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第53話 英雄ガイネル

オルディア王国王都 オルファニアス


 軍馬に跨るオルディア王国騎士団が街へと入った。


 人々はその勇ましい姿を見るや立ち止まり、作業の手を止め、彼らの帰還に歓喜の声を上げた。


 その中で、市民からひときわ熱い称賛を浴び、鮮血のような深紅のマントをひるがえすこの男は騎士団長であり、オルディア全軍を指揮する将軍、ガイネル・エルディオである。


 情勢が悪化の一途をたどるオルディアの国民にとって、数々の武勲を上げてきたガイネルは英雄であり、最後の希望とすら言える存在であった。


 人々は口を揃えてこう言う。貴族ばかりを優遇し、私欲に走る現王より、彼こそが王になるべきだと。


 それには、隣国のヴォルフ・ガーナインの影響も少なくはない。


 下級貴族出身だった英雄、アルメデウスが王となり、平穏を築いている実例は、この国の人々のかすかな期待でもあった。


 ――しかし、絶え間なく浴びる称賛とは裏腹に、ガイネルの表情は酷く重々しいものだった。





「陛下はどこにおられる」


 王城へと入ったガイネルが警備兵に尋ねると、兵はその姿を見て襟を正した。


「これは将軍閣下!無事に戻られたのですね!」

「――ああ」

「戦況が思わしくないと聞いておりましたので。私のような若輩者がこのような事を思うのは失礼とは存じますが、ご心配をしておりました」

「――して、陛下は?」

「はっ!陛下は王妃様と礼拝堂の方へ向かわれました」



 ガイネルは城の礼拝堂へと向かった。


 礼拝堂の扉の前にはこの場所にミスマッチな、物々しい格好をした四人の近衛兵が立っていた。厳重な警備態勢だ。


「陛下にお会いしたい」

「――これは将軍閣下殿!」


 勇ましく片足で床を蹴り、姿勢を正した兵は、礼拝堂の扉に手をかけた。


「失礼いたします!将軍閣下殿をお通しいたします!」


 礼拝堂に入ると、敬虔(けいけん)な気持ちにさせる神聖な景観よりも、奥に佇む大きな美しい女神像がまず最初に目に飛び込んでくる。


 この国は女神ストレイアを重んじる女神信仰の影響を強く受けており、新星教を主な国教としている。


「――礼拝の最中ですぞ、ガイネル殿」


 (おごそ)かな青い法衣に身を包んだこの男はオルディアの宰相であるリシュレイ・エメル枢機卿。


 聖職者でありながら政治にも深く通じており、宰相まで上り詰めた。先代の王の代から辣腕を振るってきた老齢の男である。


 ガイネルは跪き、顔を下げた。


「リシュレイ枢機卿。私も早急に戦地へと戻らねばならぬ為、非礼をお許しいただきたい」


 ガイネルの声を聞き、女神像への祈りを捧げていた男が立ち上がり王冠を被った。


 豪華に装飾されたローブと金色に輝く王冠は、力と権力を誇示するかのように男を着飾っている。


 この男はオルディア王国の国王、エメリエル・マセル・オルムデイア18世。目の座った初老の男だ。


 その隣には王妃であるカメリア。贅沢が服を着て歩いているかのようなその女は、金、銀泊を使用した華美な扇で口元を隠しながら、ガイネルを下目遣いで睨みつけた。


「ガイネル、所望していたエルフの若い男はどうしたのかしら?まさか、手ぶらでおめおめと帰ってきたわけではありませんよね?」


 カメリアは眉間にしわを寄せ、冷酷な口調で尋ねた。


「申し訳ございません。エルフたちに里の奥へと逃げ込まれ、手を焼いている状況でございます。――アルディス側の抵抗も激化し、エルフ国へ人員を割くことも厳しく――」


「言い訳はよい!!」


 エメリエル王がガイネルに詰め寄った。


「諸外国の貴族連中も今か今かとせっついている。エルフ国へと兵を回すのだ、あのような自治区など、森ごと一気に焼き討ちにしてしまえ」


「――陛下、それではアルディスと交戦中の多くの兵たちが命を落とします。エルフ国のウィザードたちも一筋縄ではいかない手練れが多く――――」


「ええい黙れ!!!! ――お前がそんな弱気でどうする。英雄の名が泣いているぞ?なあ、ガイネルよ」


