【38】正面突破に限る
「よし逃げるぞリツヤ」
「アーネリカの間合いの外までお願いします」
救世主オーラバリバリで現れた彼女……まあ実際救世主ではあるのだが……彼女は、人を巻き込まずに戦うことは致命的と言って良いほど苦手である。
なので巻き込まれる前に、こちらがさっさと彼女の攻撃範囲から逃げるのが最も賢いと言えるだろう。
「当たり前だ……軽いなお前!?」
「ヤダ傷つく」
よっこいせ、と括り付けられた椅子ごと僕を担ぎ上げたローザドーロさんが信じられないものを見る目で呟いた。
そのまま部屋端まで連行される。
えっほえっほ、と僕が連行されている間にも、アーネリカを囲むようにして包囲網が完成されていた。誘拐犯たちの武器は暗殺不意打ちに特化した近距離ばかり。
アーネリカの射程内に一度飛び込まなければ、自分たちの射程にアーネリカを捉えることもできない。
「はは、格上かよ……だからって『はいそうですか』で終われるか!!」
「行くぞお前ら!!」
決意決まった誘拐犯たちは、迎撃方向を一つに絞らせないために複数方向から同時に飛びかかり……そしてほぼ同時に吹き飛ばされた。
斬撃による裂傷はない。よく見れば、アーネリカはハルバードの刃の部分を握っていた。つまり柄の部分を振り回してぶん殴ったのである。
「ご安心を、峰打ちです」
峰打ちと言った割にはえげつねぇ音が聞こえた気がするのだけれど。
具体的には『メギャア』的な粉砕骨折の音が結構鮮明に聞こえた気がするのだけれど。
まあアーネリカの本気の凪ぎであれば、普通にさっきの一撃で死んでいたと思うのでしっかりと手加減だったとは思うけれど。
「さて」
ゴトンッ、となかなか豪快な音を立てて椅子が部屋中央に置かれる。その間にアーネリカは誘拐犯をちゃっちゃか簀巻きにしていた。なお彼らは骨を粉砕骨折されたこともあり、抵抗も何もなく床に転がされていた。多分それどころではないのだろう。
「え、お父さん?」
「だれがお義父さんだ」
「改めて実家のような安心感」
もはや定型文と化しつつあるこのやり取り、改めて心が落ち着く。
僕の頭を適当にポンポン撫でてから、ローザドーロさんはそっと僕から離れていった。
「諦めろ☆」
不吉な言葉を残して。
「今凄い語尾にキラッキラのトゥウィンクルスターが見えた気がするんですゴブエァ」
椅子にくくりつけられたままの僕に、アーネリカが突進と見紛うようなスピードで駆け寄ってきてそのまま腹に彼女の頭が突き刺さる。
本人はハグのつもりらしい内蔵圧迫頭突きをなんとか耐えきると、今度は思いがほとばしったのか椅子に括り付けられた僕をそのまま振り回し始める。
「なんで誘拐なんてされちゃうんですかー!!」
「漏れる漏れる脳髄が口から」
「すっごい探したんですよ!!ものすごい!!」
「アーネリカごめんとりあえず地面においてほしい三半規管が昇天待ったなし」
「主にお父さんが!!」
「うえぷ」
「よし、そろそろ地面に下ろしてやりなさい。吐くから」
今僕は宇宙飛行士さんに全力の敬意を送っている。
だって僕には無理だから。三半規管を鍛えるとかいうあの訓練、もしかしてこれより厳しいのではなかろうか。経験したことないけど。
「まあ時間的には丁度いいだろう」
「丁度いいって?」
「オーダーメイドの防寒具ができる頃だ」




