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ルナティックGT!  作者: 長物守
ACT.03「ウキウキ黄金週間」
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21/28

渚にて

一足お先に真夏へダッシュ!


ようこそ、常夏のリージョン湘南へ!


さあ、これから始まる初夏のバカンス……


少女の恋は実るのか?


それともまだまだ幼馴染か?

 スイッチ一つで、全ての窓がスモーク色に黒く(けむ)る。そんな細やかな仕様も搭載されているのが、リョウヤのTVGヴィクトールなのである。そして、その中では今女性陣が水着に着替え中なのだった。

 そう、リージョン湘南は常夏(とこなつ)の街。

 いつもいつでも海水浴が楽しめるドーム都市なのだった。


「なあなあ、カケル! アルちゃんはどんな水着かなあ。楽しみだなあ、ウヒヒヒ!」


 リョウヤという男、どこまでも果てしなく自分に正直な少年だった。彼もカケルもすでに着替えを終えているが、ビーチパラソルや浮き輪を持って待機中である。

 空は青く、硝子(ガラス)の天井だと思えないくらいだ。

 海もまた青く、循環した人口の海水だとは感じられない。

 本当に、これが人類の最後の楽園(ユートピア)

 何十もの隔壁の向こうは、灰色の真空、宇宙と月面が広がっているのだ。


「なんか、よくわからないから母さんの学生時代のを拝借してきたんだ」

「お、そうなの? お前さあ、新しい水着くらい買ってやりなさいよ」

「だって、我が家じゃ猫だよ? ……あ、でもネコチュールなら買ったかな」

「そういうとこなんだよ、カケル。ま、今日は一緒にナンパと繰り出そうじゃない!」

「いやぁ、アルクやランねえを放っておけないし。一人でどうぞ、リュウヤ君?」


 軽妙なやり取りをしつつ、互いに肘で小突きあう。

 カケルにも浮ついた気持ちがあって、少しはしゃいでしまう。

 そんなこんなで小芝居を続けてると、背後でヴィクトールのドアが開いた。


「お待たせなのだわ。あら、いい風……絶好の海水浴日和ですわね」

「ってかさあ、カケル! アルの水着! これはないでしょ、これは!」

「マスター、問題はありません」


 女性陣のおでました。

 なお、パタパタと飛んでるセレーネが全裸なのは、このさい見なかったことにする。周囲もまあ、そういう趣味の悪いドローンだと思ってもらえればそれでいい。

 それにしても、三者三様に可憐でキュートな水着姿が並んでいた。


「ほら、カケル君。こうしてパレオをつければ義足も目立たなくてよ?」

「う、うん、そうだね」


 ランは真っ赤なビキニに白いパレオで義足を隠している。逆に、割れた腹筋や左足の太ましさは隠す気もなくむしろ誇らしげだ。胸も水着から零れ落ちそうである。

 なにからなにまでデカい女、それがラン=キラウラという少女だった。


「えへへ、カケルッ! ついでにリョウヤも。ア、アタシはどうかな? 似合う?」

「俺はついでかよっ!」

「うん、とっても似合ってるよ。可愛いね」


 アルクは姉とは真逆にフラットな矮躯(わいく)だが、それだけにフリフリのついた黄色いワンピースが凄く似合っていた。まるで、御伽噺に出てくるお姫様みたいな感じだ。

 だが、そんなアルクが思い出したように眉根を釣り上げる。


「それよりカケルッ! アルのこれはなにさ!」

「なにさ、って……あ、サイズ合わなかった?」

「そうじゃないの! もうっ、そういうとこなんだよ、カケル!」


 アルクはプンスコと怒りもあらわにアルを押し出す。

 そのアルも、濃紺色(ディープブルー)の水着を着ていた。ワンピースで過度な露出もなく、ランのようなハイレグでもない。

 そして、胸には『3-2 ハセガワ』と大きく書いてある。

 そう、俗にいう女学生の水着、()()()()()()だ。


「なんでこんなの着せるのよっ!」

「あれ、まずかったかな」

「まずいってもんじゃないわ、何世紀前の遺物(いぶつ)よ!」

「えっと、母さんのだから……20年くらい前? 物持ちいいよね」

「ちっ、がーう! そういう話じゃないの、そもそもどうしてスクール水着なのよ!」


 リョウヤがさりげなく「しかも、旧スク水だなこれ」と小さくこぼす。

 当のアル本人は、なにごともなかったようにセレーネを連れて海へと歩き出した。それを一同で追えば、アルクの口調はヒートアップしてゆく。


「この際、おば様がなんでって話はおいといて……こういうマニアックなのが好きなの? え、カケルって変態さんなの?」

「ちょ、ちょっと意味がわからないよ、アルク」

「何百年も前に絶滅したと思ってた……漫画とかでしか見たことないもん」

「そ、そうなんだ。なんか、悪いことしちゃった?」

「しちゃった! やらかした! ねえ、お姉ちゃんもなんとかいってよ!」


 だが、ランはどこまでもマイペースにビーチパラソルを広げて、夏の日差しに目を細める。本日快晴、渚には無数の観光客が行き来していた。

 早速リョウヤが、にやけた目元をサングラスで隠す。


「スク水の話はもういいじゃんかよ。カケルにそゆとこ期待すんなって」

「だけどさぁ、アルがかわいそう」

「そのアルだけど、どうだあれ。表情こそ真顔だが楽しく遊んでるんじゃねえの?」


 アルは姉のセレーネに言われて、砂遊びを始めていた。どうやら、お城を作るらしい。いつもの無表情なのだが、せっせと手を動かす姿はとても愛らしい。


「タキオン粒子生命体って、日焼けしないのかしら。あ、カケル君? 日焼け止め、塗ってくださる?」

「え? ああ、うん」

「そーゆーのは自分でやって、お姉ちゃん! ほらカケルッ、準備運動して! 今日はたっぷり泳ぐんだから」


 ビーチチェアを広げて、どうやらランは砂浜での余暇を楽しむようだ。仮義足が恐らく、耐水性の低いものなのだろう。それに、ちゃんとした義足じゃないと綺麗に泳げないのかもしれない。

