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旅の拠点は亀の上!怪力少女と毒スキル持ち青年の魔物ごはん  作者: 時雨笠ミコト


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【40】対悪ガキの接し方

「あのー!!」


 アーネリカが雪ん子に向けて声を張り上げる。

 しかし彼女の声が聞こえているはずの彼らは、クスクスと笑いながらも一切こちらに応じる気配を見せない。

 それどころか、こちらがしっかりと目視しようとすると視界を切るようにして避けてくる。

 

「これは意図的に避けられてるねぇ」

「しかも意図的に視界かすめてきてますね」

「煽りスキル高いなぁ」

「つまり試練!!」

「やだ考えが捻くれてない」


 これを『捕まえられるものなら捕まえてみろ』という煽りではなく、試練と捉える彼女との精神性の差が凄まじく、ちょっと恥ずかしくなってしまう。

 ウキウキニコニコと笑顔のままの彼女は、試練と認識するや否や、その場でクラウチングスタートの構えを取る。

 

「じゃあリツヤさん。私ちょっと行ってきます」

「アッ、イッテラッシャイ」


 笑顔でそう言った彼女に見送りの言葉をかけると、その姿が消えると同時に雪が舞い上がった。

 慌てて視線を移せば、アスリートさながらのきれいなフォームで走っているアーネリカの姿が映る。

 予想外すぎる健脚にビビり散らかして逃げ惑っている雪ん子に張り付くように的確に並走しながら、彼女はいつもの笑顔で話しかけ始める。

 

「すみませんお話伺いたいんですがお時間よろしいですか?」


 急に話しかけられた雪ん子はカートゥーンさながらに跳ね上がって驚き、更に全力で逃げ始める。

 

「あっ走りながらの方が良いやつでしょうか。それとも追いつくだけでは足りませんか?」


 明らかに恐れおののいて逃げ惑っている雪ん子の姿を好意的に解釈しすぎているアーネリカは、そのまま雪ん子に並走して説得を開始する。

 

「あなた方を害するつもりはないのです。ただ万年雪が必要でして。雪女郎さんに紹介をお願いしたく……」


 どれだけ足掻いてもきれいに並走してくるアーネリカに心が折れたのか、雪ん子の動きがピタリと止まる。

 唐突な停止を怪訝に思ったアーネリカが、雪ん子の顔を覗き込んだ。

 

「あの、いかがされたんですか?」


 その瞬間に、アーネリカの顔に吹雪がぶち当たる。

 口から吹雪を出した張本人である雪ん子は、先程までの恐れが一転、いたずらが成功した悪ガキさながらにケタケタと笑っている。

 

「え」


 アーネリカが、心底驚いた声を遅れて発し、そしてそのまま倒れ込む。

 

「アーネリカ!?」


 慌てて彼女に駆け寄れば、顔が真っ赤になっていた。

 ペイント等の赤みではなかったので、手袋を外して額に手を当てれば異常に熱を持っている。

 唐突な高熱。しかし体調不良の予兆はなかった。予想外の出来事に、慌てて有識者を大声で呼ぶ。


「お義父さーーーーん!!」

「明確に義父のイントネーションで呼ぶな薙ぎ倒すぞ!!」


 寒さ大嫌いなこの人を外界に引っ張り出すために、確実に反応する呼び方で叫ぶ。

 すると案の定怒り狂いながらも外に出てきてくれた。こういう時は彼のこのこだわりに感謝である。

 

「そこは聞き取れるんですねそれどころではなく!!」

「アーネリカ!!」

「動きがあまりに疾風迅雷」


 説明するより早く、なんなら僕を盛大に突き飛ばしてアーネリカを抱きかかえたローザドーロさんは、アーネリカの額と自分の額を合わせて眉をしかめる。

 突き飛ばされた衝撃で尻もちのついた結果、ものの見事に尻が雪に埋まってしまった僕は、頑張って雪の中から這い出しながら二人のもとに戻った。

 それを待っていたように、確認するようにしてローザドーロさんはこちらに呟く。

 

「雪ん子の仕業か」

「そういう能力があるんですか?」

「雪女郎は抵抗さえされなければ氷の吐息で人をも殺す。調整すれば病気を治すこともできる」


 そういえば昔話で聞いたことがあるフレーズだ。

 口から吹雪を出して当て続け、老いたベテランの猟師を氷漬けにして殺した話。そしてそれとセットになることの多い、年若い猟師の熱を吹雪で治した話。

 

「治せるならその逆も、と」

「まあ雪ん子は劣化版だが、風邪程度なら可能だろう」

「……なるほど」

 

 つまりあのケタケタ笑いは、この熱が発症するのを確信した笑いな訳で。


「お父さん」

「だから誰が…………どうした」


 いつもの軽口が返ってくるかと思いきや、ピタリと止まった。僕の顔を見て止まったので、どうやら僕は今相当酷い顔をしているらしい。

 アーネリカが意識朦朧で、良くないが良かったのかもしれない。嫌われるのは嫌なので。

 

「僕行ってきます」

「勝算は」

「あります」


 買ってもらったばかりの鞭を手に足を踏み出せば、アーネリカと違い完全にこちらを舐め腐っている雪ん子は、嘲笑うように距離を詰めてくる。

 僕が危害を加えられるとは一切思っていない挙動である。

 恐らく雪ん子と同意見なのであろうお父さんは、それでも勝算があると即答した僕を信じてくれるつもりになったらしい。

 アーネリカを担ぎ上げ、ペェちゃんの頭を借りて甲羅の上に上がった彼は、ぶっきらぼうにこう答えてくれた。

 

「分かった。行ってこい。アーネリカの片手間に看病くらいはしてやろう」

「感謝します」


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