【51】起死回生の一手
「ん……?」
「あら起きた?プリンセス。体調とご機嫌はいかがかしら?」
アーネリカが薄く目を開けた。僕の治療を終え、そしてアーネリカの解毒に取り掛かっていた先生は笑顔でそう呼びかける。
おそらくまだ本調子ではないであろう頭に再起動をかけているアーネリカは、だいぶポヤポヤした口調で確認の質問を投げかける。
「ベラちゃん……です……?」
「そうよぉ〜!!もうあなた、ほんっとうに素直なんだから。可愛いわねぇお菓子いる?」
愛おしさが天元突破したらしい先生がアーネリカを抱きしめて頭を撫でる。
撫でられている間もポヤポヤだったアーネリカだが、30秒くらい経って頭が完全に覚醒したらしい。
抱きしめる先生から力技で脱出し、足元に転がっている相棒を持ち直して状況を確認し始める。
「黒龍は……っ!?」
「はじめて見る美人さんが戦闘中よ」
「お母様!?」
現在進行系で、黒龍とバチバチにやり合っている糸目になるほどの微笑みを崩さない美女。
ローザドーロさんの補助を一身に受けているであろう彼女の体捌きは、ただでさえ化け物じみて感じられた先程よりも更に洗練されていた。
「あらやっぱり肉親なの」
「行かなきゃ」
「はーい、アーネリカ。ステーイ」
ハルバードと爪の激突現場に突っ込もうとしとしだしたアーネリカを後ろから抱きつくことで沈静化を試みる。
思い切り振り払われたのでその勢いで床に転がった。
あっさり足止めが振り払われたことに驚いたのか、こちらを振り返ったアーネリカ。
ぶつける事だけは回避した頭を掻いている僕を見て、一気に頭がクールダウンしたらしい。慌ててこちらに駆け寄ってきた。
「リツヤさん。良かった……ご無事でしたか」
「うん、無事無事。お陰様で」
無事ではある。黒龍にやられた腹の傷は、先生のご厚意でアーネリカの毒より前に快癒済みである。だから僕が致命傷に近い負傷をしたことを彼女は知らない。
どちらかというと、先程の振り払いで頭を守れないときのほうが、無事じゃなくなりそうだった。
「ワッッルイ男ねぇ」
しれっと負傷を隠蔽したことに、先生からの苦情が飛んだ気がする。しかし謹んで無視させていただく。無駄に悲しませる必要性はない。
「アーネリカ、落ち着いて」
「でもですね、お母様が」
「気持ちはわかるけどね。どのみち毒攻略しなきゃどうしょうもないでしょ?」
「う」
一度クールダウンした頭である。それなら理論で話せば通じるだろう。
案の定正論を聞いて停止したアーネリカ。その頭を撫でて宥めながら、更に落ち着かせるべく言葉を続ける。
「お母さんの時間稼ぎだって有限でしょう?」
「……はい」
「お腹減ったよね。考えながらとりあえず、なにか……」
お母さんの方に視線を送り、あるものが視界に映ってしまった。
話している途中で急停止した僕の様子を不思議に思ったらしく、アーネリカが首を傾げている。
「リツヤさん?」
「……食べ、て……」
現状がまるで他人事のように見える。急激に回転しだした頭は、一つの結論をひたすらに訴えてきていた。
ぶつぶつと、唇から調理方法が溢れだす。まるで誰かに導かれているように、『いける』という確信が頭を占拠してしかたない。
「おい、どうしたリツヤ」
今現在、戦闘中のお母さんをバックアップするために全力で補助魔法を飛ばしまくっているローザドーロさん。
そんな彼が、余裕がないのであろう、肩で息をしながらこちらを見る。
いつもならそこで質問に応える。しかし今は、下手に彼の意見を聞くよりも、アーネリカに直接聞いておきたかった。
「ねぇアーネリカ」
「はい?」
「僕のこと、信じてくれる?」
「はい」
「即答かぁ」
「はいっ!!」
「元気いっぱぁい……」
『いける』という確信は現在進行系であるし、これしかないとも思っている。
けれどアーネリカは普通のお嬢さんで、下手な方法に巻き込むのもどうかという葛藤が無いわけではなかった。
ただ彼女の真っ直ぐで元気な返答が、その葛藤と迷いを吹き飛ばしてくれた。
なので、思い切り頭を振って切り替えてから、例の提案を口にする。
「ならアーネリカ。取ってきてほしいものがあるんだけど、もう動ける?」
「はい。何を持ってきますか?」
「尻尾」
「はぇ」
「黒龍の尻尾」
「尻尾……は!?お前まさか」
案の定な反応に苦笑いが浮かぶ。僕もどうかと思う。
でも他にないと思うので、半ばヤケクソ気味に、叫ぶように言い切った。
「食べます!!」
「「えぇえええええ!?」」




