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第57話 凛人とベルセフォネの恩返し

 礼拝堂を後にしたガイネルは、物思いにふけりながら場内の廊下を歩いていた。


 彼のやるべきことはとても多い。エルフ国に攻め込み、アルディスに反旗を翻されてからは尚のこと彼の仕事量は増すばかりだ。


「――ガイネル」


 まずは一旦家に帰ろう。しばらく家族に顔を見せてないからな。その後は西の戦場へと戻り戦況の確認と、エルフ自治領へ回す兵の人選と確保。それから手駒にしている野盗たちの――――


「ガイネルってばッッ!!」


 大きな声にハッとしたガイネルが後ろを振り返ると、深紅のドレスで着飾った少女が目を吊り上げながらこちらを見ていた。


「私を無視するなんて重罪よ! ジュ!ウ!ザ!イ!!」

「――これは王女殿下。失礼いたしました、考え事をしておりまして」

「ふん、まあいいわ。特別に許してあげる」


 この少女はエリスリーゼ。

 容姿は美しいが、気の強そうな目つきが多少きつそうな印象を持たせる、十四歳になるオルディア王国の王女である。


「エルフの件なのですが、申し訳ございませんがもう少々お時間を――」

「――エルフはもういいわ、お母様がなんか熱心に勧めるから合わせてあげただけで、もともと興味もなかったし」


 彼女は小さく両手を広げ、肩をすくめて言った。

 そして、腰に手を当てガイネルを指さした。


「それより、私に剣を教えなさい、ガイネル」


「……そう申されましても。またカメリア様に何を言われるかわかりませんぞ」

「お母様は古いのよ。これからの女は強くなくちゃいけないわ、私は男に頼らない自立した女を目指してるの。それに、私は筋が良いってあなたは言ってくれたじゃない!」

「た、確かにそう言いましたが――」


 ガイネルは彼女の真剣な目に根負けし、フゥっと息を吐くと笑みを浮かべた。


「――わかりました王女殿下。時間が出来たらまた稽古をいたしましょう」

「ほんと!? 約束よガイネル!絶対だからね!! 」


 「あ、それと――」彼女は走り出すと振り返り、


「二人の時は王女殿下と呼ぶのをやめて!エリスリーゼと呼ぶこと!いい?」

「――わかりました。エリスリーゼ様」

「じゃあ約束だからね!師匠!」

「し、師匠!?」


 エリスリーゼは元気よく走り去っていった。


 ガイネルは、やれやれと頭を掻いた。十五になる息子しかいない彼にとって、あの年頃の女の子は秋の空のように読めず難しい。

 エリスリーゼの剣士としての才はなかなかのものだった。以前、エリスリーゼからのたっての願いで稽古をつけた際、類まれなセンスと運動神経もあり、教えたことを彼女はすぐに物にしていった。

 基礎からきちんと教えれば、ひょっとしたらエリーザを超える冒険者にもなれる逸材かもしれない。


「――またやらなければならないことが増えたな」


 ため息混じりに吐き捨てたガイネルは、まんざらでもなさそうな顔をしていた。





 ――――俺たちはエブンズダールの上空へと帰ってきていた。



 随分とメイさんたちを待たせてしまった。


 俺は、やっとメイさんに受けた恩を返せるという思いと同時に、幾許(いくばく)の不安を抱えながら街へと降下して行った。


 上空から門兵に手を振ると、兵も俺たちへと手を上げた。


 以前は目立たないように街の外に降りて街へと入っていたけど、王との謁見のあとは奇異な目で俺たちを見る人もいなくなったので堂々としたものだ。


 それに、この街は広いのでこの方がメイさんの家やギルドへの時短にもなる。前は、馬車を調達したり徒歩で三十分から一時間以上の時間をかけて移動していた。


 街の上空を飛んでいると、子供たちが手を振って俺たちを追ってくる。そして、その姿を笑顔で見守る大人たち。


 本当にこの国の幸福度はこの世界では高いんだなと、オルディアを見たあとだと改めて実感できる。




 ――さて、ほどなくしてメイさんの屋敷に着いた。


 今俺たちは上空から屋敷を見下ろしている形だ。メイさんとエディアノイさんには、オルディアとの国境に着いた際に連絡をしている。


 きっと二人は、今か今かと俺たちの到着を待ちわびていることだろう。ってことで早速――


 ――おや?


 屋敷から誰かが出てきた。まあ、それだけなら別に珍しくも何ともないんだけど……


 その人物は明らかに周りを警戒しているというか、何か挙動が不自然だ。


 あの人は確か……


 ――そう、あの人は俺たちを商人ギルドへと送ってくれたグッド・ルッキング・ガイのメンバー、アルテっていう人だ。


 彼は屋敷の裏手の方へ回ると、通信魔導具か何かで誰かと話している。さすがに上空には無防備だ。まさか俺たちが上から見ているとは思わないだろうから当然だが。


 恋人か誰かかな?メイさんにバレたらまずいからコソコソと連絡を取り合ってるとか?

 いや、メイさんは寛大な人だし、そんな事で怒るだろうか。


 まあいい、そんな事よりも急いで目的を果たそう。ベルセフォネの気が変わってしまったら大変だからね。――なんか無言で不機嫌そうだし……


 一応、マナーとして屋敷の戸口ではなく門の前に俺たちは降りた。警備をしている門兵のメンツもあるしね。彼らへの気配りだ。


 門兵たちはすぐに察してくれて、俺たちを敷地内へ通してくれた。


 濃艶(のうえん)に歩くベルセフォネを、門兵の二人が色んな感情が入り混じった表情で見ている。


 気持ちはわかる。高圧的で危険な気配を纏いつつも、彼女の女性としての魅力はセレイナに負けず劣らず非常に高い。


 いや、男の色欲を刺激する攻撃力でいえば、ベルセフォネに軍配が上がるかもしれない。


 セレイナとベルセフォネ、二人を連れて歩いていたら俺は周りからどんな目で見られるんだろうか……

 そこにフェリドゥーンも加わったりしたら、俺は確実に浮くだろう。


 なんで星骸はみんな美形なんだよ!どうせ転生させるなら俺ももっと美形にできただろ!!その主としてもっとこうさぁ!!


