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ルナティックGT!  作者: 長物守
ACT.03「ウキウキ黄金週間」
25/27

休暇は終わりぬ

初夏、楽しい黄金週間の休暇が終る……


待っているのは、いつもの退屈な日々と、アルバイト。


学生としての勉強もそうだし、しばらく祝日のない日が並ぶ。


それでも、忘れない……この一拍、この休日の思い出を。


そしてまたカケルは走り出す……いつか地球を走る日を夢見て!

 その朝は少し寝坊して、コテージを清掃して荷物をまとめた。

 楽しい時間はあっという間で、これからリージョン横浜に帰るのだ。

 カケルも荷物をリョウヤの車に積み込んでゆく。遅めの朝ごはんはどこかのサービスエリアに寄るとして、今日も初夏の(まぶ)しさにふと青空を見上げる。


「カケル君? これも積んでくださるかしら」

「ああ、ランねえ。こっちに」


 改めて見ると、リョウヤのTVGヴィクトールは本当にいい。古い車だがボディにヤレも感じないし、馬力も低いがしっかり遊べる車に仕上がっている。それに、内装にも拘っていて、リョウヤが大事にしているのが伝わってくるのだ。


「……こういう車も悪くなくてよ。ね、カケル君」

「うん。スピードとバトルだけがモビル・モービルじゃないんだ」


 気付けば隣に来ていたランが、車内へ目を細めて肘を抱く。

 頭一つくらい背の高いランだが、女性特有の優美な曲線が大きさを感じさせない。局部的にふくよかすぎるのだが、彼女はクスリと笑った。


「この本革シート、正規品じゃいわ。どこかのショップでリョウヤ君が買ったんでしょ」

「へえ、そういうのわかるの?」

「私、クーペ・フレームやセダン・フレームが苦手なの。……車内が窮屈(きゅうくつ)なんですもの。でも、このヴィクトールはいい車ね。私が乗っても車内が広く感じるもの」

「あ、そうか。それって」


 そっとシート下を覗き見て、カケルは驚く。

 ほんの少しだけ、シートの設置位置が低い。前後の位置もノーマルとはかなり違う。僅か数センチでも、ランのような長身の人間には感覚が違って見えるという。

 三列シーターのワンボックス・フレームでも、最後部座席はラン専用にも見えた。


「こういうのもチューニングっていうのかしらね」

「走りを求めず、快適さと……あと、高級感?」

「カラオケとかも積んでるんですものね。遊びの車としてはレベル高いわ」

「本人はまたバイトでお金貯めて、デカいウーハーも積みたいって」


 クスクスとランが笑った。

 いかにもリョウヤらしい。

 このヴィクトールは遅いし、エンジンも100ps出てればいい方だろう。古い型の中古車だし、モビルモードでも脚が生えるだけである。

 だが、間違いなくいい車だ。

 速い車に強い車、それとは別のベクトルでいい車なのだ。


「おーい、お二人さん。掃除は終わったぜ? って、なんだよ人の車見てニヤニヤしやがって」


 リョウヤがアルクとアルを連れてやってきた。

 最後の荷物を積むと、ヘヘヘとまんざらでもない笑顔である。


「イカすだろ? 俺の、俺だけの愛車。さ、乗った乗った!」


 こうして皆は思い出だけを残して、車上の人になった。

 朝のラジオはゴールデンウィークの混雑を静かに伝えてくる。(なぎさ)の海風に洗われながら、リョウヤはナビをいじりつつ海岸線を走る。

 今日も暑くなりそうで、リージョン湘南の海は輝いていた。

 波間にはもう、サーフィンを楽しむ男女が大勢見える。その海沿いの下道をゆっくり流しながら、リョウヤは上機嫌でハンドルを握っていた。


「あーあ、もう一泊くらいしたかったなあ。でも、昨日はお姉ちゃんと話せてよかった」

「そうね、アルク。私も妹の新しい一面を見ましたわて……ホラー映画が駄目なのね」

「おねーちゃんだってそうじゃん!」

「わ、わわ、私は平気でしてよ。ふふ、こういう女子会的なの、またしましょうね」

「うんっ!」

「あと、少しは勉強も見てあげないと……モビモビばっかりいじってては卒業できなくてよ?」

「ギクッ! ……はぁい、勉学にもはげみまーす」


 また少し、キラウラ姉妹は距離が縮まったみたいだ。

 心なしか、バックミラーの上に座るセレーネも楽しそうである。純粋に自分のマスターが笑顔なのが嬉しいのだろう。そのセレーネの妹だが、アルはぼんやりと海を眺めていた。

 その横顔がどこか寂しげで、しかし口元に浮かぶ小さな笑みが普段の無感情を払拭する。


「マスター、またこういう機会を持てたら素敵ですね」

「だね」

「決めました。わたしもアルバイトというものをしてみたいと思います。猫として家でのんびり過ごすのもいいのですが、お母様には見つからないようにシフトを組めば」


 意外な決意宣言だった。

 車内の誰もが驚いた。

 だが、フンス! と鼻息も荒く、アルは両の手の拳を握った。


「ネットで現在の人類の経済状況は把握しました。わたしも一個単位の労働力として賃金を稼ぐことが可能です。それに、多くの人間に接すれば、失われた記憶が刺激されるかと」

