【43】最強娘復活
「……ここが」
「雪女郎の村、か。華美ではない。しかし丁寧で美しい村だな」
「機能美ですね」
ところどころに散見される家屋は合掌造りに近い構造、未知も舗装というよりは極限まで踏みならされて出来た道。
しかして無造作なわけではなく、雪の滑りに対する対策や雪下ろしに適した溝などが散りばめられた、日々をつつがなく過ごすことに特化した村がそこにあった。
そこを野菜やら何やら持って歩く人々は揃って浴衣と見紛うほど薄い和服であり、ハイブランドの高性能オーダーメイド防寒具で身を固めているとはいえ、着ぶくれパンパンの僕たちとはものの見事に正反対になっていた。
まあ向こうからすれば「えぇ?」と思うような服装をしているのはこちらなわけで、ものすごーーーく遠巻きに見られている。
それでも距離がじわじわと縮まってきているのは、多分ローザドーロさんの顔面ありきなのだろう。美人の吸引力たるやダイソン級である。
「はじめまして、お嬢さん」
ローザドーロさんが、ニッコリと距離の詰まってきていた女性陣に微笑みかける。
それが決定打だったらしく、ふらふらと誘蛾灯に惹かれるように近寄ってきてきた雪女郎。その一人の手を取って、彼は王子と見紛うような挨拶をした。
「私、ローザドーロ・ベルツォーネと申します。【万年雪】について相談したいことがあって参りました」
「旅のお方?」
「はい」
雪女郎さん、目が完全にハートである。それでもなんとか頭を振って正気に戻った彼女の眼の前に、ベッドで眠らせていたはずのアーネリカが、文字通り『落ちてきた』。
「……」
「アーネリカ!?駄目だよ外に出たら!!せめて安静に……」
「待って」
ペェちゃんの背中から這ってきたであろうアーネリカの額に、雪女郎の手が添えられる。
焼けているのではないかと思うほどの音を発したあと、雪女郎はアーネリカを背負って何処かへ向かって歩き出した。
「こちらへ。ついてきてください」
◇
雪女郎に連れられて行き着いた先は、村の中央にある家。他の家と二段階、いや3段階くらい豪華度の違う家である。
(明らかに村長とかそういうレベルの方のお家では)
もはや威圧感があるように思えるその家の最奥に通され、おっかなびっくり待つ。
すると、ひとりの雪女郎が現れた。ただ、若々しく見えはするものの、他のものより年がいっているらしい。目の縁や口端の皺が、ほんの少しだけ深いのがわかる。
そしてそれと同時に確信した。この人おえらいさんである。
「ようこそ、旅のお方」
「はじめまして。私はローザドーロ・ベルツォーネと申します。こちらは娘のアーネリカ・ベルツォーネ。このような体勢で失礼します」
さすが商人、こういった場には慣れているらしい。
このまま自分の存在感を消してしまいたいが……推定村長さんと目があった。どうやらそれは許されないらしい。
「お気になさるな、旅のお方。もとはと言えばうちの村民がしでかした無礼ゆえ」
「はじめまして。隼律也……ああ。リツヤ・ハヤブサ、かな?と申します」
「はじめまして。村長のナゴリと申します」
やっぱり村長さんであった。帰りたい。ローザドーロさんだけでなんとかならないだろうか。
「この度は、村民がとんでもないことをした。許していただけるとは思っていない。が、慈悲をいただけないだろうか」
「え」
いきなり村長さんが土下座した。完全に予想外だったので二人揃って固まってしまう。
しかしその間にも、村長さんは言葉を続けていた。
「この老骨と、先の三人の首だけで許しては頂けないだろうか」
「ちょ待」
「せめて子どもだけは……」
「落ち着いてください。私は、少なくとも今はただ『相談と交渉』をしに来たのです」
うろたえる僕とは雲泥の差、落ち着かせ顔を上げさせたローザドーロさんは、商人と父親、半々の顔のまま交渉を始めようとして、
「万年雪の売買と、娘の治療を」
「……は?」
もののの見事に失敗したらしかった。さて無茶振りであったか、とまたまた二人揃って頭を抱えそうになったその時に、ポカンとした顔で村長さんが問うてくる。
「それ、だけ?本当にそれだけで良いのか?」
『セーーーーフ!!』という声が聞こえてくる勢いでローザドーロさんが神速のガッツポーズをする。
速すぎて見えなかったらしい村長さんに、何食わぬ顔、かつ全部知ってましたよといわんばかりの態度で彼は会話を続けた。
「勿論。これがあなた方の総意でないことなど分かりきっている」
「喜んで。今治療を行おう。若い衆をここへ」
パンパンッ、と手を叩けば、待っていたかのように襖の間から雪女郎が次々出てくる。
そのままするすると円を描くように並んだ彼女らは、舞踊に使うであろう扇子を取り出した。
「お嬢さんを中央にお連れしてもよろしいか。少し空間が欲しい」
「よろしくお願いします」
アーネリカを円の中央に。そして僕らは部屋の隅に。すると、円を時計回りに動かすように、雪女郎が踊りながら歩き始めた。
その踊りは美しく、畳の上とは思えない幻想的な光景が繰り広げられる。
それが十分続くか続かないか、という頃に、円の中央に寝かされていたアーネリカが目を開けた。
「え、と……?」




