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第56話 王と英雄 (ガイネルの過去編 完)

これでガイネルの過去編は最後となります。

次話からは再び凛人達に焦点が当たりますのでご期待ください。

 王の言葉に、会場からは喧騒が生まれ、それはやがて喧々諤々(けんけんがくがく)の議論の場へと会場を変えていった。


 人々の声が飛び交う中、王とガイネルの耳にはそれが届いていないかのように二人の視線は交錯していた。


 それは、言葉ではない何かで、互いに信念を伝え合っているようにも見えた。


「静粛にッ!!!!」


 宰相の一声で、騒がしかった会場がどよめきへと変わり、そして静寂を取り戻していった。


「――――どうだガイネルよ。それとも、私の臣下では不服か?」


 不服だなんてとんでもない。ガイネルはそう思った。


 マウノリアスと同様、お互いの目が交錯した時、ガイネルもまた国王と呼ばれるこの男の胆力、器、カリスマ性に魅入られていたのだった。


 凡人ならざる二人の男のアイコンタクトは、お互いの多くの情報を非言語下の中でやりとりしていた。


「――不服だなど、とんでもございません。しかしながら――――」

「私は認めません!!!!」


 右側の壇上の最前列から声が飛んだ。


 声を発したのはマウノリアスの息子で、王太子のエメリエルだった。


「父う……国王陛下!!この男のせいで叔父上は亡くなったのです!!」


 エメリエルはガイネルを睨みつけた。


「火刑が妥当だと進言させて頂きます!」


 王の甥であるデンバー伯爵ことデネル卿は放蕩者(ほうとうもの)として有名だった。


 エメリエルが少年だったころから酒、女などの快楽を教える悪友のような存在だったが、堅苦しい規律の多い孤独な王宮の中で暮らすエメリエル少年にとって、その快楽に溺れていくのはそう難しいことではなく、いつしかその男は兄のように慕われ、エメリエルにとって心のオアシスのような人物になっていた。


 そのデネル兄さんをこの男は見殺しにした。


 エメリエルは怒りで身を震わせた。


 しかし王は、エメリエルの方を振り向くことはなく、あくまでガイネルに向けて口を開いた。


「――確かに、お前の叔父、デネルの死は痛ましい出来事だった。この男が契約を破ったこともまた事実。――だが、兵が映していた映像を私は全て見た」


 王は、壇上からガイネルの元へ降りてきて、跪くガイネルの前に立った。


「相対した魔物は、南の隣国で天災と恐れられるヴォルガンディアという溶岩竜。例え我が軍の精鋭を総動員しても、追い返すのが関の山。そして、その成果も大勢の兵の屍の上に築かれるだろう」


 王はガイネルの前に屈み、目線を近くした。会場がまたどよめく。


「それをこの男はあの化け物に単身で挑み、被害を最小に抑え見事追い返した」

「で、ですが、叔父上はその男のせいで――――」

「デネルの死を軽んじるつもりはない。だが、この男を安易に処すのもまた国の損失と私は考える」

「こ、国王陛下!!」

「お前も映像を見るのだ。あの状況ではどの道、馬車の中にいるデネルを救うことは不可能だった」


 エメリエルは拳を握り締め、顔を下げた。


「――お主ほどの男が素直に死を受け入れたということは、自分の行いが依頼を受けた冒険者として間違っていたと自覚しているのだろう?」

「――はい。おっしゃる通りでございます」


 王はガイネルの肩に手を乗せた。


「不器用な男よ。ならば、余と国のためにその力を使えガイネル。お主が死んでもデネルは生き返らん。一度失った命と思い、死すまで命を賭してこの国に仕えよ。それをお主への罰としよう」