 なんか急に不満と怒りが湧いてきたので、俺は考えるをやめた。


 ――扉の前に来ると、すぐにドアが開きセドリックが出てきた。


 さすがメイさんの側近。行動に隙がない。


 状況を分かっているであろうセドリックは、即座に俺たちを屋敷に招き入れた。


「リント!!戻ってきたのね!?」


 屋敷に入ると、階段を下りてきていたメイさんが声を張り上げた。


 その声に、エディアノイさんもユリア様の部屋から飛び出してきた。


「おお、リント君! 無事にベルセフォネとやらに会えたのだな!」

「はい!」


 その言葉のあと、エディアノイさんが少したじろいだように見えた。ベルセフォネを見たが、特に威圧してる風でもないしマナも抑えている。


 俺の見ていない一瞬で何かあったんだろうか……


「さ、さあ早くこちらへ!ユリアを頼む!」



 部屋へ入ると、目に包帯を巻いたユリア様が窓際の椅子に座っていて、フローラ様が横に付き添っていた。


 ユリア様は、俺たちの足音に気付いて振り向き、そして優しく微笑んだ。


「ユリア、リント君たちが来てくれたよ」

「わかっているわ、エディ。――後ろにいる方がベルセフォネさん……かしら」

「え…… ユリア様、わかるんですか?」

「ええ。抑えていても、凄まじいマナの収束を感じるわ。セレイナさんと同じくね。こんなマナ、人間にはとても無理」


「ママはね、目が見えなくても大体のことは分かるのよ」

 メイさんが身を屈めながら扉口から入ってきた。


「まあ…… この前はベッドの角に足をぶつけちゃって大変だったけど」

「そうね。やっぱり目が見えないと色々と不便ね。フフ、エディなんかそんなことで大騒ぎして」

「……ご、ゴホン。ベルセフォネ様。セレイナ様。ユリアを、ユリアをどうかよろしくお願い致します」


 ばつが悪そうに咳ばらいをすると、エディアノイさんは二人の前に跪いた。


「ベルセフォネ、お願いできるかな」


 そういうと、ベルセフォネは無言でユリア様の前に行き、眉間の辺りに人差し指を触れさせた。


 そして、髪をなびかせながら振り向き、こちらへと戻ってきた。


「べ、ベルセフォネ? ダメだったの?」

「――もう終わったわよ、あの闇のマナが邪魔だったんでしょ?」

「えっ、も、もう!?」


 俺とメイさん、そしてエディアノイさんは揃って驚きを隠せなかった。


「誰の仕業か分らないけど、こんな拙い技術で阻害してるつもりなら逆に笑えないわね。――こんなものあなたがなんとかすればよかったじゃない」


 ベルセフォネはセレイナを一瞥して言った。


「聖のマナで闇を打ち消すときに生じる衝撃は、ユリアさんに負担が大きすぎたんです。頭部に近い部分なので、下手をしたら意識が戻らなくなる可能性もありました」

「その時はその時。脆いのがいけないんだから、そうなったら仕方ないじゃない?」


 悪気もなく軽い口調で話すベルセフォネに、メイさんの足が力を帯び、床がミシミシと音を立てたが、エディアノイさんがかぶりを振ってメイさんを制止した。


 そして、ベルセフォネに改めて跪いた。


「ベルセフォネ様、この度はあなた様のお力により妻の目が光を取り戻せそうです。本当に助かりました、心より深く感謝いたします」


 ベルセフォネはエディアノイさんを無視し、俺に向けて微笑した。


「これで復活の恩は返したって事でいいわね?リント」

「あ、ああ。ありがとう、ベルセフォネ」


「――――それでは」


 セレイナがユリアさんへ歩み寄ろうとしたので、俺はセレイナの肩へ手を置いた。


「あちこち飛びっぱなしで疲れただろ?俺がやるよ、セレイナは休んでて」

「――は、はい。ありがとうございます……」


 この時、セレイナが寂しそうな顔をしているのを俺は気づいていなかった。


「ユリア様、少々失礼いたします」

「リント、あなた回復魔法を使えるの?」

「魔法とはちょっと違うんですけど、治癒は得意なので大丈夫です」


 メイさんは肩をすくめた。


「もうあなたには驚かないことに決めたわ。お願いね、リント」

「はい!」


 俺はユリア様の包帯を外した。


 地下道での傷が、ユリア様の綺麗な顔に痛々しく刻まれている。早く治して差し上げよう。俺はこの人の目がとても好きなんだ。


 しかし……


 エディアノイさんがソワソワと近くを動き回るので、ちょっとしんどい……


「あ、あのエディアノイさん?気が散るので少し離れててもらえますか?」

「あ、ああすまない。気が気でなくてな」


 それでは気を取り直して。


 俺はユリア様の目に優しく触れ、いつも通りの工程で集中した。


 ユリア様の傷が塞がっていく。ベルセフォネはちゃんと闇のマナを取り払ってくれたようだ。


 そして、ユリア様の傷は完全に塞がり、俺は手を離した。


「――これで大丈夫だと思います。ゆっくりと目を開けてみてください」


 ユリア様は静かに目を開き始め、そして――――


「おお……ユリア――――」


 ユリア様の美しい瞳は、傷一つ残らずに元の神秘的な輝きを取り戻した。




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