【47】目指すはドラゴンキラー
文献にあった場所に来るだけ来てみたところ、台座のような岩の上で、丸まって眠っている龍の姿があった。
黒龍と聞いていただけあり、全身が黒い鱗に覆われている。流石に反射しないほどの黒、というわけではなく、うっすらと反射光が見て取れる。
それでも圧倒的な巨躯、明らかに強ボスの部類である。普通に戦いたくはない。
「改めて、あれが赤目の暗黒龍だ」
「片割れに世界に4枚しかないタイプの青目の白い龍いたりします?」
「居ないがどうした」
「ナンデモナイデスー」
ちょっと期待してしまった。決闘をシームレスに『デュエル』と読んでしまうジャパニーズカルチャーの影響恐るべしである。
「毒……だが補助である程度は無効化できる。ただ蓄積はする。戦線離脱は常に視野に」
「あ、これやっぱり毒持ちですか」
「お前の基準は壊れていることを再認識しろ?」
「ひどーい」
黒龍の呼気は薄っすら紫色に色づいており、それが一定範囲で円を描くように滞留している。
フロアエフェクトに近い感覚になっているのだろうか、まあどのみち戦闘中に毒の対策は必要になるだろう。
初見の毒のはずだが、本能的に『あれは問題ではない』と判断している。この世界のいろいろな毒を摂取してきた副作用だろうか。
「アーネリカ、補助をかけるぞ」
「お願いしますお父様」
ローザドーロさんの頬の入れ墨が赤く光り始めた。
人差し指と中指を唇に少し当ててから、光る入れ墨に指を這わせてそのまま指パッチンをする。
イケメン以外がやったら大惨事になりそうなその一連の動きの後、アーネリカに謎のベールのようなものが覆いかぶさって消えた。どうやらこれが毒対策の補助魔術であるらしい。
「お前はペェの……いや、ペェも戦うやもしれん。隅っこで震えてろ」
「了解です隠れます」
ペェちゃんの『目から破壊光線』もダメージソースになる可能性が大いにある。
特に戦力不足が透けて見えているこの状況、使えるダメージソースは常に使える状態にしておくべきなのは間違いない。
そして戦闘に参加する場合があるなら、僕がペェちゃんの背中にある家に避難するのはただ邪魔になる可能性が大だ。
それなら何にもないところに身を潜めておくことが全体的に考えてもプラスになるはずだ。
「良し。お前の仕事を見間違うな。これは役立たずではない」
「お気遣いありがとうございます。アーネリカも気をつけて」
「はい。周りまで気を配れるとは思いません。リツヤさんもどうか気をつけて」
「うん」
アーネリカの視界から僕が消えた。完全に戦闘モードに切り替わったらしい彼女の背中を見つめてから、僕はペェちゃんの方へ歩を進めた。
やる気に満ち溢れフスフスと鼻息荒くなりながら足踏みしているペェちゃんの腹あたりに手を添えると、『なぁに?』と言わんばかりに首を傾げながらこちらを見つめてくる。
チョコレートボンボンを彷彿とさせるツヤツヤした目を見つめながらもう少し撫でる。満足したのか、頭に軽く噛みつかれる。ずいぶん懐かれた気がする。
「ペェちゃんごめん!!調理器具出させて」
「ンゴペェ」
「あっそのサイズでも吐き出し出来るんだ……」
地面に置かれた大量の調理器具をまとめて抱え、ある程度離れた草むらの中に身を屈めて隠れる。
己を落ち着かせるように、アーネリカは数度肩が動くほど深く深呼吸をして、まるで縋るようにハルバードを抜き去る。
「アーネリカ・ベルツォーネ。参ります!!」
アーネリカの声に反応して、うっすらと黒龍が目を開ける。
しかしその目に映るより先に、アーネリカは跳躍。
そしてそのまま、跳躍と落下の勢いすべてを乗せた一撃が黒龍の首に叩き込まれた。




