表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ルナティックGT!  作者: 長物守
ACT.04「第三の月の女神」
PR
26/28

新しい力、新しい脅威

初夏、黄金週間を終えて少年少女は新しい季節を巡る!


この季節の夜は、寒くもなく暖かくもない……


雪もないし雨も少ない、その季節にトライする者たちがいる――


乾いた空気にエグゾーストを刻む者たち……その何人かは、帰ってはこないのだ。

 ゴールデンウィークはあっという間に終わってしまった。

 リョウヤやアルクと夜を走って、アルの本体たるオリュオーン911-TSをチューニング、整備してトライ&エラーを繰り返す。日常とあまり変らない中、図書館で勉強会もしたし、ランに誘われキラウラ家でお茶会もしたりした。

 そんなこんなで、カケルにまた日常が戻ってくる。

 今日もエアボードで登校すれば、珍しい姿を校門前で発見するのだった。


「あれっ、珍しいね。おはよう、ランねえもアルクも。二人一緒なんだ」


 そこには、黄色のバイク・フレームにまたがるランと……その横に新しく増設されたサイドカーに乗るアルクの姿があった。

 シュペリオンGX-Zは今、サイドカー付きのバイク・フレームとして復活していた。

 ヘルメットを脱ぐランとアルクは、笑顔でカケルに挨拶を返してくれる。


「直ったんだね、シュペリオン……でも、サイドカー?」

「いいでしょー? アタシが設計して組み立てたの。これなら一緒に出掛けられるしね」


 フフーン! と鼻高々なアルクに苦笑しつつ、文句を言うランも楽しそうだった。このシュペリオンはオリジナル世代のモビル・モービル……極めて高いオーパーセンテージを誇るブラックボックスの(かたまり)のようなバイク・フレームなのだった。

 かつて、紅蓮の魔女と呼ばれたモビル・モービル。

 よく見れば、ランは正式な義足に右脚を治療しおえており、それを隠そうともしない。

 以前なら黒のタイツでずっと隠していた、むっちり筋肉質なすらりと長い脚だ。

 あっという間に、登校中の周囲が慌ただしくなる。


「えっ、キラウラの兄貴? ちょっとまって、義足なの?」

「いやーん、お姉さまーっ! でもでも、素敵なモビモビですわーっ!」

「なんか妙じゃないか? あのバイク・フレーム……オーラっていうかさ」

「わかる……いやでも、アルクちゃんは今日もエモエモしいなあ! おいぃ!」


 カケルには、外野の声は気にならない。

 ただ、新たにサイドカー付きになったシュペリオンのスペックは気になった。

 そして、待ってましたとばかりにアルクが説明してくれる。


「トルクを太くしてデチューン、最高でも120psかな? サイドカーはこれは、アタシが乗るのもあるけど……一応、バトルの時は超お役立ちだよ!」

「アルクったら酷いのよ? カケル君。マイルド過ぎて興奮しない愛車に、勝手にサイドカーまでつけて……ふふ、でも乗りやすいのは確かに、ね?」


 なにやらランも、まんざらではないようだ。

 ヘルメットを脱いだアルクが飛び降り、改めてババーン! とシュペリオンを指さす。

 そこにはもう、未来の極限チューナーの片鱗が見て取れた。


「シュペリオンVer2.0! お姉ちゃんの義足はちゃんとしたものになったけど、もうバトルには……んー、そう、それ……でもね、それはアタシが決めることじゃないから」

「そういう訳なのよ、カケル君。ふふ、しょうがなくてよ……まずは新しい義足で、この子を乗りこなしてから考えますわ」


 そしてまた、紅蓮の魔女は走り出す。

 もうすでに、イエローの陽気なマントに身を隠した魔女。でも、カケルにはわかった、わかってしまった……ランは再び、ムーンランナーとして走り出す。義足をすでに隠すことなく晒していることが、それをはっきりと伝えてくるような気がした。

 そして、周囲の生徒たちは盛り上がって輪を作りながら囲んでくる。


「うおおお、キラウラ姉妹が一緒のところ初めて見たぜえ!」

「うわーん! ランお姉さまーっ! その脚、その義足! なにが、いったいなにが」

「そういや、昔あったよな。ランのやつ、公式レースで重傷を負ってプロへの道を断たれたって噂」

「あれがでも、道を断たれた人間の眼かよ。……いい感じに萌えてるじゃんかよう」


 ランはアルクと別れを告げると、学生用の駐車場にシュペリオンを走らせる。その後ろ姿は、右脚だけが銀色。金属の光沢を放つそれを隠しもせず、ランは、角を曲がって見えなくなった。

 残されたアルクは、カケルに向かってフフン! と腕組みのけぞり胸を張る。


「お姉ちゃんの義足、一昨日正式なものに付け替えてさ。だったら、もうまた乗れるなって」

「随分パワー落としたんだね。よくランねえが納得したものだよ」

「ぶっちゃけ、バイク・フレームで300psってのが無茶な話なの! ……お姉ちゃんに死んでほしくないし、楽しく走ってほしいから」


 モビル・モービルの中でもバイク・フレームは、タイヤが二つしかない。しかも。その片方はハンドリングを地面に伝える役目なので、全ての馬力は後輪一つに集中する。そういうモンスターを、かつてランは乗りこなしていたのだ。