「そっか、でも約束して。危ない仕事だけはしないでね」

「マスターやリョウヤのような接客業を希望します」

「まあ、僕は本当は厨房の人手として雇われてるんだけどね」


 いつもの喫茶コロナではもう、バイトの人手は足りている。普通にファミリーレストランとか書店とかもいいし、アルならなんでも器用にこなすだろう。

 突然の勤労意欲を励起させたアルはしかし、妙なことを言い出した。


「わたしの……オリュオーン911-TSの性能をより向上させたいのです。マスターの走りについていける、どもまでも要求を満たせるマシーンにわたしはなりたい」


 カケルはちょっと困惑した。

 確かに今、オリュオーンは規制のオーパーセンテージギリギリ、たまに違反レベルでパワーが湧き出る本物のオリジナル世代モビル・モービルだ。逆に、最新のパーツを買って組み込めば、ほどほどに抑えて乗りやすく、より速く強いモビル・モービルになるだろう。

 だが、今は亡き父親のことが脳裏を過った。

 優しい父だったし、母との関係は蜜月としか思えぬものだった。

 同時に、伝説の走り屋と呼ばれた存在だったらしい。

 母を夜の街で働かせて、その金と自分の稼ぎで車をチューニングしていたのだ。


「……アル、気持ちは嬉しいけど……僕はそのお金は受け取れないよ」

「なぜですか? オリュオーンはわたし自身です。わたしはあの子のエンジンです」

「それでもだよ。じゃあ、例えばさ……タイジさんとか一流の走り屋って、女の子の貢いだお金で走ってるのかな? 僕は違うと思う」


 うんうんと運転席のリョウヤが頷く。

 横浜リージョン最強のムーンランナー、チーム『ヴァルハラ』の頭を張る男、タイジ。彼の昼の顔を誰も知らない。チームの仲間でさえもそうだし、雑誌のインタビューなどを受けても彼は本職を語らなかった。

 だが、自分の車は自分の稼ぎで強化する。

 ただでさえ難しいロータリーエンジンのRDX-7サイファーは、莫大な改造費を要求してくるはずだ。タキオン粒子の燃費も悪いし、さりとて彼が大金持ちの息子だという話も聞かない。

 そして、カケルにとってはその謎自体が答えだ。


「僕の車は、アルのことは僕のバイト代でなんとかする」

「そ、それにほらっ! チューニングはアタシが担当するから、なんならタダで」

「それもダメだよ、アルク。お金をもらうということは、仕事に責任を持つこと。だから、いくら幼馴染でもタダ働きは受け入れられない。僕が払いたいんだ、代価を」


 自分の車は自分の手だけで維持する。

 シングルマザーである母親のリョウカに頼ったこともないし、バイトで貯めた金だけで以前車を買った。それがバトルでスクラップになって、それでも生き残ったカケルはもう降りれない……勝ちも負けもない勝負の世界から降りられないのだ。

 最高のモビル・モービルを得た今、夢への一歩を大きく前進した。

 夢を叶えるためにオリュオーンをチューンする、その手段は父親と別の選択をしたかった。


「なあ、アルちゃん。ちょっと考え方、変えてみぃ?」

「は、はあ、リョウヤ。ですがわたしは」

「今回の一泊旅行、楽しかっただろ?」

「はいっ! とても、凄く、とても凄い愉悦でした。やすらぎを得ました。でも」

「それでいいのヨ。カケルと、あとできれば俺たちともまた、こういう時間を過ごそうぜ。そのために働いて、車の自分にじゃなくて、アルちゃん本人に使う金を稼ぐのさ」


 隣の助手席に座るカケルは、時々リョウヤが凄く大人に見えることがある。ナンパ大好き、美人に目がない軽薄さを気取っているが、いつもリョウヤの言うことは正直だった。言葉にも行動にも嘘がない。

 そんな親友が優しくバックミラーのアルに微笑む。


「次は夏休みかなあ? 別地区、エウロパ方面とかアメリカ、南アジア地区もいいよなあ。またみんなで遊ぼうぜ。そういうの、アルちゃんは嫌かい?」

否定(ネガティブ)! 否定です! わたしは、そうですか……自分のために働いていいんですね」

「それをカケルは望んでるし、俺たちも稼ぐしよ。キラウラ姉妹は実家が太い、加えて兄の方は脚も太いからよ。うまくいけばまた、夏休みに一緒に遊べるぜえ!」


 最後列の自分専用シートからランが「誰が大根脚(だいこんあし)ですってぇ!」と身を乗り出したが、本気の怒りではなかった。どこか儚げで小柄な妹アルクと違って、ランは長身痩躯ながら筋肉美に彩られたアスリート体系かつ巨乳美少女だった。

 ファンタジーRPGなら、ビキニアーマーで大剣振り回してそうな女の子なのである。


「大丈夫だって、ランねえさあ! 需要あるから、需要! 俺は趣味じゃないけどな!」

「リョウヤ君? 私だって、貴方みたいなチャラチャラした男子は御免(ごめん)でしてよ」

「うっひょー、手厳しい! ……でもま、またこういう時間が持て……大人になっても持ち続けていたいよなあ」


 リョウヤはへらりと笑ってアクセルを踏む。車は全員を乗せたまま、ハイウェイへのゲートをくぐって加速するのだった。


- TIPS -


・ヒロインたちの秘密のスペック

アル:身長160cm、体重48Kg、B84、W54、H88

アルク:身長148cm、体重44kg、B78、W55、H80

ラン:身長192cm、体重62kg、B108、W65、H98

ミサキ:身長170cm、体重???、B92、W58、H94

リョウカ:身長162cm、体重70、B88、W68、H96

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