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第50話 対となる者

光と闇は凛人を導き、そして時に惑わせる……

 ベルセフォネのバイオレットの瞳が、ゆっくりと周囲を見渡した。


 その視線には焦りも動揺もない。ただ退屈そうな余裕だけがあった。


 そして彼女は、倒れているダークリカントの死骸を一瞥し、小さく肩をすくめた。


「封印を解かれたと思えば、いきなりこんな騒ぎ……」


 優美な指先で自分の長い髪を払いながら、くすりと笑う。


「随分と乱暴な歓迎ね」


「ベルセフォネ、それはあなたが!――」


 セレイナの言葉を無視して、その視線がゆっくりと俺へと向けられる。


 バイオレットの瞳が、まるでこちらの奥底を覗き込むように細められた。


「――あなたが私の封印を解いたの?」


 その声は静かだが、どこか人を試すような響きを帯びていた。


「あ、ああ。俺が解いた……んだけど」


 俺が答えると、ベルセフォネは一歩近づいた。背が高い。俺より少し高いかもしれない。


 そして、その距離のまま俺の顔をじっと見つめる。


「……ふぅん」


 小さく息を漏らし、唇の端をわずかに上げた。



「正直、拍子抜けね。多少力は感じるけど、彼は人間種でしょ?人間に主を名乗られるなんて、随分な冗談ね」



 その言葉に、セレイナの声が鋭く割って入る。


「凛人さんに無礼です!ベルセフォネ!」


 ベルセフォネはゆっくりと視線だけをセレイナへ向けた。


 そして一瞬だけ沈黙したあと、ふっと笑う。


「無礼?主になるかもしれない者の器を確かめるのは当然でしょう?」


 セレイナの瞳がわずかに細くなる。


「凛人さんは私たち星骸の主であり、そして、ストレイアの意思を託されているお方です」


「そう、()()()の――――」


 ベルセフォネはつまらなそうに頷いた。


 だがその直後、再び俺へと視線を戻す。そして、少しだけ顔を近づけた。


 妖艶な香りがわずかに漂う。


「……あら?」


 バイオレットの瞳が、ゆっくりと細められる。


「あなた。――――表の顔と、奥にあるものが随分違うのね」


 思わず俺は眉をひそめた。


「な、何のこと?」


 ベルセフォネは少し楽しそうに笑った。


「――秘密。でも安心して」


 その指先が、軽く俺の胸元を指す。


「あなたの奥底に眠っているその危うさ―― 嫌いじゃないわ」


 艶やかな声で、囁くように続けた。


 セレイナが一歩前へ出る。


「ベルセフォネ!!」


 その声には明らかな警戒が混じっていた。だがベルセフォネは気にも留めず、軽く手を振った。


「まあいいわ。封印を解いてくれた礼くらいはしてあげる」


 そしてゆっくりと背を向けながら言う。


「しばらくはあなたに従ってあげるわ」


 最後に振り返り、妖艶に微笑んだ。


「――よろしくね、凛人」


 セレイナがすぐに言い返す。


「その呼び方はやめてください。失礼です、ベルセフォネ」


 ベルセフォネはくすっと笑った。


「ふふ。――嫉妬?」


「嫉妬? なんのことです」



 こ、これはなんかまずい雰囲気だ。セレイナがこんなにムキになるところを初めて見た気がする。


 この二人は仲が悪かったんだろうか…… ここに来るまでのセレイナにはそんな感じは見えなかったけど。


 このままでは収集が付かなくなるかもしれないと思った俺は、間に入って主として釘を刺した。


「二人とも、ちょっと待って。――セレイナは落ち着いて。ベルセフォネは挑発をやめるんだ」


 俺の言葉に、セレイナは胸に手を置いてうつむき、ベルセフォネはクスッと笑い、胸の下で腕を組んで背を向けた。


「す、すみません……凛人さん」


「――ふぅん、セレイナねぇ」


「……何が言いたいのです、ベルセフォネ」


 また始まってしまった……


 光と闇。対となる存在同士はこんなにも相いれないものなんだろうか。


「あなた、500年前に比べて随分とおしゃべりになったじゃない。あの時はあなたの声を滅多に聴いたことがなかったけど」


「…………」


「自分の存在を示す名前にさえ興味を持たないあの女のお人形さんだったのに、どうしちゃったの?」


「…………」


「今度はまたあの時のようにだんまり? ――彼があなたを変えたのかしら?」


 セレイナは唇を結んだまま、ベルセフォネの問いかけにうつむき沈黙していた。


 黙り込むセレイナに、呆れたように小さくため息をついたベルセフォネは「まあいいわ」と俺の方を向き、続けた。


「新たな主様? あなたが私に望むことは何かしら?」


 セレイナの様子も気になるけど、そろそろ本題へと話を進めよう。そのためにここに来たんだから。


「望みというか、ベルセフォネに頼みがあるんだ」


「頼み? それはなにかしら」


「エブンズダールという街に魔族に目をやられた人がいるんだ。傷に含まれた闇のマナをどうにかしないと回復をさせられないんだけど、なんとかできないかな」


「――見てみないと何とも言えないわね。復活のお礼はそれでいいのかしら?」


「うん、お願いだベルセフォネ」


「――お願い、ね」と、薄く口角を上げたベルセフォネは、バイオレットの長い髪をなびかせ階段へと歩き出した。


「さっさと行きましょう。500年ぶりに外の空気を吸いたいわ」



 俺は、俯いたままのセレイナに声をかけた。


「大丈夫?セレイナ。さあ、行こうか」