「――――はっ。申し訳……ございません」


「フン。英雄英雄と持て囃されすぎて、少し気が抜けているんじゃなくて?」


 カメリアは嘲笑気味に言葉を吐き捨てた。


「いいからさっさとエルフの一匹や二匹捕まえてきなさい!」


「……はっ。善処いたします」


 ガイネルは床に付いた手を震わせ、歯を食いしばった。


 右も左も敵だらけで崩壊の危機にある国の状況。今ここで王たちを斬り捨てても、敵の密偵の仕業とでもしておけば英雄であるガイネルを疑う者など存在しないだろう。仮に護衛の近衛兵に気付かれたとしても、エメリエル王のことを快く思っていない兵は多く、いくらでも口裏を合わせることはできる。


 それどころか、多くの兵たちはガイネルが次の王に就くのではないかと嬉々として手を貸すだろう。


 しかし、けしてガイネルは王に対して離反することはない。




 ――――今から十三年前、称号持ちであるゴールドランクの冒険者だったガイネルは、国の要請で王族の護衛を任されていた。


 S+ランク剣士の妻のエリーザと称号持ちの夫ガイネル。夫婦(めおと)の子連れパーティ”双竜”といえばこの国の冒険者であれば知らぬものがいなかった。


 国の要請とはいえ、今回の目的は前国王マウノリアスの甥にあたるデンバー伯爵の他国外遊とは名ばかりの物見遊山(ものみゆさん)であり、美人が多いと言われている新星法皇国ルベラゼイリスへの護衛。


 王族の護衛といえど、実力者の二人にとってはいつもと変わらない任務。襲いくる魔物や野盗を斬り、高額の報酬を得て任務完了後は酒場で豪快に打ち上げ。そのはずだった。


 だが、その日は違った。


 国境近くのとある沼地に差し掛かった時、思わず二人は息を飲んだ。


 ボコボコと沼地を沸騰させながら現れたのは、ヴォルガンディアという、人も寄り付かないアベリーゼ共和国の火山地帯に生息すると言われている岩竜。


挿絵(By みてみん)


「な、なんなんだ……こいつは」


 ガイネルはそう呟き、喉を鳴らした。


 アベリーゼ共和国の国境にも近い場所とはいえ、普段は火山地帯からは出ることはない怪物。ガイネルが知らないのは当然である。


 アベリーゼ共和国の文献に、200年前に一度だけ都市部に出現した記録がある程度で、生態なども危険すぎて調査できず不明な点も多い。過去に出現した際は、都市国家の集まりであるアベリーゼ共和国の二つの都市を火の海に変えたと記されてある。


 まさに天災級の魔物。


「――あんた、どうする!?」


「これは個人レベルでどうにかできる魔物じゃない!逃げ道を作る!お前は馬車まで下がっていろ」


 エリーザの震えた声に、ガイネルは決意を固める。


「で、でも――――」


「いいから早くしろ!!!!」


 ガイネルの迫真の声に、エリーザは頷くことが精いっぱいだった。


「ひ、ひやあああ!!なんなんだこの化け物は!!」


「伯爵!うちの人が逃げ道を作ります、ご安心を!」


「ほ、ほ、本当だろうな!うぅ、嘘だったら容赦せんぞ!!」


 伯爵は今にも失禁しそうなほどに慌てふためき、護衛の兵士たちも、もはや戦意すらない状態だった。


 ガイネルは剣にオーラを纏わす。


幼子(おさなご)には母親が必要だ。父である俺は散り際の背とその母の言葉で語り継がれ、やがて子にその意思は受け継がれる。――お前にここで散る覚悟はあるか!!化け物よ!!!!俺はあるぞ!!!!」


 岩竜は心臓を打ち付けるような咆哮をあげ、ガイネルを威嚇する。


 一太刀で良い。この魔物に一太刀でも入れることが出来れば、魔物の注意は自分にのみ注がれ、伯爵と妻が逃げる時間を作ることはできる。


 ガイネルは鬼神のような表情で雄たけびを上げ、剣を構えた。


 小手先などいらぬ。自身の最高の剣技をぶつけ、その隙を作る。



 一瞬の火花のような死闘が、今始まろうとしていた。


お読みいただき、ありがとうございました!



♦筆者イットより♦

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