警察官
いつも通りの穏やかな日、そんなたるんだ空気をきり裂くように雑音混じりな音声が響いた。
「至急至急警視庁より✕✕PS管内。警視庁より✕✕PS管内宛。現在、✕✕PS管内〇〇にて、隣の家から悲鳴が聞こえるとの110番通報入電中。指令番号186番。対応可能な局声上げ、コールサイン、どうぞ」
「いくぞ」
先輩に言われた私は、先輩とパトカーに乗り込むと現場に向かってハンドルを切った。
現場に着いた私と先輩。件の悲鳴が聞こえるという一軒家の前に立つと、インターホンを押し、ドアを叩くが返事がない。試しに私がドアノブを捻ってみると、軽々と扉が開いた。
「気をつけろよ」
私の前に割り込み、先人を切って家に侵入した先輩が言う。私は警棒に手をかけ、ゆっくりと廊下を土足で踏みしめる。
私と先輩は廊下を抜け、リビングに突入する。私の眼前に広がったその光景は、悲惨そのものであった。リビングの卓上にはロウソクが刺さったホールケーキや3つのグラスと皿、そしてジュース。誕生日仕様に飾り付けられた壁には血が飛び散っており、床には3人の人物が血をダラダラ流して倒れている。それも、その3人の死体はずたずたにきり裂かれており、臓器などが身体から飛び出している。
気がつくと私は床に昼食べたものが混じった胃液をまき散らしていた。口の中に酸っぱいのがのこってる中、手の甲で口元を拭う。すると、2階から物音が聞こえた。
「俺が見てくる」
先輩がそういった時には私は階段を登り始めていた。
警察だと、喉がひりつくほどの叫び声を出し、乱暴な足取りで階段を駆け上がると、部屋を1つずつ見て回る。そして、2階の1番奥の部屋を開けると、その男はいた。そいつは、返り血にまみれた体を小さく縮こませてプルプルと震えていた。
ある男が死んだ。その男は凄惨な事件の加害者。あんな現場もう見たくない。ただ、それ以上に、私も人殺しに加担したのではないかという考えが、私を押しつぶしそうだった。あの男が死刑になったのは、私が手錠をかけたからなのではないだろうか。せめて、私以外の警官が逮捕していれば、私が逮捕しなければ、先輩が先に2階に上がっていれば、私はこんな罪悪感を感じずに済んだのに。
「おかえり、御飯作っておいたよ。今日もお疲れ様」
最近結婚した嫁が、私に優しくて柔らかな笑顔と顔で言ってくれる。いつもなら嫁のご飯が美味しくておかわりまでするのに、今日は何を口に入れても味がせず、食欲がないと嫁に告げると、逃げるように布団に潜り込む。目を瞑ると、あの時の現場や私が殺したあの男の顔がフラッシュバックして寝付くことができなかった。




