……」

「大丈夫か?ジェイデン」

「お前が助けてくれたのか? 身体の痺れがなくなった」

「ジェイデン、スリも毒に侵されているんだ、助けてほしい。できるか?」

「――――ああ。何かを思い出したよ。不思議な感覚だ」

「急いでくれ!クモたちが―――― なんだ、あれ……」


 振り向いたレオの目にはおぞましい光景が広がっていた。

 無数にいたクモたちが、親グモの死体に群がりそれを捕食している。


「うお、気持ち悪い奴らだ……」

「なんにせよ助かった。ジェイデン、今のうちにスリを!」


 ジェイデンはスリの元へ行き、患部に手をかざした。


「ピュリファイ!」


 鈍く光る手がスリの患部を照らし、噛まれた箇所から白い煙のようなものが立ち昇った。


「――――これで大丈夫なはずだ。毒は抜けた」

「大丈夫か?スリ」


「…………」


 スリは俯いたまま、無言で上半身を起こした。


「す、スリ?」

「――――よくも……」


 スリの手から炎が巻き起こる。


「お、おい、スリ?」

「……レオ、危ないから下がったほうが良いかもしれん」


 スリは起き上がると、鬼のような形相で手から立ち昇る炎を消し、巨大グモに群がっている大軍を指さして呟いた。「……セット」


「――――よくもレディのお尻を噛んでくれたわね!!この虫けらぁぁ――――!!!!」


 怒りに震えるスリの手が上空を指さした。


「フレイムピラ――――!!!!!!!!」


 地面から巨大グモを包むほどの爆炎が噴き上がり、炎の柱が森の木々ほどの高さに立ち昇った。


 渦巻く炎の熱は凄まじく、離れた所にいるレオたちをも目を開けていられないほどジリジリと熱していく。

 



 ――――爆炎の柱が治まり、クモたちは黒い炭状の巨大グモのみを残して消滅した。


「あ――、スッキリした」


 レオとジェイデンは互いに顔を見合わせ、


「こ、この世界ではスリを怒らせないようにしようか……」

「そ、そうだな」


 スリの尻に敷かれるのが確定した。


お読みいただき、ありがとうございました!



♦筆者イットより♦

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