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ルナティックGT!  作者: 長物守
ACT.03「ウキウキ黄金週間」
20/27

爆走!ヴィクトールinセレーネ!

『モビル・モービル』、それは旧大戦に使用された可変ロボットの総称である。

月面開発では建設土木の分野に広く普及したが、『モビル・モービル』による犯罪も急増。

機動警察は『特務装脚車パトロールモビル・モービル中隊』を新設してこれに対抗した。

通称、『パトモービル』の誕生である!

 ご機嫌な音楽にハミングを重ねて、安全運転で車はハイウェイを走る。楽し気に歌うアルクの笑顔が、車内の空気を完全にカラオケボックスにしていた。

 しかも、リョウヤのこのTVGヴィクトールには実際にカラオケが搭載されている。

 マイクを握るアルクが踊れるくらいには、広い車内は快適だ。

 そしてエアゲートを通り抜け、ハイウェイは漆黒の宇宙に飛び出す。


「っと、始まっちまったか……渋滞だぜ」


 リョウヤが大げさに、アチャーと顔を手で覆う。流石(さすが)は連休初日、どこへ続く道も多くのモビル・モービルでぎっしりと埋まっていた。

 中には、モビルモードに変形して道を降りる者までいる。

 トラックやバス等の大型車にはできない芸当だった。

 もちろん、大型のトレーラーには貨物を積載するための変形パワーアームなどは搭載されている。しかし、基本的にモビル・モービルはスポーツモデルでもなければ完全な戦闘隊形への変形は実装されていない。


「ショートカットすっか! みんな、ちょっとシートベルト締めてくれよ」

「えっ? このモビモビ、変形するの!?」

「あったり前だろ? 走りの車じゃないが、こういう時のためのモビルモードだぜ!」


 そう言ってリョウヤは、天井のレバーを掴んで大きく押し込む。

 すると、微動に震えたヴィクトールが立ち上がった。

 そう、立った。

 ――ヴィクトール、月面に立つ。

 単に、()()()()()()()()()()()()()()()()。そのまま二足歩行でテクテクとヴィクトールはハイウェイをおりる。

 ちょっと変形? とも言えないようなつつましいモビルモードに、カケルも皆もずっこけた。


「ちょっとリョウヤー! アタシ、めちゃ恥ずかしい……格好悪い!」

「脚が生えただけですわ、これ。ふふ、でもちょっとかわいいかしらん?」


 そう、タイヤがたたまれ、二本の脚が生えた。

 そのまま呑気にヴィクトールをリョウヤはハンドルで運転してゆく。高架の上の渋滞を横目に、エッホエッホと懸命に走り出した。

 これもまた、モビルモードといえばモビルモードだ。

 非武装だが、ちゃんと悪路を踏破するための脚部は安定感がある。搭載されたオートバランサーのおかげで揺れも少ないし、ダンパー系はリョウヤが自分でいじっているから安心感もあった。

 そう、リョウヤはなぜか足回りのチューンだけは得意なのだ。

 ただ、技術に裏付けられた数字的な良さではなく、ただの勘である。


「マスター、リージョン湘南まであと30kmです」

「だってさ、リョウヤ。メーター読みでどれくらい出てる?」

「常に安全第一、時速60kmくらいかなあ」

「へえ、二足素行でもそれくらいは出るかあ」


 周囲には、他にも何台かのモビル・モービルがモビルモードで走っている。高性能な機体などは、宇宙の空を飛んでいた。

 夜は戦場となる、月の海。

 灰色の大地は常に、モビル・モービル同士のバトルが頻発する闘技場だった。

 だが、黄金週間の朝は静かなものである。

 誰もが皆、休日を満喫するために走っているのだから。

 それでも、無粋な連中から通信が入った。


『よーし、エンジョイ勢のお前らぁ! 止まれ止まれぇ!』

『こっから先は、GW名物バトルロイヤルの区画であーる!』

『チーム"パズス"が仕切ってるこのイベント、邪魔はさせねえ!』

『大きく迂回するか、ハイウェイの渋滞に戻るんだな! もしくは――』


 標準的なカービン銃で武装した、モビル・モービルの一団が行く手を遮った。

 チーム"パズス"の名は、カケルはよく知っている。ラフプレー上等の荒っぽいバトルで、走りよりもモビルモードでの戦闘に特化したチームだ。

 当然だが、タイジの"ヴァルハラ"とはライバル関係にある。

 というより、"パズス"が勝手にライバル視しているだけだが。


「どーすっかなぁ、カケル」

「周りの車も戸惑ってるね。少し様子を見よう」


 背後のアルクやアル、ランもセレーネも頷いた。

 思わぬ足止めで、回線の中を苛立つ声が行き交う。


『はぁ? 通行料を払えだぁ? 何様だお前ら!』

『おい、通報しちまおうぜ。機動警察(きどうけいさつ)の出番だろこれ』

『うわ、待ち合わせの時間に遅れちまう! 遠恋になって初めてのデートなのに!』

『つーか、飛んでけばいっか。そら、出力全開っ!』


 一機のモビル・モービルが宙へと舞い上がった。

 だが、その瞬間にカービンから火線が走る。

 問答無用で撃墜されたその機体は、大破炎上こそしなかったものの行動不能になってしまった。ざわめきと文句の応酬が静まり返って、再び銃口がカケルたちに向けられる。


『さあさあ! ああなりたくなかったら選べ! 金を払うか迂回するか、それとも渋滞で時間を無駄にするか!』


 リージョンを出た月面の世界は、モノクロームの戦場。ルール無用のバトルが繰り広げられる場所と知って、それに納得できるものだけがモビルモードで駆け抜けるのだ。

 カケルは、この暴挙に心の中で後悔をつぶやく。

 自分の愛車で……オリュオーン911-TSで来てれば、戦闘で排除することもやぶさかではない。周囲には先に進むため、武器を構える機体もチラホラ見えたが……このヴィクトールは非武装の街乗り車だった。