 そんなことを考えているともう、リョウヤの姿は消えていた。

 ナイスバディな二人組の少女に話しかける姿が、人混みの中へかすかに見える。本当に好きなんだなあと感心してると、ガシッ! とアルクが腕に抱き着いてくる。


「カケル、さ。アタシとじゃ……嫌?」

「え、なんで? それより準備運動は大事だね。……久しぶりに勝負、する?」

「うんっ! じゃあ、あそこの小島ね! 速くついた方がジュースおごられるの!」

「OK、その勝負のった」


 よく身体をほぐしてストレッチ、アルクと手と手を取って互いを引っ張り引き延ばす。

 幼馴染(おさななじみ)の二人は、昔はよく保護者に付き添われてリージョン湘南に来たものだ。水遊びはいつからか水泳対決になり、ビーチバレーなどでもここではライバルだったのだ。

 こうして、二人はならんで波打ち際に並ぶ。


「ふふーん、カケルはひょろくてちょろいから楽勝かな」

「確かに……運動はあんまし得意じゃないんだよね。アルクは水の抵抗がない身体だし、ハードウェアの面でも、っ、痛っ!」

「ふんだ! カケルのばーか! おっさきー!」

「あ、ずるいよアルク!」


 ミドルキックをカケルの尻に叩き込んで、初夏の海に飛び込んでゆくアルク。

 その姿がどんどん小さくなってゆく。

 急いでカケルも追いかければ、人工太陽の熱が肌から瞬時に引きはがされた。ひんやり冷たい海水の気持ちよさが、全身に馴染むように全身を躍動させる。

 アルクの小ぶりなお尻が見えてきて、カケルは本気のクロールでギアを上げた。

 が、アルクの方が早い。


「パワーウェイトレシオの差、かな。あと、海流の抵抗」


 どこまでもモビル・モービル脳なカケルだったが、本気を出してもなかなかアルクに追いつかない。

 そう、カケルはどちらかといえば運動音痴、身体を動かすのは苦手な方だった。

 だからこそ、モビル・モービルに憧れた。

 走りには体力がいるが、体格や筋力はあまり関係ない。

 咄嗟(とっさ)の判断力、諦めない精神力……そしてどこまでもクールでクレバーに魂を燃やすこと。これがバトルでは大事だと知ってから、カケルは夢中になったのだ。


「ぷはっ、やったー! 一等賞!」

「負けた……あの小さな身体のどこにこんなパワーが」

「あ、いま小さいって言った? 胸が小さいって言ったでしょ!」

「違うよ、全体的に小さい……い、いや、なんでもない」

「もー、カケル! ほんっ、とぉ、にっ! そういうとこなんだからね!」


 とんとんとカケルの胸板を拳でアルクが叩いてくる。

 見下ろす距離で立ち泳ぎするアルクは、やっぱり小さくて……でも、なんだか小動物みたいでかわいいなと思ってしまった。

 カケルの視線に気づいたアルクは、突然固まり耳まで赤くなる。


「あ、えと……結構泳いだ、よね?」

「うん、1kmはあったかな」

「砂浜の騒ぎも聴こえないね」

「ああ」

「二人、きり、だね」


 カケルは黙ってうなずいた。

 なんだか、妙にしおらしくて神妙なアルクが不思議で、そしていつもよりかわいくみえる。妹のような存在だと思っていたけど、同じ年の女の子なんだと思い知らされた。

 そして、鈍いカケルはようやく気付いた。

 アルクが、そっと身を寄せてくるので気付けた。

 これはもしや、恋というものではないだろうかと。


「あ、あのさ、アルク」

「う、うん」

「いつも、僕の隣に乗ってくれてありがとう。車の仕上がりはいつも完璧だよ」

「え、あ、ええと、うん……それって、相棒? ってこと?」

「決して欠かせない、ね。本気のバトルじゃ隣に誰も乗せない、そう思ってたけど、その……今は、もうちょっとだけ……相棒として隣にいてほしいんだ」


 一瞬アルクは見開く瞳に星々をちりばめたが、やれやれと溜め息をつく。でも、呆れてカケルから離れつつも、その顔には自然な笑みが浮かんでいた。


「ま、今はそれでいっか。おーし、カケルの財布で豪遊だーっ!」

「あ、ちょっと待って! またフライング!」


 こうして二人は、連れだって再びビーチへ泳いで引き返す。

 まだまだ日は高くて、黄金週間は始まったばかりだった。

- TIPS -


・海水循環機構

各リージョンの中には、海が大半を占めるドーム都市もある。

この海水は大昔、地球から回収したものが使われていた。

生態系ごと移植され、それが百年以上も循環しているのだ。

ある程度人工的に制御され、常に清潔に保たれている。

しかしそれはもう、自然とは言えない……人類はもう、海を知らない。

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