【40】雪山(氷点下70度)
(寒さのあまり血の気が引いて)青い顔。
(雪やら霜やらの影響で)白い雲。
(他の色を隠しているので総評的に)白い雪山。
「寒ッ!?」
夏の代名詞、青い空、白い雲、白い砂浜。それとリズムだけは似ているものの、対極に位置する雪山で僕は悲鳴に近い声をあげた。
その悲鳴に対して、呆れかえったような声が返ってくる。
「当たり前だろう雪山なのだから」
「限度!!なんですか氷点下70度って!!ロシアか!!」
「私本で読みました。寒いと結構な人数の方がその例え使うそうですね。寒いのですか?ロシア」
「滅茶苦茶寒いらしい。行ったことないけどね」
どこぞのテレビ番組で、ロシアのどこかしら……たしか一番寒い村か何かが氷点下六十度か七十度になることがある……という知識だけを有している。
その時は「へぇ、そんなところに住めるなんて素晴らしいガッツと生活の知恵を持っている方々が居るものだ」とどこか他人事……いや認めよう。完全に他人事としてボケーッと見ていたのだが。
今現在、手元の高級温度計が指し示すのはほぼ最底辺。氷点下69度。一生関わることはないと思っていた気温とナイストゥーミーチューを決め込んでいる真っ最中である。
「防寒具もあるのに弱っちいことこの上ないな」
「ならペェちゃんから降りてきてください?」
そう。この呆れかえった声、横からではなく上から降り注いでいる声である。
人が寒い寒いと悲鳴を上げていることを『弱っちい』と評しているこのお方、ローザドーロ・ベルツォーネ。
実は防寒具を装備したペェちゃんの甲羅の上の家、更にその中の暖炉の真ん前で防寒具を着たうえで毛布にくるまっている。
一番温かいところで一番あったかい格好しているのである。
「断る」
「ならせめて暖炉から離れてみて頂いても?」
「断固拒否する」
「一番の寒がりさんじゃないですか」
「冷え性なのだ俺は」
「もう湯たんぽ抱えてさやえんどうの筋取ってて下さい」
「あいわかった」
「この野郎外に出なくていいと判断したときだけ良い返事しおる」
いつもなら筋取りを僕がやればいいと返してくるのだが、今回に限って嬉々として応じてきた。外に出ない大義名分が出来たからであろう。
「まあ良いけど……」
実際ローザドーロさんは冷え性である。それはもうこちらが心配になるレベルで。そんな人にいいから外に出ろとは言いづらい。
適材適所というやつだ。因みにアーネリカはモッコモコだが動きやすい格好をしている。
ちょこちょこうさぎ耳やら何やら装飾についているのは、ローザドーロさんの趣味であろう。実際可愛いので良しとする。
「え」
目当ての『万年雪』、それに関係するという雪女郎を探して雪山の中必死に視線を彷徨わせる。
そんな僕の視界の端を、なにか動くものが掠めていった。
必死に目で追いかければ、とても美しい色白、この世界では大変珍しい日本風の装いの女の子が居ることがわかった。
「あ、アーネリカ。あれって」
指をさそうにもヒラリヒラリと逃げてしまうので、必死に指を右往左往させる。
そんな僕の意図を汲んでくれたアーネリカは、ジッとその指先を追いながら雪山を見つめて、答えた。
「雪ん子ですね」
「雪女郎では、ない」
見えたのか。しかも見分けられるのか。アーネリカの視力と動体視力にちょっと引きながら、外れだったことに肩を落とす。
「はい。通説ですが雪ん子が成長すると雪女郎になるのだとか。もし事実が判明出来たなら、学会に提出すると一躍時の人です」
「どの世界も大変だな学会」
どうやらただ外れ、と言うわけでもないらしい。某懐サイズの怪物ゲームで言うところの進化前と言ったところだろうか。
「ただ厄介ですね」
「厄介?」
「はい。雪女郎さんは割と心身ともに大人な女性でして、お話が通じるんです。浮気と約束破りと理由なき侵害行為さえしなければ」
「ああ説話とかでよくあるね。言わなければ、とか浮気をしなければ、とか」
雪女郎……というか僕が知っているのは雪女だが、結構温厚な部類の妖怪であるという知識はある。
代わりに一度ブチギレさせると氷漬けにするだの舌を噛み切ってくる(勿論雪女ではなくこちらの舌である)だの、結構苛烈な仕返しが待っているというのがセットなのだが。
事前交渉ができるというだけでだいぶ話が変わってくる。ありがたい情報である。
「ただ雪ん子さんは心身ともに子供でして。しかもその子どもが特に……」
「クソガキの部類?」
「リツヤさん、オブラートってご存知です?」
「ごめん」
なるほど僕は手がかり兼、厄介事を発見してしまったらしい。
さていかがしたものか。




