1.また新しい1日が来る
「ぜぇ…はぁ…たっだいまー!」
私は玄関ドアを少々乱暴に開けながら響き渡るように挨拶をする。
何故息が切れているのか?
それは最近私はたるみすぎではないかと、平和ボケしすぎではないかと自省したためである。
アンズのお宅訪問の時といい、VRMMOのゲームの中といい体が上手く動かせていないような気がする。
ゲームはともかく他は死活問題につながる可能性が無いとは言えない。
そこでちょっと体のメンテナンスを始めてみたという事である。
平和なのをいい事にだらけていたけどアンズに嵌められる等いざという時に不覚を取ることがあってはいけない。
よって今日からでもと体を動かしていたわけである。
幸い暦はまだぎりぎり四月、熱苦しくもなく快適に運動するにはよい季節である。
「あら、お帰り。随分長く運動してたわね?もう夕方よ?」
…そんなに経っていたかな?
体が上手く動かない所を徹底的に洗い直していたからね。
結構自己診断に時間がかかってしまったようだ。
「そっかぁ…。あ、そうだ頼まれてたネギと白菜と卵は買って来たよ。」
「ありがとね。パネル一つで頼むと便利なんだけど送料かかっちゃうからね。」
まあこれで生活費が少しでも浮くなら貢献した甲斐があったものだ。
私はシャワーを浴びるために浴室へ移動する。
「あ、忘れてたけどうちホームステイ受け入れることになったから。」
「…へ!?」
驚いた。
いや、母が受け入れ先の応募をしているのは知っているし父も許可を出しているから問題は何も無い。
けど毎年何故か条件が合わないのかマッチングすることは無く話が流れていたのだ。
今年はどうやらにぎやかになりそうかな?
「それでいつぐらいにどこからどんな子が来るの?」
「太平洋を挟んだ大きい国からよ。シニアハイスクールと書いてあったからあちらの高校生かしら?後、女の子らしいわよ。」
「へー。」
「ちなみに十日後に来るみたいだから準備手伝ってね。」
「…え!?」
それはちょっと急すぎないですかねお母様?
そう言うのって大体何ヶ月後とか半年後とか最低でもそれぐらいの期間が空くものじゃないのかな?
まあ決定が覆ることは無い。
面倒だけど粛々と準備をするしかない。
さて、今日も晩飯をありがたくいただいて夜も更けてきたところでヘッドギアをつける。
…あれれ、いつの間にか習慣になってしまっていないかな?
気が付かないうちに依存性になっていないだろうか?
…まあ昨日に引き続きという事でここでリタイアというのは無しだろうから仕方ないとしてもこちらもいずれ見直す必要がありそうだ。
今日もとりあえずゲームにログインする事に決めた。
ログインした後は相も変わらずの無機質なマイルームである。
確か昨日メッセージを入れるとか言われた気がするけど…どこに届くものだろうか?
『プレイヤーよりメッセージを受信しています。コンソールよりご確認ください。迷惑メッセージの場合は気兼ねなく運営まで通報願います。』
…どうやらマイルームの固定コンソールかな?
操作して見るとピコピコと手紙のアイコンが点滅している。
多分これをタッチすれば…。
予想通りメッセージが開封される。
と言っても内容は差出人名とルームナンバーと入室パスワードしか書かれていない。
差出人の名前はサカキさんだから間違いはないだろう。
固定コンソールを操作してコミュニティールームの項目からルームナンバーを入力して検索、そしてパスワードを入力すれば…。
『コミュニティールーム【続・学校周り脱出調査部屋】と接続しました。マイルームの扉より出入りが可能になります。』
どうやらこれでいいみたいだ。
今日はアンズもマイルームからあちらへ直接行くだろうから待つ必要は無いね。
私は昨日と同じように扉をくぐりコミュニティールームへ移動した。
それでもってコミュニティールームに移動した結果だけど…どうやら私が最後だったようだ。
アンズが私の所に寄り道せずに先にこっちへ来ていたというのがびっくりだ。
相変わらずお嬢様風の微妙な微笑みを顔に貼り付けており、接触お断りと書いていなければ完璧だったろうにね…。
さて、それはさておき挨拶を忘れてはいけない。
「こんばんは。時間ギリギリですいません。」
「いや、明確に時間を決めていなかったから問題ない。昨日の情報の共有と今日の方針について話し合いたいのですまないが席についてくれ。」
そこから先はサカキさんと吸い殻さんの主導で昨日の情報公開が進められていく。
説明配分や進め方は問題なく要点を押さえて十分程度で完了した。
サカキさんチームの情報として着目すべきは学校から裏山へのルートは存在する。
そして姿を知覚しづらい化け物が存在するといったところだろうか?
説明が終わるとサカキさんは私とアンズに振り向いて来る。
「さて、本日の活動に移る前に…昨日の件は全て今のうちに解決しておきたい。」
すると吸い殻さんが昨日の下水道での戦利品をテーブルの上に並べる。
あのヘルメットに潜んでいた化け物の死体も並んでいる事からどうやらワズンさんは見事成し遂げたようだ。
あの土壇場のプレッシャーでがんばったね。
「本来なら持ち帰った者がもらう約束なんだが…、吸い殻からも話を聞いたがこれらのアイテムは君の機転で獲得できたと判断している。当然他の三人の貢献もあるだろうが君がいなければそもそもゼロだったと思う。」
「まあ最後だけ華持たされて総取りとかは流石にだめだからな。そこで一番貢献があったお前に決めて欲しいんだが…。」
なるほど…それは。
「面倒な事を人に押し付けてません?」
そう指摘すると二人共、おかしそうに笑う。
図星みたいだね。
「まあ希望があれば聞きたいというのもあるがもう一つあってな。このランプ付きのヘルメットは今日の探索で使いたくてできれば共用という形で一時的に譲ってほしい。」
「…という事は?」
「うん、裏山を全員で進むというのもありかと思ったが今日の所は下水道をさらに奥に進んでみるというのはどうかと考えている。そのために灯りは欲しくてな。望みがあれば言ってくれれば俺でできる範囲でなら何でも便宜を図るぞ。」
…おや今何でもとおっしゃいましたか?