「――はい。申し訳ありません。凛人さん」



 階段を上り、結界で守られているセフィリアのもとへ俺たちは戻ってきた。


 俺の姿を見たセフィリアの目が喜びを帯びる。


「リント様!無事だったんですね!さっき下で大きな音……が……」


 ベルセフォネの姿を見たセフィリアが表情を変えた。


 その顔からは恐怖を色濃く残しつつも、畏怖の念が感じられた。


「あら、エルフが里から出てくるなんて珍しいわね」


 ベルセフォネはセフィリアの存在に反応こそしたが、その口調からはさして興味もなさそうな感じだ。


「セフィリア、大丈夫だった?早く地上に戻ろう」

「――は、はい……」



 俺たちは炭坑内の元来た道を引き返して歩く。


 途中、セフィリアが苦しそうなことに俺は気づいた。汗の量も尋常じゃない。


「どうしたセフィリア、大丈夫?」


「は……はい。 ちょっと、苦しくて……」


 その様子を見て、セレイナが彼女に寄り添い口を開いた。


「――ベルセフォネの覇動の影響と思われます」


「ベルセフォネの?」


 俺もプレッシャーは感じていた。そのプレッシャーは封印石の時も感じたが、今のその比ではない。


 セレイナもフェリドゥーンも、普段は力を抑えていてくれている。俺ですら戦闘以外ではできる限り気を付けている。


 一方、ベルセフォネは力を抑える素振りすらなく、闇のマナが駄々洩れている状態だ。まだマナも魔力も弱いセフィリアには、極寒、あるいは灼熱の地に無防備に身を晒しているに近い。


「ベルセフォネ。その、力を少し押さえてくれないか?セフィリアが苦しそうだ」


 その言葉に、ベルセフォネはやれやれと言った素振りでため息混じりにいった。


「――脆い種族ね。わかったわ」



 

 炭鉱の出口が見えてきた。


 出口の光には多くの人らしき影が慌ただしく乱れ動き、何やら騒がしい。


 これは…………人の声。大勢が何かと争っている。


「凛人さん、外から闇のマナを複数感じます!」

「闇の!?」


 俺とセレイナは出口へと駆けた。



 炭鉱の外では戦闘が繰り広げられていた。


 激しい金属音、地を踏む足音、そして魔物の唸り声と人々の怒声。


 すべてが入り混じり、混沌と化していた。


 魔物はダークリカントで数にして十体ほど。すでに地面には複数人が血を流し倒れている。


 見覚えのある顔もある。この人たちはカルザマンのギルドの人たちだ。


 なぜこの人たちがここに!?そしてダークリカントはどこから……


 目の前の状況を整理していると、ギルドで会ったBランクパーティの男が俺たちに気付き、走り寄ってきた。


「あ、あんたたち!!無事だったのか!!」

「――あの時の。これは、どういうことなんですか!?」


 男はにやりと口角を上げ、流れる血で片目を閉じながら笑った。


「あんたたちが炭鉱に入ったのを見た奴がいてな。他所もんのあんたたちにそんな度胸見せられたらよ、地元の冒険者としてビビって芋引いてる場合じゃねえって思ったわけよ!それに、万が一討伐出来たら昇格も確実だろうしな!」


「すみません…… 俺たちが勝手なことをしたばかりに」


「いいってことよ!本来は俺たちが何とかしなきゃいけねえ事案だったんだ。きっかけをくれて感謝してるぜ」


 そういうと、男は斧を掲げ怒声を上げて戦場へと走って行った。


「うおおおおッッ!!!! 俺たちはまだ腐っちゃいねえ!!!! 昇格は目の前だ!!行くぞお前らぁ!!!!」


 しかし、状況は最悪だ。DやCランク中心の彼らでは、万が一にも勝機はない。


 俺は剣を抜き、声を上げた。


「セレイナ!俺たちも加勢する!目の前で人が死ぬのを黙って見ていられない!」

「はい、凛人さん」



 その時、焼けた砂塵のようなプレッシャーが俺の背中に突き刺さり、背後から、ぞくりとするほど妖艶で冷たい声が聞こえた。。


「――私のマナに引き寄せられて、また集まっちゃったみたいね」


 ベルセフォネが炭鉱から遅れて出てきた。


 彼女は俺たちを通り過ぎ、悠然優美な歩みで魔物たちの群れの中へと入っていく。


 数体のダークリカントがベルセフォネへと襲い掛かる。


「あ、あぶねえぞお嬢さん!!!!」


 その心配もどこ吹く風か。妖美に歩くベルセフォネに魔物たちは触れることすらなく、見えないなにかに弾き飛ばされていく。


 そして、ベルセフォネが発するマナに魔物たちは吸い寄せられ、一匹、また一匹と冒険者たちを無視して彼女を取り囲んでいく。


「あ、あのお嬢さんは……いったい……」


 魔物たちが襲い掛かろうとしたその時、ベルセフォネが静かに笑ったように俺には見えた。



「――下等で下劣な魔物たち、私にひれ伏しなさい」



 静かに放ったその言葉の刹那、身体が浮き上がるほどの地響きと振動が辺りを襲う。


 それとともに魔物たちがいた地面が激しい鳴動とともに押しつぶされ、今にも消え入りそうな、か細い断末魔を上げながら魔物たちが豆腐のように潰れていく。


 ――静寂が戻り、何事もなかったかのように髪をかき上げるベルセフォネを前に、冒険者たちは、ある者は武器を落とし、またある者は尻もちをつき茫然としている。


「復活したばかりで加減が難しいわね。うるさいから押さえつけるだけのつもりだったんだけど」



 俺は、闇を冠するベルセフォネの力の片鱗をまざまざと見せつけられた気がした。





♦筆者イットより♦

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