↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
4/8

男はまだ、自分の手を見ていた。


何かを確かめるように、ゆっくりと開いて、閉じる。


その動作に、さっきまでの“普通の人間”の気配はなかった。


「なあ」


俺は声をかける。


「今、見えてるのか?」


男は一瞬だけ迷ってから、頷いた。


「……うっすらだけど」


「このまま帰る場合と、帰らない場合」


「それぞれどうなるか、なんとなくわかる」


やっぱりな、と思った。


「で、どっちがいい?」


「帰らない方」


即答だった。


「理由は?」


「……わからない」


その答えに、ユイが小さく笑った。


「もう始まってるね」


俺はは少しだけ眉をひそめる。


「何が」


「選択が」


一瞬、空気が止まる。


間宮は何も言わなかった。


言い返せないのか、それとも――もう、理解してしまったのか。


「……で?」


間宮が顔を上げる。


「このあと、どうすればいい」


その問いは妙に自然だった。


助けを求めているわけでもない。


指示を待っているわけでもない。


ただ、“次の選択肢”を確認しているだけ。


「どうする、じゃない」


ユイが言う。


「もう決まってるでしょ」


「は?」


「私たちと組む」


あまりにも当然のように言った。


間宮は少しだけ黙る。


だがその沈黙は、“考えている”ものじゃなかった。


確認だ。


「……それが一番いいのか」


「そう見えてるんでしょ?」


間宮は、ゆっくりと頷いた。


「……ああ」


それで、決まりだった。


拍子抜けするほど簡単に、三人は繋がった。


だが――その“簡単さ”こそが、違和感だった。


「いいのか?」


俺は一応、聞いた。


「初対面だぞ、俺たち」


「関係ない」


男は即答した。


「一番いいなら、それでいい」


迷いがなかった。


その言葉に、俺はほんの少しだけ引っかかった。


“いい”の定義が、あまりにも曖昧すぎる。


だが同時に――俺自身も、それを否定できなかった。


ユイの遮断。


間宮の選択。


そして、俺の観察。


組み合わせた時にどうなるか。


見てみたい、と思った。


その時点で、もう十分に理由だった。


「……まあいい」


俺は小さく息を吐いた。


「試す価値はある」


ユイがわずかに笑う。


「決まりだね」


電車のアナウンスが、遠くで流れる。


だが、もう誰も気にしていなかった。


帰るという選択肢は、いつの間にか消えていた。


終電が去ったあとも、風だけがしばらく残っていた。


ホームに残ったのは、俺たちと、さっきまでの余韻だけだった。


「……そういえば」


俺はふと思い出したように言った。


「名前くらい、ちゃんと確認しておくか」


今さらだが、必要なことだった。


「今?」


「今だな」


順序としてはおかしい。

だが――ここまで来ておいて、名前も曖昧なままなのは、もっとおかしい。


「……間宮」


先に名乗ったのは、あいつだった。


「間宮 恒一」


短く、それだけ。


だが、その名前に乗る感情は薄い。


まるで“ラベル”を貼るみたいな言い方だった。


「さっきの話だと――選ぶんだよな」


「ああ」


間宮は少しだけ視線を落とす。


「選択肢が見える。……その先が、なんとなくわかる」


「……でも」


わずかな間。


「それが自分で選んでるのか、わからない」


「なるほどな」


俺は小さく頷く。


「厄介だ」


「だろ」


苦笑ともつかない表情。


まだ、“人間側”にいる顔だった。


「次は?」


ユイに視線を向ける。


「白石ユイ」


「能力は、“遮断”」


「見られない。読まれない。干渉されない」


「便利そうだな」


「不便だよ」


「全部切れるってことは、全部繋がらないってことだから」


最後に、間宮がこちらを見る。


「お前は?」


一瞬だけ、間があった。


「……黒瀬」


少し遅れて、実感が追いつく。


「黒瀬 蒼」


「能力は?」


「観察」


「人の思考と、意図。あと、流れだな」


「全部、“見える”」


「……最悪だな」


否定はしなかった。


「で」


ユイが言う。


「見る、切る、選ぶ」


三人を順番に指差す。


「綺麗に分かれたね」


「出来すぎだろ」


「だな」


だが――その“出来すぎ”を、誰も否定できなかった。


俺は天井を見上げる。


次に何をするかなんて、もう考えるまでもなかった。


視線を上げる。

間宮と、ユイ。


二人とも、同じ方向を見ている。


言葉は、いらなかった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。