【42】容赦がない奴と情容赦がない父
「お父さーーーん」
「おおリツヤ、よく戻…………」
諸々が終わったので、ペェちゃんの方に手を振りながら歩み寄る。すると玄関先に待機していたらしいローザドーロさんが、見惚れるほど美しい微笑みをたたえて出迎えてくれた、が。
「何したお前」
こちらを見るなりそう言った。視線は僕の後ろに追従している雪ん子に向けられている。
「平和的にお話し合いを」
「雪ん子の目から軒並み光が消えているが」
「事実って時に何よりも残酷な刃になり得ますよねー」
そう、本当に話しただけだ。
彼らがアドバンテージだと思っていた、外見に反して精神が成熟していること。
そしてそれをコンプレックスに思っている反面。
結果ただただ人に迷惑をかけることしかできていない現状。
それら半ば当てずっぽうとはいえ無遠慮に暴き、彼らの心の準備ができる前に全部を列挙して容赦なく責め立てた。
その後も説教大会である。逆鱗に触れるどころか剥ぎ取るような時間をしっかり二時間味わってもらった。感覚的には中学時代の黒歴史を掘り起こされた上に、仮に『崩壊の漆黒黙示録』とか自作のアイタタタな物品を作っていたら、それを目の前で延々朗読されているようなものだ。
まあ地獄だったろう。目からハイライトが消えるもやむなしである。
「犯罪は犯してないな?」
「強いて言うなら事実陳列罪ですかね?」
「……お前たち何したんだ?」
僕に聞いてもはぐらかされると判断したローザドーロさんが、雪ん子に向けて問う。
しかし僕よりも更に内容を喋るわけにはいかない三人は、プイとあらぬ方を向いてしまった。
「ところで、結局どうなった」
「雪女郎たちの集落まで先導してくれるそうですよ。……ねぇ?」
振り返って問えば、ブンブンと必死に頷く。
その様を見てウム、と満足げに頷いたローザドーロさんは顎を撫でてから言葉を繋げた。
「そうか。で、それも大事だが熱の方はどうだ。話がついたのだろう」
「治せないそうです」
「は?」
満足げな顔が一転、驚きに染まり……そして、ストンと表情がなくなった。半分くらい同情……というか憐れみの温かい視線を向けていた雪ん子に、絶対零度の視線が突き刺さる。
これはヤバいと本能的に察知した三人が、僕に助けを乞うような視線を向けてきた。しかし事実は事実、容赦なく追い打ちとなる情報を開示する。
「発症はさせられても治せないそうです」
「クソか?」
「お父さんお口が悪いです」
だが気持ちは痛いほどわかるので制止は口だけだ。
長い脚で雪ん子との距離を散歩で消し飛ばした彼は、ガッと優雅さの欠片もないヤンキー座りで彼らと視線を合わせ、そしてそのうち二人の頭を大きな手で掴んだ。
「人の娘を苦しめておいて治すすべを持ってない?そうかそうか責任のとり方というものを教えてやろう」
ギギギギギ、と人体からなってはいけない部類の鈍い音を伴いながら、褐色の指が雪ん子の頭皮にめり込んでいく。
高圧的を飛び越えて、いっそ妖艶な微笑みをたたえた彼の頬で、薔薇の入れ墨が金色に発光している。
「俺でも補助魔術すべてを乗せればお前の脊椎を損傷させるくらいは出来るぞ」
アーネリカと比べてしまって忘れがちだが、彼も一般男性より少し上程度の筋力を持っている。
その上で、身体能力やら何やらを約50倍近く跳ね上げる、超がつくレベルの補助魔法の使い手である。
己の筋力を50倍に跳ね上げられるならば、日本人男性の平均握力があると仮定して、50キロを50倍、大体250キロまでは握力が跳ね上げられるということだ。普通に人間の限界を超えている。
「まあここで捻り潰してもなんの進展もしないですから。取り敢えず連れて行ってもらいましょう?」
「……それも、そうか」
「ここで嘘をついたらどうなるか、もう分かるね?」
ガクガクと残像が見えるほどの速さで頷く3人の背を押せば、震えながら歩き始めた。小声で何かを話して、薄ら笑いを浮かべているあたり性根はまだ治っていないらしい。
「お前割と容赦ないな」
「アーネリカが見てないのに善人ぶる理由がどこにありますか?」
「……まあそれもそうか」
三人の方を一瞥したローザドーロさんは、薄ら笑いをしっかり見咎め、そしてゆっくりとペェちゃんの方に近寄った。
「まあアレだ。ここで嘘つけば、俺もリツヤも貴様らを許さん。そして誰よりペェが許さん」
彼がそう言ってペェちゃんを撫でた瞬間に、雪ん子三人の背後で光が爆発する。
慌てて振り向いた彼らの目に写ったのは、破壊光線の光球を生成した状態で彼らの方を見つめるペェちゃんの姿。
「さあ先導を始めろ」
僕より容赦のない人がそこには居た。




