【46】絶望しかない情報収集
「ただいま冒険者ギルド!!」
雪山で万年雪を譲り受けてから、僕たちは下山の苦労を全てペェちゃんに押し付け室内でぬくぬくしていた。
それでも寒いもんは寒い。暖炉で正面は温まっても、背面がじんわりと、しかし恐ろしい速度で冷えてゆく。ケバブのようにクルクルしながらひたすら耐え、町に帰り着いたときの第一声が上記である。
「おかえり常温!!」
この感動、一度の絶叫では抑えきれなかった。
次の情報収集を兼ねて帰ってきた冒険者ギルド、その室内を適温に保つだけの魔法に感動して3人揃ってちょっと涙ぐむ。
「なぁあいつら何があったんだ?」
「雪山行ってきたんだって」
不審に思いつつも、まずは状況確認から入ってくれるのは冒険者の皆様の良いところである。
彼らは敵の攻撃でラリッたり絶望したり、急に強い武器が手に入って天狗になっている冒険者を見慣れている。
つまりこの程度の奇行は日常茶飯事、割と冷静に対処してくれる。
「あーそれで……なぁスープいるか?」
「要ります」
「そうかそうか、飲め飲め」
「新人にベテランが奢っちゃる」
こちとら寒いところに行ってきたばかりの人間、体の芯まで冷え切っている。温かいスープは正直、今何よりも欲しい。
冒険者ギルドの横に建てられた食事処から鍋丸ごとスープを買ってきてくれたおじ様達が輝いて見える。
「ベーコン増量してあげようね」
「肉団子も入れてやろう」
「あ、ソーセージあるよ。一本ずつお食べ」
取り敢えずそんだけ頑張ったんなら肉を食え、という精神がここにはある。
我も我もと冒険者の皆さまが寄ってきて、スープの中にどんどこ具が投下されていく。
胃に優しいはずの野菜スープが、気づけば肉マシマシの食べ応え抜群スープに成り代わっていた。
「ペェにもやって大丈夫かー?」
「人の……やさしさ……沁みる……」
割と気を張っていたので、雪山にいる間はまぁ大丈夫だった。
一度気が緩むと体感、精神的な温かさがとてつもなくありがたく感じる。
三人揃って黙り込み、ただ温かさを噛み締めながら差し出されたスープを飲み続ける。
アーネリカが鍋ひとつ丸々完食するのは皆様織り込み済みだったらしく、鍋が空になったら笑顔で回収してくれた。
食べ終わってから、今度は巨大な紙を囲む。
端に書かれた材料名。虹色茸、溶岩結晶、万年雪に丸が付けられており、残っているのは黒龍の逆鱗。
「次が最後ですね」
「黒龍の逆鱗……だよね」
「先に言っておく。妻が討伐しきれなかった龍だ」
「それは、お母さん単騎で……?」
アーネリカのお母さん。今現在圧倒的武力を見せつけてくれている、アーネリカよりもさらに強い人。
つまるところ純然たる化物破壊力の持ち主である。
その人が討伐しきれなかった。その情報を聞く限りただの絶望だが、バッファーが居なかった、という情報が加わればまだワンチャンスあるかもしれない。
バフデバフは大事なのだ、大抵のゲームでもサポーターは重要である。そうまだ可能性は……
「いや、俺も全力を出した。そのうえで敗走した」
「終わりじゃないですかヤダーーーッ!?」
お話を聞く限り向かうところ敵無しだったお二人揃って無理だった。イコール詰みである。
どうしろというのだ。確かに頭数は多いけど。一人と一匹ほど多いけれど。数え方が匹の方は兎も角、人の方はお世辞にも戦力として数えられないというのに。
「交渉でなんとかならないでしょうか……」
「アーネリカ。逆鱗なんだよ取りに行くの。ジャパニーズ・トラディショナルテールでは触っただけで怒り狂うと名高い部位をぶんどりに行くの。僕たちは」
『逆鱗に触れる』という言葉が存在するレベルでアンタッチャブルな物体を奪いに行くのだ。
逆鱗ください、のげの字を言う前にシンプル物理的に首が飛ぶ。
「戦闘は必至、ですね」
「お母さんとお父さん二人が敗走した相手に、買ったうえで剥ぎ取りしなきゃいけないと…………ああもう周りの人がお通夜ムードになってるじゃないですか!!」
自分で言っていても思ったが、普通に無理ゲーである。でも線香を立て始めるのはやめてほしい。まだ死んでないし縁起でもない
「まあ最低限の情報があるだけマシだな」
「あ、そっか経験者……!!弱みを突けばなにかあるかもしれないし、さて特徴は?」
ギミックボス的な何かかもしれない……あるいは某懐怪物の種族値みたいに、どこかを極限まで切り詰めた性能してる可能性もある。例えば攻撃力馬鹿高いけど装甲が紙同然とか。
「毒持ち、剛力、堅牢堅固」
「ラスボスか何かかな?」
「立ち位置的には近いな」
蜘蛛の糸、という絵本を思い出していた。希望をちらつかせた後に助かる道を潰された人間はこんな気持ちになるのか。なるほど一撃で絶望できる。
「武器防具の更新でなんとかなる……とも言えないな。アーネリカが主力だが、これ以上の武器はそうそうない」
「それはまぁ、今までで痛感しておりますよハイ」
武器屋も見てそれは痛感している。アーネリカは自分の体格より遥かに大きいハルバードをぶん回す。
しかも切れ味抜群であるにもかかわらず、文字通り『押し切れる』ように刃の厚さも相当だ。彼女の戦い方に、今以上にあった武器……というのはあまりにも無理がある。
「勝ち目は戦って見つけ出すしかないだろうな。一応漁ったが……」
ドサドサドサッ、と大量の本が眼の前に置かれる。その大量の本のあちこちに栞が挟まれているので、その全てに目を通しているのだろう。
ローザドーロさんは苦い顔をしながらそのうち一つを開いて、僕の眼前に突き出した。
「軒並みこの通りだ」
「要約、ナンカスゴイツヨイ」
「リツヤさん目から光が消えてます」
まあお母さんが倒せなかった龍、という時点で薄っすらそんな気はしていた。
情報がないのである。ヤベエ、強え、近づくな、近づいたんなら神に祈れ。そんな有って無いような内容が、表現を変え長さを変えて書かれているだけである。
「正直、トライアンドエラーで弱みを探していくほか無いかもしれん」
「迷っている時間も、そうないと思いますし……」
「仕方ないね。乗りかかった船、最後まで搭乗しきってみせようか」




