第8章 最初の飛躍
朝になり、カイはバーの中で目を覚ました。隣では記録係が眠っており、その大きないびきが静まり返った部屋中に響いていた。カイはゆっくりと起き上がった。前夜の疲れがまだ身体に残っていたが、時間を無駄にするわけにはいかなかった。
ついに手に入れた名前――エドマンド・ハリントン。
次の手がかりが消えてしまう前に、彼を見つけなければならなかった。
カイはバーを出て、通りへ足を踏み出した。辺り一面を濃い霧が覆っており、数メートル先を見ることさえ難しかった。冷たい朝の空気が服を通り抜け、カイは身震いしながら情報を求めて街を歩いた。
「寒すぎる……」とカイは言い、手をこすって温めながら歩いた。
彼は通りで出会う人々に、エドマンド・ハリントンについて尋ね続けた。ほとんどの人は彼を知らないか、カイを無視するだけだった。それでも、彼は諦めなかった。
しばらく聞き込みを続けた後、ようやくハリントン一家が住んでいるという家への道を教えてもらった。
カイは霧の中を教えられた道に沿って歩き、やがてその家を見つけた。
彼はドアの前にしばらく立ち、それからノックした。
もっと年上の男が出てくると思っていた。おそらくエドマンド本人だろうと。
しかし、ドアが開くと、そこに立っていたのは幼い少年だった。
少年は家の外に立つ見知らぬ男を警戒するように、カイを見つめた。
「俺は君のお父さんの友人なんだ」とカイは答え、少年に父親がどこにいるのか尋ねた。
少年はしばらくカイを見つめ、それから答えた。
「父さんなら港にいるはずだよ。まだ帰ってきてない。」
カイは少年に礼を言い、すぐに港へ向かった。
もしエドマンドがそこで働いているのなら、港の誰かが彼の居場所を知っている可能性が高い。手がかりが途切れるまでどれだけ時間が残されているのか、カイには分からなかった。だから彼は霧の中を足早に進んだ。
その頃、ウィリアムの研究室では、ジョセフが謎のブリーフケースを中へ運び込み、テーブルの一つに置いていた。
「ウィリアム、見てください。誰かが外にこのブリーフケースを置いていったみたいです。きっとあなた宛てですよ。」
次の実験の準備に追われていたウィリアムは、手を止めてジョセフのほうを振り向いた。
ブリーフケースはすぐに彼の注意を引いた。
誰が外に置いていったのか、ウィリアムにはまったく分からなかった。そして、持ち主を特定できるようなものは何一つ付いていなかった。
「俺に? 一体誰が俺にこんなものを置いていくんだ?」
ジョセフは二人の間にブリーフケースを置いた。
二人は注意深くそれを調べ始めた。
それは当時のものとは思えないほど、奇妙に高度な作りをしていた。しかし、その用途を明確に示すものは何もなかった。
ウィリアムは指をケースの縁に沿わせ、どうにかして開ける方法を探した。
留め金を試した。
何も起こらない。
もう一度、今度は力を込めて引っ張った。
それでも何も起こらなかった。
ジョセフは、2つのデッドボルトの間に何か変わったものがあることに気づいた。
そこには、小さな数字の並びがあった。
その数字は意図的に配置されているように見えた。まるで何らかの組み合わせ装置のようだった。
ジョセフはデッドボルトの間にある数字の仕組みを見て、何かのロックではないかと提案した。
しかし、この時代には数字を使ったロックなどまだ発明されていない。
「数字のロックなんて、この時代にはまだ存在しないだろう」とウィリアムは言い、ジョセフの仮説を退けた。
ウィリアムはその仕組みをさらに詳しく調べ続けた。
彼は身を乗り出し、数字とその配置をじっくりと観察した。
長年の研究生活の中で、彼は数え切れないほどの機械装置を見てきた。
しかし、これは今まで見たことのないものだった。
さらに近づいて調べた後、ウィリアムは言った。
「日付の形式に見える。日/月/年だ。」
「正解です」とジョセフは言い、ウィリアムがどれほど賢いのかを大げさに褒めるような口調で答えた。
ウィリアムはジョセフのからかいを無視し、ブリーフケースを見つめ続けた。
もし数字が日付を表しているのなら、そこには何か理由があるはずだ。
もしかすると、その日付が鍵なのかもしれない。
「でも、これは何をするんだ?」
ウィリアムはそう考えながら数字を変更した。
何も起こらなかった。
「それとも、正しい日付を見つけなきゃいけないのか?」
ウィリアムは再び数字を調整し、さまざまな日付を試してみた。仕組みが反応するか確かめるためだった。
しかし、何も起こらなかった。
ブリーフケースは完全に静止したままだった。
彼はもう一度、日付を変更した。
それでも何も起こらない。
ウィリアムは、特定の日付を見つける必要があるのではないかと考え始めた。もしかすると、その日付はこのブリーフケースを作った人物と関係しているのかもしれない。
しかし、彼はまだ知らなかった。
その数字はロックではなかった。
それは制御装置だった。
ウィリアムが日付を変更したことで、彼は知らないうちにブリーフケースの内部に隠された機械を起動していた。
日付を変更することでブリーフケースが開くのか確かめようと、ウィリアムは留め金を開いた。
その瞬間――
ウィリアムはブリーフケースとともに姿を消した。
「ウィリアム!」
ジョセフは驚愕し、叫び声を上げた。