「……なんじゃ、腹が立つ奴らじゃのう」


 不意に、カケルとリョウヤの間に光が走った。

 それは、(はね)を震わせ浮かぶセレーネだ。アルと同じタキオン粒子生命体なのだが、彼女はすでに水着姿で準備万端といった様子だ。このサイズの水着があるなんて驚きだが、手のひらサイズの妖精は腕組みフムフムと唸る。


愚妹(ぐまい)よ、見ているがよい! 我らタキオン粒子生命体の……真の力を」

「メモリ復旧率、14%。機能の大半が思い出せません、セレーネ姉様」

「フン、まあよい。リョウヤとやら、運転を任せるぞよ? (われ)が補佐してやろう」


 そう言うなり、セレーネはすっと車体の中へと沈んで消えた。

 同時に、カーナビの上に立体映像として現れる。

 これはアルもエンジンになった時と一緒だったが、すでにヴィクトールには頼りないながらもタキオン粒子エンジンが搭載されている。2Lの直列(ちょくれつ)四輝筒(よんきとう)……そのパワーが突然跳ね上がる。


『よし、同調完了。踏めっ!』

「いや、踏めって……死んじゃうぜ、蜂の巣だ」

『そうはならん。我がいわばタービンとして排輝(はいき)を循環させる。軽く通常の三倍のパワーがでるぞよ? あとはリョウヤ、貴様の運転次第ぞ』

「あーもぉ、なんだよ! 遊ぶ時間も減っちまうしな……反対の奴、いる? いねーよなぁ!」


 突然、ヴィクトールが全力で地を蹴った。

 脚の生えたバンが、不自然なほどのスピードで飛ぶように馳せる。

 明らかにパワーが段違いだったし、クラシカルなメーター類はどれも針が降り切れていた。先ほどとはうって変わって、爆走し始めた車体が振動に揺れる。まるでミキサーの中に放り込まれたようで、カケルはしっかりと手近なてすりを両手で握った。

 アルクはアルに抱き着き悲鳴をあげている。

 ランだけが冷静に足を組み替え余裕の腕組みだ。


「うおおお、このパワーとスピード! こんなん俺の車じゃねええええ」

『いいから回避運動! 撃ってくるぞよ!』

「もぉやけくそだあ! みんな、しっかり掴まってろよ!」

『愚妹も手伝わせれば、ツインターボでさらにパワーが出せるんじゃが』


 ヴィクトールが走った。

 文字通り、両足でガッチョンガッチョン走った。猛ダッシュである。

 その影を()うように、チーム"パズス"の連中が砲火を集中させる。

 しまいにはミサイルまで飛んできたが、リョウヤの運転はキレッキレに冴えていた。本人が半分キレてるのもあるが、モビルモードでの足回りのセッティングも見事である。

 急激にパワーアップしたエンジンの力を、しっかり月面の大地に伝えている。

 半端なモビル・モービルなら、こんなことをすれば自壊してしまうだろう。


「よしっ、リージョン湘南が見えてきた! ……って、あれは!?」

『ふう、逃げ切ったようじゃな。我は疲れた、ここで同調を解くぞよ』


 すっとセレーネが再び浮かび上がる。

 その本人がランのもとに戻ると、スピードが緩やかに落ちてハイウェイに復帰した。

 そして、すれ違いにモノクロームのモビル・モービルがサイレンを響かせ変形する。赤い回転灯の光に撫でられ、目を細めつつカケルは見た。


「あれが……機動警察、通称()()()()()()か」


 そう、それは全区画に存在する警察機構。戦争も軍隊もなくなった月面世界での、法と秩序の守護神だった。

 車種はすぐにはわからなかったが、白黒の機体は人の姿に変形するや銃を抜いた。

 手にしているのは、リボルバータイプのハンドガンである。


『こちら機動警察! そこの暴走モビル・モービル、今すぐ変形を解いて止まりなさい!』


 女の声だった。

 女の子という年代の声音である。

 いかにも正義の味方といった雰囲気の、ヒロイックなモビルモードが身構えた。


『やべぇ、機動警察だ! どうする兄貴ぃ!』

『なーに、ここはリージョン内とは違う……情け無用の月面だぜ!』

『相手は一機、やっちまえ!』


 だが、機動警察は単騎でチーム"パズス"を圧倒し始めた。恐るべき手並み、公権力ゆえの圧倒的な性能差。ハイトーンの排輝音が遠ざかる。

 こうしてカケルたちは、なんとかリージョン湘南のエアゲートをくぐるのだった。

- TIPS -


・機動警察

月面に移住して地区ごとにリージョンで暮らす現在の地球人類。

戦争をするだけの余裕がない世界で、軍隊は消滅してしまった。

それに代わって治安維持や犯罪防止に動くのが機動警察である。

機動警察は特殊チューンのモビル・モービルを装備している。

そう、通称『パトモービル』である!

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