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ルナティックGT!  作者: 長物守
ACT.03「ウキウキ黄金週間」
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23/28

手を抜くな、手加減は匙加減

 そんなこんなでお昼のバーベキューを楽しみ、午後も思う存分に遊んだカケルたち。彼らがシャワーを浴びて着替える頃には、ビーチに真っ赤な夕日が沈んでいた。

 そして今、一同は今夜の宿に移動していた。


「あら、なかなかいいコテージじゃない」

「リョウヤ、やるじゃん! 任せて安心、すっごい素敵!」

「おうおうもっと褒めて! 俺を褒めて! 褒められて伸びるタイプだから、俺!」


 全てを仕切ってアレコレ動いてくれたリョウヤが、今夜予約したのはコテージタイプの宿泊施設だった。大広間を中心に個室がいくつかあって、カーテンをあければテラスの向こうにまだ夕焼けが燃えている。

 夕食は自分たちで調理する予定で、食材もすでに買い揃えていた。


「よし、んじゃやるか! カケル」

「いいね。そういうわけでランねえたちは散歩でもしてきなよ」


 リョウヤもカケルも、バイト先の喫茶マロンでは厨房(ちゅうぼう)に立つ人間でもある。今日の献立は海戦サラダにきまぐれパスタ、冷製スープのポタージュをそえて、といった感じだろうか。

 そして、リョウヤの気持ちをカケルは知っていた。

 思い知っていたのである。


「マスター、手伝いへの参加を表明します。わたしにもできる作業はないでしょうか」


 アルの気軽な親切心に、戦慄が走る。

 アイコンタクトでリョウヤと頷き合いながら、カケルは笑顔で振り返った。


「大丈夫だよ、アル。心配しないでゆっくりやすんでて」

「休むほどの疲労がありません」

「いや、最終的に城下町まで作ったでしょ、風雲セレーネ城。ま、ここは任せてよ」

「そうですか……では、休息を取ります」


 ホッとした。

 リョウヤも肩をすくめる。

 苦笑のやりとりはしかし、それでは終らなかった。


「オーッホッホッホ! そういうことでしたら手伝いましてよ!」

「カケル―、アタシも手伝う!」

「我も微力ながら助力してしんぜようぞ」


 最悪の事態が発生した。

 ランは料理に関わってはいけないタイプの人間、それは幼馴染(おさななじみ)の幼少期から身に染みて知っていた。力こそがパワー! という調理方針で、酷い料理が爆誕(ばくたん)してしまう。一報でアルクはというと、鍋やフライパンをひっくり返し、皿は割るわグラスは墜とすわで仕事ばかり増やしてくれる女の子である。

 もちろん、セレーネについては未知数だが、身体のサイズ的に無理があった。


「大丈夫! あ、そうだカケル! 冷たい麦茶が冷蔵庫にあるぜ!」

「そ、そうだね、くつろいでてランねえ。アルクも、アルもセレーネさんも」

「さあさあ、お嬢さん方はリビングでゆっくり過ごして!」

「もうちょっと待ってね、バイトで鍛えた料理の腕を見せるから」


 やばかった。

 今一瞬、食中毒レベルの災害が目の前を通り過ぎた。

 女性陣はしぶしぶリビングに引き上げていったが、それでいい。リョウヤとなら勝手知ったるなんとやら、バイト先でのコンビネーションで何でも料理できる。

 昼はたらふく肉を食べたから、夜は軽めにして、夜更かし用の夜食も準備する。

 手際よくリョウヤがパスタのソースを作り始めたので、カケルもジャガイモの皮を剥く。リビングからは相変わらず、女の子の姦しい声が聴こえていた。三人寄れば姦しいが、プラスして小さな小さなセレーネも一緒である。

 ただ、キラウラ姉妹が以前の仲を取り戻しているのがカケルは嬉しかった。


「えー? お姉ちゃんまさか、格ゲーでアタシに挑戦するつもりい?」

「備え付けのプレイステーション20を起動確認、コントローラーをアルクに」

「調子くれてるんじゃありませんわよ、アルク……たかがゲームで私が負けるなんて」

「なんじゃ、随分クラシカルなゲームじゃのう。ふむふむ、KOF0078とな」


 どうやら施設にあるテレビの前で、ゲームを始めたらしい。

 その間にテキパキとカケルは、リョウヤと作業をこなしてゆく。正直、料理は好きだ。朝帰りの母親に朝食を用意することもあったし、一人でもなにかしら冷蔵庫の中身でなんでもこなせた。

 料理は少し、モビル・モービルの運転に似ている。

 確たる技術と、完成されたレシピ。

 その両輪にどれだけ熱を込められるか。

 精神論では上達はありえないが、精神的な強さは常に求められていた。


「あっ、汚いですわ! 私の妹ながら。なんて汚い!」

「今のが定番の空中コンボだよー、お姉ちゃん。あっと、はいここは投げ」

「ラン、プレイヤー同士の力量差が顕著(けんちょ)です。わたしの評価ではアルク69に対して、ラン31です。倍近い技量差があるように思われますが」

「言うな言うな、アルや。そういうならお主もプレイしてみよ。結構難しい格闘ゲームじゃぞ」


 どうやらリビングでは盛り上がっているらしい。

 因みにアルクは、そのKOF0078なる格闘ゲームでは、リージョン横浜のゲームセンター中で恐れられるほどの凄腕プレイヤーである。姉が相手で手を抜いてても、どうしても染み付いたゲーマーの反応が出てしまうらしい。