 紅蓮の魔女と呼ばれた、本物の都市伝説。

 でも、それは今は昔の話だとカケルは思った。

 思ったが、胸騒ぎが渦巻いて鎮まらない。

 そうこうしていると、ランの退場でばらけた生徒たちの校門に影が降りてきた。


「よーっす、カケル! アルクも! おっはー!」


 リョウヤだ。カケルと同じエアボードで鮮やかな着地を決めると、彼は白い歯を零して笑った。多分、まだ黄金週間気分なのかもしれない。

 でも、今日からまた日常の学生生活が始まる、

 カケルは手をあげるリョウヤの手を、パァン! と手で叩く。

 そうしてまた、平凡な学生生活が始まるかに思えた、

 が、リョウヤは突然妙な話を広げてくる。


「こんどはリージョン熱海(あたみ)までいって、温泉三昧しようぜ! ……あとよ、カケル」

「うん?」

「いい話と悪い話があんだよ。どっちから先に聞きたい?」

「ん、悪い話から」

「あんだよ、普通逆だろ? ……まあ、話すぜ。夜な夜な最近、ゴーストが出る」

「まあ、幽霊なは昼には出ないよね。それが?」

「ハイウェイにだよ! 月面にもだ。まるで幽霊みたいな、謎のモビル・モービルが出る。しかもそいつは……絶対にモビルモードに変形しないんだってよ」


 思わずカケルもぴくりと片眉を揺らす。

 エアゲートを出た先、月面のハイウェイは問答無用……モビルモードに変形したモビル・モービル同士のガチのロボットバトルだ。

 だが、その男は決して変形を見せないという。

 つまり、月面の真空でも走りで全てをねじ伏せているというのだ。


「……その話、いつから?」

「三か月くらい前からだ。変形しないから、無視されてたらしいけどな、最初は」

「モビルモードの攻撃力と機動力から、モービルモードで逃げ切るってのは」

「ああ、普通の腕じゃない……もしくは、普通のモビモビじゃない」


 モビル・モービルはもともと、戦闘用の装脚車両、兵器だ。その進化はいったんリセットされて今は第四世代型の最新型が走っているが、大地球戦争時代のオリジナル世代はオーパーツ、意味不明な戦闘力と高性能を誇る。その一台を所有するカケルとしては、気になる話だった。

 そして、リョウヤはさらに興味的な話を零す。


「そのモビモビがよぉ、カケル。300年前のトライスター社製っていうんだ」

「えっ、それって」

「そう……この無変形者は、オリュオーンやシュペリオンと同じエンジンを積んでるかもしれない。そう、言うなればネガ・トランスフォーミンダー。絶対に変形しない」


 カケルは激震に心身を揺さぶられた。

 リージョン内の公道ならともかく、エアゲートを出た先……真空の宇宙を走りだけで突破できるだろうか? 無理だ、出来ない、自分にはできないと思うし、自信もない。

 モビル・モービルのバトルはいつも、リージョン内では速さを競う。だが、真空の宇宙に飛び足した瞬間、その理は裏返る。速いか遅いかではない……強いか弱いかが問われるのだ。走り屋の中にも、モビルモードでの強さを誇る者と、モービルモードでの速さを誇る者とがいた。

 だが、どちらも一緒だ。

 最後に相手にこちらの意志を伝えてわからせる、言葉なき力の説得でバトルは終わる。


「リョウヤ、その車とドライバーのデータは集められてる?」

「そこがさっぱりなんだよなあ、すまーんカケル。トライスター社のオリジナル世代モビル・モービル、あとはまあ、なんだ。トラック・フレームらしい」

「トラック・フレーム?」

「もとから走りを競うつもりはないんだけど、速いんだよ。コンテナ背負った普通のトラックだってよ」

「それが、ムーンランナーの走りをブチ抜いて走り去る……」


 カケルは驚き二言葉を失う。

 同時に、以前ランのパートナーであるセレーネの言葉を思い出した。

 トライスター社が開発したオリジナル世代のモビル・モービル……アルとセレーネには、もう一人姉妹がいる。トライスターの名が示すように、彼女らは三姉妹なのだ。

 ふむ、と唸って足元のエアボードを蹴り上げカケルは手にする。


「ま、今はまだわからないことだらけか……ありがとう、リョウヤ」

「水臭ぇなあ、いいってことよ。……わかれば、でも……バトルするのか」

「気になるからね。走りだけででもぶつかってみたいよ。バトルも求められるなら」

「お前さあ、死なないでくれよ。あと、死んでくれないと思ってくれる人もいると思ってくれ。走り屋のお遊びは真空の宇宙に飛び出した瞬間、ガチの殺し合いになるからな」


 それだけ言うと、アルクとじゃれあいながらリョウヤは歩き出した。

 それを無言でうなずいて、カケルも平和な日常たる学校に入ってゆく。

 深まる謎の中ででも、以前にセレーネに言われた言葉を思い出す。アルとセレーネは三人姉妹、三人目の妹がいるらしい。

 それが激突を意味すると思うと、カケルは身震いに凍る自分を抱きしめるのだった。

- TIPS -


・シュペリオンGX-ZspecⅡ

馬力を半分に下げた反面、サイドカーが追加された。

ただ、このパワー低下はリミッターによるものである。

また。サイドカーが追加されたのでお出かけに便利。

ただし、モビルモードの時にこのサイドカーは――

なんにせよ、小さなバイク・フレームの強化パーツである。

サイドカーには一応、真空地域でのシールド展開機能はある。

まあでも、ランの横に乗るなら宇宙服は必須だろう。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