「――――はい。……私めへのそのご配慮、ありがたき幸せと存じます」


 ガイネルは、マウノリアスという男の懐の大きさに心を打たれ、涙した。


 死を受け入れたとして、自ら死を望む者は多くない。ましてやガイネルは夫であり幼子(おさなご)の父である。


 愛する者との別れは死すよりもつらいことであった。


 この時よりマウノリアス王は、ガイネルの絶対的な君主であり、命の恩人となった。




 ――波紋を呼んだ裁判は終わり、ガイネルは王直属の騎士団へと配属された。


 王族派による妨害工作もあったが、ガイネルは目覚ましい戦果を上げ続け、わずか一年で騎士団長になり、五年目を迎えるころには、近衛騎士団長でありながら全兵士を束ねる将軍の地位を与えられていた。


 ガイネルの活躍により、国の領土も広がり続け、隣国のヴォルフ・ガーナインに並ぶ大国と呼ばれるまでにオルディアを発展させた。



 ――――そして現在より二年前、風邪から肺の病を患ったマウノリアスは、六十八歳の高齢ということもあり衰弱が進み、死期を待つのみとなっていた。


 国内の巡回警備から三週間ぶりに城へと戻ってきていたガイネルは、家族の待つ家に帰ろうと帰宅の準備をしていると、扉がノックされた。


「入れ」

「失礼いたします」


 現れたのは、王付きの侍従だった。


「どうした?二日間の休暇を貰ってな、帰宅するところなんだ」

「申し訳ございません。……寝室にて王が将軍閣下をお呼びです」

「――陛下が?」


 侍従の態度になにやら胸に不安を覚えたガイネルは、私服から再び身支度を整え寝室へと足早に向かった。


「陛下、ガイネルです」

「――入りなさい」


 部屋に入ると、宮廷医師たちが王のベッドを囲み、慌ただしく処置をしている。


「陛下!!」


 マウノリアスはゼーゼーハーハーと喘鳴を鳴らし、苦しそうにガイネルの方を見た。


「ガイネルよ、余はもう長くはない…… お主に頼みが……ゴホッゴホッガハッ ――はぁ、はぁ……」

「陛下!! 喋るのをおやめください!!」


 しかし、マウノリアスはできる限り精一杯深く呼吸をすると、話し始めた。


「――余の最後の頼みだ。エメリエルを……どうか支えてやってほしい」

「王太子殿下を?」

「あれはまだ、大国となったこの国の王になるには力不足だ。お主が傍で……あの子を私だと思って仕えてやってほしい」

「――――わかりました。力及ばずとも、私が支えさせていただきます」

「――ありがとう……」


 そういうと、マウノリアスはガイネルの腕を弱々しくつかみ、そして、その腕は力なく滑り落ちていった。


「陛下!? 陛下ぁぁ――――ッ!!!!」




 マウノリアスの崩御は、その日のうちに国中へと通達され、国民は深い悲しみに濡れ、涙した。


 名君マウノリアス・イデル・オルムデイア十七世は、六十八年の人生に幕を下ろした。




 ――――死の間際に交わしたマウノリアスとの約束。


 忠義に厚いガイネルは、けしてその約束を破ることはない。


 ガイネルは、一礼をすると礼拝堂を後にした。


 扉が閉まると、カメリアが扇で顔を仰いだ。


「はっ! なぁにが英雄。エルフ一匹捕まえてこれない役立たずの分際で」


「エルフの自治領を攻め落とすまでの我慢だ。そのためにはあの男の力が必要。それが済めば光楼石の財源と、エルフ売買で弱みを握った各国の有力者の力を借りてアルディスを攻め落とす。あの男には適当な罪でも被せて家族ごと国外へ追放してやろうではないか」


 エメリエルはデンバー伯爵の死の怨みをまだ忘れてはいない。


 そして、ガイネルを次期国王へと推す国民や兵たちの声も当然耳に入っている。現王エメリエルにとって、ガイネルの存在は仇でもありその影響力は目の上のたんこぶでもある。


 その話を聞いていた宰相リシュレイは、ガイネルの未来に大いなる幸があるよう、女神に祈りを捧げた。




♦筆者イットより♦

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