 一報で、成績優秀、スポーツ万能なランが唯一苦手なのがこの手のゲームだった。

 自然と頬が緩むが、手を止めずにカケルはリョウヤと視線で笑みを交わす。


「アルクは手加減が下手だからなあ。俺もいつも、対戦ボッコボコにされるぜ」

「リョウヤもそれなりにやりこんでるのにね、あのゲーム」

「そこんとこいくと、カケル……お前も得意だろ? でもって、手加減が上手い」

「手加減? いやそんな」

「お前、俺には必ず1ラウンドくれるじゃん? ()()()()()()()()()()……俺は嫌じゃないし、ゲームなんだから楽しくやらないとな」

「ガチバトルは? プロのゲーマーももう珍しい仕事じゃないけど」

「俺は普通に会社入って普通に稼いで、週休二日制で女の子と楽しく過ごしたいだけサ」

「……だね。その時僕はでも……多分、まだ走ってる。ずっと、走ってく」

「お前はそれでいいさ。ただ、帰る場所があること、稼ぐ場所を大事にするこった」


 こういう時、割り切って車に接しているリョウヤが大人に見える。

 そう、本当におかしいのはカケルの方なのだ。公道を300km前後で駆け抜け、リージョンという名のドーム都市を出た月面ではルール無用のロボットバトル……これはもう、正気の沙汰(さた)ではない。

 それでも、カケルを胸の奥から追い立てる情熱がある。

 いつか、地球を走りたい。

 そのために今、月面最速のムーンランナーに憧れていた。


「投げハメですわ、それくらいは私でも知ってますの!」

「だから、小技で固まってるからだって。ジャンプとかでコマンド投げは避けれるよー?」

「はっ、そうでしたわ。フフフ、ここは冷静に反撃でしてよラン=キラウラ。って、打撃ィ!」

「いや、ジャンプしたら対空するでしょ。お姉ちゃん下手過ぎ。せめて、見てから避けれる技は避けようよ。ガチャガチャやってちゃ勝てないし、ガード一辺倒だと崩されるし」


 リビングは白熱している。

 その間にリョウヤはチーズの香るパスタソースを作り終え、ついに麺を茹で始める。カケルも海鮮サラダを完成させ、冷製スープを冷やすかたわらリビングに向かった。

 そこには、地獄が広がっていた。


「ラン、そこは反撃に4フレームの優位性があります。慎重にコンボを」

「んまー、アル! うっさいでしてよ! ムギー!」

「お姉ちゃん……学校のみんなが見たら即死レベルの顔してるよ。学園のマドンナなんでしょ? っと、そういう大振りな技の隙にバリューなコンボを差し込むっと」

「ラン、我は見ておれんぞ。あれだけの運転をするムーンランナーが……まあ、よきかなよきかな」


 グラスの麦茶をガブ飲みしながら、ランは懸命に戦っていた。だが、カケルから見ると全くアルクに対して優位に立てていない。キャラ同士の相性もあるのだが、手を抜く……というか、手加減しているアルクが中途半端なので、結局ランが負けるのだ。

 ――手抜きは手加減とは違う。

 アルクが様々なキャラを使う中、ランはずっと学ラン姿の主人公を使っていた。


「ランねえ、別のキャラも使ってみたら? アルクも、起き攻めとかえぐいの加減してあげて。あと、アルやセレーネにも遊ばせてあげてね」


 テーブルを拭いて、巨大なサラダボウルを中心に添える。カニとエビとがぷりっぷりの、海藻もたっぷりのシーフードサラダだ。実は、そんなに面倒でも難しくもないメニューだが、うまみのコスパは最高という手間のかからない御馳走である。


「カケル君、いいの! このゲーム、この子が一番格好いいもの! ……ちょっと、その、ほら、あれでしょ? ……ごにょごにょ、もにょ、カケル君に似てるし」

「ではラン、わたしがプレイヤーを代わります。アルク、宜しくお願いしますです」


 アルがコントローラーを握った。

 しかも、かわいい顔して人気も微妙な仮面キャラを選ぶ。もちろん、強さも微妙、評判も微妙、どちらかというとネタキャラと言われている極限流のミス・カラテだ。

 大昔のシリーズでは最強キャラの筆頭らしかったが、それも今は昔の話である。


「ははーん、選手交代だね! かかってきなさーい、アル!」

「宜しくお願いします、アルク。ふむ、操作系のデータを確認、把握……行きます」

『こんのぉ! カラテ超アッパー! ダブルォ! カラテ虎煌拳! 覇王翔吼拳! 余裕ッチ!』

「ちょっと待って、アル……」

「はい?」

「ひょっとしてさ、そ、その……やり込んでる?」

「いえ、見たままに隙へ最大効率のダメージを叩き込んでるだけです」

「見える……? 小足(こあし)とか?」

「屈み弱キックを刻まれても、その先に反撃チャンスが見えていました」


 そんなこんなでゲーム大会はお開きになり、楽しい夕食の時間が訪れる。手抜きと手加減……カケルはこの言葉を胸に刻んで、今は友人たちとの楽しい時間を選んだ。ただ、手加減というものに一定のリスペクト、侮辱ではない感情が宿っていることを知れたのはリョウヤのおかげなのだった。

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