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成功によって。


お金が入った。


生活は目に見えて、変わった。


最初は、規模だけだった。


次第に扱う額が一桁、二桁と増えていく。金が入った。

 

生活は、目に見えて変わった。

 

最初に変わったのは、規模だ。

 

次に、桁が変わった。

 

扱う額が、一つ、二つと増えていく。

 

案件の質も上がる。

 

関わる人間の数も、立場も変わる。

 

だが――

 

やっていることは、同じだった。

 

見る。

 

削る。

 

決める。

 

それだけで、すべてがうまくいく。

 

 

「もう、遊びじゃないな」

 

間宮が言った。

 

高層階のラウンジ。

 

ガラス越しに広がる夜景。

 

グラスの中で氷が、静かに音を立てる。

 

「最初から遊びじゃないだろ」

 

俺は答える。

 

だが、その言葉に実感はない。

 

規模が大きくなっても、難易度は上がらない。

 

ただ、桁が増えただけだ。

 

「感覚、おかしくなるな」

 

間宮は笑う。

 

「これだけ動かしてるのにさ」

 

グラスを軽く揺らす。

 

「何もしてない気がする」

 

その言葉に、誰も否定しなかった。

 

ユイは、窓の外を見ている。

 

街の光を、ただ観察するみたいに。

 

「……ねえ」

 

ぽつりと呟く。

 

「まだ、ズレてる」

 

視線はそのまま。

 

俺たちを見ない。

 

「何がだ」

 

俺は聞く。

 

「全部」

 

短い答え。

 

だが、それで十分だった。

 

俺も感じていた。

 

ほんのわずかなズレ。

 

完全に一致していたはずの未来に、

 

微細な“揺らぎ”がある。

 

誤差にもならない。

 

だが――

 

確実に存在している。

 

「今日の案件」

 

ユイが言う。

 

「一つ、違った」

 

間宮が顔を上げる。

 

「違った?」

 

「あえて、外した」

 

 

空気が止まる。

 

「……は?」

 

間宮の声が低くなる。

 

「何してんだよ」

 

当然の反応だ。

 

俺も同じことを思った。

 

「理由は?」

 

俺は静かに聞く。

 

ユイはゆっくりと振り返る。

 

その目は、いつも通り冷静だった。

 

「“選択”をするため」

 

心臓が一瞬だけ強く打つ。

 

同じ結論に、辿り着いている。

 

「結果は?」

 

間宮が問う。

 

ユイは一拍置いてから答えた。

 

「少しズレた。でも、変わらない」

 

 

ズレた。

 

だが、結果は変わらない。

 

その意味は――重い。

 

「外れたのか」

 

「誤差の範囲」

 

ユイは首を振る。

 

「でも、“いつも通り”じゃない」

 

その差は小さい。

 

だが、確実に線から外れている。

 

 

今までの俺たちは、

 

“辿る”だけでよかった。

 

だが今回は違う。

 

初めて、線を外した。

 

 

「私は、これも“選択”だと思う」

 

ユイが言う。

 

「……どういうことだ」

 

「見えてるのに、選ばない」

 

静かな声。

 

だが、その意味ははっきりしていた。

 

間宮が舌打ちする。

 

「リスク高すぎだろ」

 

「今まで全部当ててきたんだぞ」

 

「わざと外すとか、意味わかんねえ」

 

正しい。

 

完全に正論だ。

 

だが――

 

「意味はある」

 

俺は言った。

 

間宮がこちらを見る。

 

「これができるなら」

 

続ける。

 

「俺たちは、“選べる”ようになる」

 

 

場が静まる。

 

選べる。

 

その言葉は、今の俺たちにとって重すぎた。

 

「……失敗したら?」

 

間宮が低く言う。

 

「全部、崩れるぞ」

 

資金。信用。積み上げたもの。

 

一つのミスで、すべてが壊れる。

 

「それでもやるのか」

 

俺は答えた。

 

「やる」

 

即答だった。

 

迷いはない。

 

いや――

 

迷い方を、忘れている。

 

「このままだと、俺たちは」

 

言葉が自然に出る。

 

「何もしてないのに、全部決まる状態から抜けられない」

 

それは、成功より厄介だった。

 

 

間宮が長く息を吐く。

 

「……狂ってるな」

 

「今さらだろ」

 

俺は返す。

 

数秒後。

 

間宮は肩をすくめた。

 

「いいよ」

 

「付き合う」

 

その目は、少しだけ笑っていた。

 

「どうせ、このままでも気持ち悪いしな」

 

ユイは何も言わない。

 

ただ、わずかに頷いた。

 

それで十分だった。

 

 

その夜、

 

俺たちは初めて――

 

“間違えること”を選んだ。

 

 

そして、その選択は

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