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6/8

あの日から、俺たちは三人で動くようになった。


黒瀬、ユイ、間宮それぞれの役割が


最初からそこにあったかのように、自然に収まった。


最初の案件は、小さな投資判断だった。


規模も大きくない。


リスクも、通常の範囲内。


俺一人でも処理できる程度の仕事だ。


だが――三人でやった。


理由は一つ。


この仕事は序章にすぎない。

力を試し、

最終的に大きな仕事につなげるためだ


会議室には、資料と沈黙だけがあった。


窓の外は夜。


ガラスに映る自分たちの顔が、妙に他人行儀に見える。


「この投資は信頼できる」


俺は資料から視線を外さずに言った。


市場の動き。競合の反応。内部の意思決定

それぞれがどう絡み、どこに収束するか。


線としてではなく、層として見える。


「そこ、ノイズ多い」


ユイが短く言った。


指先で資料の一部をなぞる。


「感情的な判断が混ざってる。切るね」


その瞬間、視界がクリアになる。


比喩じゃない。


本当に、余計なものが“消える”。


残るのは、骨組みだけだ。


「……なるほど」


俺は小さく息を吐いた。


「じゃあ、これで」


間宮が言った。


一拍の迷いもなく、資料の一点を指す。


それで、終わりだった。


数週間後。


結果は、予測と寸分違わず一致した。


市場はその通りに動き、投資は最大の利益を生んだ。


偶然ではない。


再現性がある。

それは、すぐに証明された。


二件目。三件目。五件目。


どれも同じだった。


俺たちは、間違えなかった。


「……すごいな、これ」


間宮が、どこか現実感のない声で言った。


手元の数字を見ながら、笑っている。


だが、その笑いは軽い。


実感が伴っていない。


「怖いくらいに」


ユイが静かに返す。


彼女は笑っている。

ただ、結果を見ているだけだ。


違和感は、その頃からあった。


小さなズレ。


言葉にするには曖昧で、無視するには引っかかる。


「……なあ」


俺は資料から目を上げた。


「最近、“考えてるか”?」


二人の視線が、こちらに向く。


「どういう意味だ?」


間宮が聞く。


「そのままだ」


俺は言った。


「選ぶ前に、迷ってるか?」


沈黙。

数秒。


だが、やけに長く感じた。


「……正直に言うと」


間宮が視線を落とす。


「ほとんど迷ってない」


やっぱりな、と思った。


「見えてるからな」


俺は淡々と言う。


「選択肢も、その結果も」


「あなたは?」


ユイが聞く。


「俺も同じだ」


そう答えながら、違和感が残る。


同じ――ではない。


もっと、質が悪い。


最初は“読む”だった。


人の思考、状況、流れ。


それを拾い上げて、組み立てる。


だが今は違う。


“答え合わせ”だ。


すでに存在している正解を、なぞっているだけ。


「ねえ」


ユイが言った。


「これ、やっぱりまずいよ」


否定する理由がなかった。


それでも――止めなかった。


止める理由も、見つからなかった。


結果が出る。


成功する。


評価される。


数字は伸びる。


話は勝手に大きくなる。


そのすべてが、“正解”の延長線上にあった。


だから――


選び続けた。


「これさ」


間宮が言った。


その声は、今までで一番小さかった。


「なんだ」


俺は顔を上げる。


「俺、選んでるのかな」


一瞬、意味がわからなかった。


「どういう意味だ」


間宮は少し考えてから、言葉を探すように話し始めた。


「最初はさ、“選んでる”って感覚あったんだよ」


「どっちにするか、ちゃんと悩んで、決めてる感じ」


そこで一度、言葉が切れる。


「でも今は――」


視線が宙に泳ぐ。


「勝手に決まるんだよ」


空気が、わずかに冷えた。


「勝手に?」


ユイが聞く。


「どっちがいいか、わかる」


「だから選ぶ」


間宮は続ける。


「でも、その“選ぶ”がさ」


一瞬、言い淀む。


「自分の意思なのか、わからない」


沈黙。


その言葉は、妙に重かった。


俺も、同じことを感じていたからだ。


見える。


わかる。


理解できる。


だから、間違えない。


だが――


「それって」


ユイがぽつりと呟く。


「もう“選択”じゃないよね」


誰も答えなかった。


答えは、すでに出ていた。


その夜、俺は一人でオフィスに残った。


電気は落としてある。


窓の外の明かりだけが、ぼんやりと室内を照らしていた。


机に手をつく。


静かすぎる。


思考が、やけにクリアだった。


違和感の正体を、もう理解している。


これは――

“選択”じゃない。


最初から決まっている結果に、最短で辿り着いているだけだ。


過程があるように見えて、


実際には存在していない。


俺たちは、


選んでいるんじゃない。


その事実に気づいたとき、


なぜか――


逃げ場がないと思った

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