【45】万年雪、確保
「はいどんどん」
一刀両断。
「はいじゃんじゃん」
三つまとめて空中で一閃。
「はいどんどん」
これで綺麗に薪になってるんだから凄いものである。
説明が不足していたと思うので補足。
こちらが差し出せる対価。どんな場所でもまず需要がなくなることはない圧倒的な対価。それ即ち労働力である。
なので今現在僕たちは薪割りを遂行していた。シンプル肉体労働、大変なものだからこそ対価たりうる。
「いや速い速い!!」
アーネリカが割りに割りまくった薪をひたすら保管所に積み上げていた雪ん子の皆様が悲鳴を上げる。
さながらバケツリレーのような速度……というか素直にわんこそばテンポで薪を割っているので、一つ渡す頃には三つ滞っているという工場の加工レーンならランプ点灯と停止ひっきりなしの状態になっていた。
「頑張ってください若い衆の皆様」
「おいこっち滞ってるぞ」
「ほら魔王がお待ちですよ」
「誰だ魔王が誰が」
雪ん子の皆様が精神的に成熟している、とわかっていたローザドーロさんは『人員を貸してほしい』と提案していた。
薪割りを労働対価として差し出すとは行ったものの、3人だとできることに限界がある。たとえ子どもの体躯外見であろうと、単純作業ならできるだろうと雪ん子を借りたわけである。
なお雪女郎さんたちは普通に多忙であり、そんな彼女たちに追加で肉体労働お願いしますとは口が裂けても言えそうになかった。
そして現在貸し出された雪ん子たちは、労働魔王ローザドーロの管轄化で人生初の重労働に阿鼻叫喚しているわけである。
「ナゴリさんこちら終わりましたが次ありますかー」
「ひぇ」
「あ、あちらにまだの木材が」
「あ、はーい。すみません誰か持ってきていただいても……あ婦人会の皆さんありがとうございます。はいどんどん」
手持ちの木材が尽きそうだったので、誰かに持ってきてもらおうかと顔を上げる。
すると眼の前に木材が差し出された。次から次へと手の届く範囲に木材が置かれ始める。
雪女郎の皆さんが、梅おにぎりとお茶のついでに持ってきてくれたらしい。素直に感謝して受け取れば、ふんわりと微笑まれた。
「あとどれくらいだー?」
「えーとですね、ひぃふうみ……」
新しく積まれた木材を数え、ついでに持ってきてくれた雪女郎さんにも目配せで確認をする。首を横に振られたので、これで終わりで間違いないらしい。
「あと一時間あれば終わりますー!!」
「了解した。ホラ動け悪ガキ共!!安心しろ持てるようにバフはかけてやる」
「鬼ィ!!」
「悪魔!!」
「魔王!!」
「よしまだ元気だな休憩無しで行くぞー」
「「「「ギャーーーース!?」」」」
元気な悲鳴が鳴り響いている。あの人に暴言を投げかけたらより惨事が待っているとわからないあたりビギナーだ。
「…………愚かな」
「リツヤさん?」
「なんでもないヨー」
「なぜカタコトに」
◇
その後一時間ほど頑張ったあと、村長宅へ歩いていく。
「ナゴリさん終わりましたー」
「はっや」
「ナゴリさんキャラブレが」
「これで万年雪とつり合いますか?」
一応僕らがいた方を見つめるナゴリさん。ちなみに遠方からでも『ああ、あそこにありますね』とわかる程度には積み上がっている。
分かりきっていたらしく、うむとひとつ頷いて、ナゴリさんはどこかに向かって歩き始めた。
「ですな。ついて来てください」
「そういえば万年雪の生成方法?って知らないままここまで」
「お父さん知ってます?」
「だれが義父だ」
「言ってない言ってない」
「まあ俺も知らんな、確かに。文献にも無かった」
「そうでしょうなぁ」
からから、と笑ったナゴリさんが、ある民家の戸を叩く。出てきた老婦人の手には、梅干しでも漬けていそうな壺が抱えられていた。
「万年雪は溶けぬ氷」
開かれたその壺の中には、小指の先ほどの大きさの雪の結晶が、だいたい半分ほど入っている。
「我々にとって氷は幸せの象徴なのですよ」
ふと後ろを見れば、恐らく血縁であろう皆様が穏やかに、そしてとても幸せそうに日常を過ごしていた。
ごく一般的な、だけれどとても尊い、幸せな家庭にお邪魔しているのだとふと思った。
「年に一度、大晦日。一年幸せだったのだと、心から思えた家庭の屋根に万年雪は現れます」
「自然発生する幸せの証明、それが万年雪と」
「貰っても、良いのでしょうか?」
きっと壺の中の万年雪は、年に一度のひと粒を毎年集め続けていた結果なのだろう。
雪ん子と雪女郎は長命だ。きっと壺一つ満たすくらいの年月は余裕で生きる。けれど問題はそこではない。
幸せの証明、思い出の痕跡でもあるわけだ。そんな大切なものを、一つとは言えたかだか労働力を差し出した程度で受け取っていいのか、という疑問が3人の間で同時に生まれていた。
「あなた方もこれを貰って幸せになってくださいな」
先の疑問を振り払うように、壺を持っていた老婦人がアーネリカの手のひらに万年雪を一片乗せて、そう言いながら握らせた。
万年雪を譲り受けたアーネリカは、溶けないとわかっていても不安になるほどしっかりとそれを握りしめて、老婦人に勢いよく頭を下げる。
「ありがとう、ございます!!」
万年雪、確保である。




