8
結果は――外れた。
正確に言えば、外した。
予測から、ほんのわずかに。
だが、その“わずか”で十分だった。
利益は減り、評価は揺らぎ、信用に小さな傷が入る。
致命傷ではない。
だが、これまでとは明確に違う。
初めて、
“うまくいかなかった”。
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「……どうだ」
間宮が言う。
笑っているが、どこかぎこちない。
「最悪か?」
「いや」
俺は首を振る。
「悪くない」
本心だった。
むしろ――
やっと、“手応え”があった。
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ユイは、何も言わない。
ただ静かに、結果を見ている。
「ねえ」
やがて、口を開く。
「これでわかったでしょ」
視線はこちらに向けないまま。
「私たち、今まで――」
一瞬、言葉を区切る。
「ちゃんと選んでなかった」
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否定は、できなかった。
今までの“選択”は、
可能性の中から選んでいたんじゃない。
ただ、
最短で“そこに行く”道をなぞっていただけだ。
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「でもさ」
間宮が言う。
「これ、効率悪くね?」
苦笑混じりの声。
「わざわざ外して、損してさ」
「そうだな」
俺は答える。
「非効率だ、意味もないかもしれない。じゃあ、戻すか?」
軽く言う。
いつものやり方に。
間違えないやり方に。
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少しの沈黙。
俺は、ゆっくりと首を振った。
「いや」
短く言う。
「新しい可能性が見えるかもしれない」
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間宮が、小さく笑う。
「マジかよ」
「後悔すんなよ」
「しない」
即答だった。
ユイも、何も言わずに頷く。
それで決まりだった。
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帰り道。
三人で歩く。
いつもと同じ夜の街。
だが、少しだけ違って見えた。
人が迷っている。
選んでいる。
間違えている。
遠回りしている。
――それが、ちゃんと“人間”に見えた。
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「じゃあ、ここで」
間宮が手を上げる。
「また明日」
軽い調子で去っていく。
ユイも、逆方向に歩き出す。
「じゃあね」
それだけ言って、振り返らない。
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一人になる。
ふと、足が止まる。
見覚えのある明かり。
コンビニだった。
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自動ドアが開く。
冷たい空気。
蛍光灯の白い光。
何も変わっていない。
あの日と同じだ。
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レジの前。
一人の老人が、小銭を数えている。
ゆっくりと。
少しだけ、不器用に。
後ろには、数人の列。
誰も急かさない。
だが、少しだけ空気が滞る。
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俺は、無意識に“見て”いた。
この後の流れ。
レジの動き。
後ろの客の反応。
すべて、読める。
最適な行動も、わかる。
――だが。
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俺は、何もしなかった。
ただ、待った。
老人が、小銭を落とす。
床に転がる音。
少しだけ、時間が伸びる。
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しゃがんで、それを拾う。
渡す。
「……すみませんね」
老人が言う。
「いや」
俺は首を振る。
それだけだった。
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会計を終えて、外に出る。
夜風が、少しだけ冷たい。
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ふと、思う。
さっきの行動は、
最適じゃない。
もっと効率のいい動きは、いくらでもあった。
だが――
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「……悪くないな」
小さく呟く。
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未来は、まだ見える。
分岐も、結果も。
それでも――
その中から、外れることはできる。
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完璧じゃなくていい。
遠回りでもいい。
間違えてもいい。
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それを、“選べる”なら。
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俺は歩き出す。
今度は、
どこにも繋がっていない道を。
自分で選ぶために。
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それが――
俺たちの“選択”だった。




